■73. レミングの集団自殺が迷信である以上、こいつらの知能はレミング未満では!?(後)
軍隊という巨大組織は、時として前線を知らない。
人民革命国連邦軍・親衛軍集団司令部は予定通りに攻勢を発起するに至り、前線部隊に前進命令を下した。
が、これは強力な肉挽き機へ、数万トンの血肉を投入するがごとき所業にほかならない。
(自殺行為だ――)
最前線で指揮を執る核心者たちは、そう思った10秒後には五体を霧散させている。
203mm榴弾の、155mm榴弾の、120mm重迫撃砲弾から成る弾雨によって、泥濘を掻き分けて前進する機械戦車や機械化歩兵が、瞬く間に薙ぎ倒される。
彼らが誇る長砲身を備えた新型機械戦車も、その戦車砲の性能を全く活かせないまま、機械油の血と鋼鉄の肉から成る骸を晒していく。
それでも、止まらない。
止まれない。
「素晴らしいッ」
エルフ自衛隊の将兵は狂喜した。
これが我らの信奉する守護神の力。
存在するかもわからない神秘ではなく、あらゆる外敵を葬り去る圧倒的な火力。
無数の砲声と連続する地響き。
悲鳴さえ残らない。畑で採れる兵隊達は、泥の海の中にすべてを散らしていく。
最初の1時間で万単位の死傷者が出ているにもかかわらず、それでも人民革命国連邦軍・親衛軍集団司令部にまで、その実情が届かない。
届いたとしても、軍集団規模の物量ならば押し切れると踏んだかもしれないが。
(惨いものだ……)
エルフ自衛隊第1普通科連隊が篭る最前線の有蓋塹壕陣地へ、自ら志願して赴いた一向宗戦塵派の武装従軍僧は、思わず人民革命国連邦軍将兵を哀れんだ。
AKMを抱えたまま、ただ瞳を閉じる。
天地を圧す鉄火の最中を、肉弾で突っ切れるはずもなし。
日本側の砲弾が底を尽きるということはありえない、ということを武装従軍僧は知っていた。
(財務省は各省庁に凄まじいまでの砲弾消費目標量を課し、弾薬を配したことだろう)
財務省が吝嗇だったのは、約20年前の話だ。
いまや彼らは変質してしまった。
カネを後生大事にしていても、財政の均衡を保とうと努力しても、日本国民の生命を救えるわけでもなければ、日本国の命運を長らえることが出来るわけでもない。
……ましてや、敵を殺せるわけでもないのだ。
故に彼らはあの手この手でカネを集めては、内閣や各省庁の武装組織に対してその予算を使えと押しつけるようになった。
もちろん先の周辺国との戦争の際に大量製造した砲弾が、日本全国に乱立する弾薬庫に死蔵されており、その維持管理・処分に多大なカネがかかっているという合理的な都合もあることだろうが……。
実際、いま執行艦『かが』の統合司令部では、財務省主計局監察課の幹部――賀松修夢が
「きょうからきみは滝に゛な゛れ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
と絶叫していた。
意味がわからないかもしれないが、つまり彼が言いたいことはどんどん砲弾を使えということである。
「滝はいつだって途切れない。轟々と音を立てて、24時間365日ずっと常に落ち続ける。そのエネルギーはすさまじい。自然ってすごいよな。僕は滝を見ているとエネルギーがもらえるんだ。じゃあ君もほかに人にエネルギーを与えられるような、元気な滝にならないか? 砲弾を落とし続ける滝になって、誰かを励まさないか?」
……というわけだ。
「お金は、使ったらなくなっちゃうよね?
でも本当にそうなのかな。
お金を使うことで助かる人は必ずいる。
そうして助けられた人は、無限の未来と可能性を秘めているんだね。
お金で無限の未来と可能性が買えると思えば、安いと思わないかい?
そしてその無限の未来と可能性は、次のお金を生むんだ。
だからお金は使ってもなくなったわけじゃない。
人々の未来と可能性を作った上で、次のお金になるんだ!」
「……」
「もっと!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!お金!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!使えよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「……」
財務省の最も熱い男はいつもこうなので、環境省野生生物課長の鬼威は愛想笑いを浮かべながら半ば無視している。
「敵の攻撃が鈍ったら環境保全隊は第7師団を出すつもりです。総武省の戦略爆撃は……」
鬼威に話を振られた国際武力課長の木目綾子は、レジュメに目を落とすと、「2時間後ですね」と笑った。
「きょうから君も(人工)太陽だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「いや熱核兵器は使いませんよ……」
さて。
次なる一手を打とうとしている日本側と同様に、人民革命国連邦軍の側もさらなる戦力を投入しようとしていた。
それは地上部隊でもなく、航空部隊でもなく、水上部隊である。
地球における超弩級戦艦に相当する新鋭水上艦艇“勝利”と“革命”の2隻は、乗員の練度不足に起因する機関のトラブル等で、人民革命国連邦軍・親衛軍集団の攻勢開始に間に合わなかった。
が、あと4時間もすれば彼らは沿岸部に突入し、艦砲射撃のポジションにつくことが出来るはずだった。
そうなれば人民革命国連邦軍・親衛軍集団は、35センチ級砲20門による強力な支援を受けられるようになる。
……もっとも数隻の巡洋艦も引き連れて航行している以上、日本側にその行動を捕捉されないわけがない。
そして前線を射程に収めるまであと4時間――それはあまりにも長すぎる。
これに対峙する日本側だが、環境省や総武省をはじめとする各省庁は超弩級戦艦の接近をさしたる脅威だとは考えていない。
故に、人民革命国連邦軍が送り出した期待の新鋭戦艦への攻撃は、民間企業に回された。
「それではさっそくトリビアの種子を紹介しましょう。
“イモリさん、高下さん、八島さん、こんばんは。”
こんばんは。
“ぼくは戦争映画が好きなのですが先日、現代の軍隊がタイムスリップして、昔の戦艦と戦う映画を見ました。
そこで思ったのですが、昔の戦艦を実際に現代の軍隊がミサイルで攻撃したら撃沈できるのでしょうか。
それとも戦艦は分厚い鉄板でおおわれているので、撃沈できないのでしょうか。
気になって夜も眠れません。
これってトリビアの種子になりませんかね。よろしくお願いします。“
このトリビアの種子、つまりこういうことになります。
昔の戦艦は、ミサイル■発で沈む」
◇◆◇
次回、
■74.トリビアの種子No.315 昔の戦艦は、ミサイル■発で沈む。
に続きます。
2月3日(水)、更新予定です。




