■72.レミングの集団自殺が迷信である以上、こいつらの知能はレミング未満では!?(前)
総武省の背広組は総武省発足後に入省した人間を除くと、過半数が旧防衛省の背広組や民間企業からの登用者である。
政治を含めた国際戦略には通じていても、純粋な軍事的知識には少々疎い。
総武省国際戦略局国際武力課の人間は、戦略爆撃機による空爆で人民革命国連邦軍の戦闘力を完全に奪い尽くせると考えている。
が、総武省国際武力課のように後方でスイッチを押したり、絶大な武力を背景にした宣伝活動で相手を圧倒したりするのではなく、最前線で泥に塗れて戦う環境省や国土交通省といった組織の関係者は、そうは思っていなかった。
前線部隊の物資集積所は無数に存在しており、そして巧妙に隠蔽されている。
叩くべき敵地上部隊もまた、こちらの砲撃を恐れて陣地を築き、そこに篭っている。
万単位の連中が広大な範囲に滞陣している以上、それを航空攻撃だけで掘り返すのは至難の業だ。
彼らの国土も同様だ。
あまりにも広大であり、工業地帯や穀倉地帯を焼き尽くすには時間を要する。
軍需物資や工業製品の供給は不調をきたすだろうが、ゼロにはならない。
最前線での地上戦は、必ず生起する。
「こちらは後の先で往く」
と、関係省庁の実力組織は申し合わせていた。
敵が準備砲撃によって砲兵の所在を暴露し、穴蔵から姿を現したところを叩く。
こちらから地上戦を仕掛けるのもありだが、その場合は相手が防御に転ずることになる。
技術的優位はこちらにあるにせよ、予想外の出血を強いられるかもしれない。
故に、わざわざ敵が待ち構えているところに、のこのこ出て行く必要はないだろうというのが彼らの思考だった。
その狙い通り払暁とともに、人民革命国連邦軍・親衛軍集団は攻勢を開始した。
「回せーっ!」
幸運にも日本側に捕捉されなかった航空基地から、戦闘機や近接支援機が次々と舞い上がる。
と同時に、人民革命国連邦軍が揃えた数百門という火砲が、リズミカルに射撃を開始する。
人民革命国連邦軍将兵は耳朶を押さえながらも、生きとし生ける者を圧倒する砲声と地鳴りに、勝利を確信していた。
航空偵察がままならないため、前線を区切っての面制圧。
そして彼らは遅巧より、拙速を採った。
準備砲撃は「いまから突撃しますよ」と伝えるようなもの、長々とやれば敵兵に備えを許すだけである。
即座に前進命令が下った。
泥濘の中を、新型機械戦車が往く。車体後部上面には、銃兵らが団子状になってしがみついている。ソリを曳いている戦車も続く。
「来た――」
それを最前線の警戒陣地に張りつくエルフ自衛隊第1普通科連隊のセイタカ・チョウジュ・ザルらは目視した。
「信号弾を上げろ!」
「恐れるな、我々には鉄火を従えた守護神がついている!」
「応ッ」
最前線上空に無数の信号弾が上がる。
実際のところ、人民革命国連邦軍砲兵部隊の制圧射撃はほとんど意味がなかった。
彼らの火砲はあまりにも射程が短い上に、エルフ自衛隊の諸隊が配置されている陣地は有蓋塹壕であり、しかも擬装されている。
戦果はほとんどない。ほとんどないどころか、むしろ不利を呼び込んでしまっている。
「旧時代の牽引砲並べて勝ったつもりかよ」
環境省環境保全隊第1特科団は対砲兵レーダーにより敵弾の軌道を完全に捕捉、敵砲兵陣地の所在を割り出した。
そして人民革命国連邦軍が奉じる“紛い物の神”ではなく、エルフ自衛隊のサルらが信仰する“戦場の神”が、報復の咆哮を放つ。
MLRSが発射し、敵火砲の上空1000メートルに達した複数発のM26ロケット弾は、瞬く間に数千発の子弾となって地表へ降り注ぐ。
鋼鉄の雨――。
この破局的な土砂降りの中でも敵砲兵陣地は、完全に沈黙することはない。
初冬における戦闘で、第96狙撃兵師団の砲兵陣地が敵の対砲兵射撃によって瞬く間に全滅したことを彼らはよく覚えており、その対策として堅牢な陣地と転換先となる予備陣地を構築していたのである。
だが、日本側の圧倒的火力を前に、生き長らえるのにも限界があった。
創意工夫を重ねたところで、彼らが対砲兵戦で勝てる見込みなど万にひとつもない。
対砲兵レーダーもなく、航空偵察が満足に行えないため、反撃すべき日本側の砲兵部隊の所在さえ掴めない。
日本側の対砲兵射撃にはMLRSだけではなく、各種榴弾砲も参加。
さらにガンシップのAC-1攻撃機が滞空するようになると、もう人民革命国連邦軍の砲兵部隊は手も足も出ない。
火砲自体が吹き飛ばされるか、兵隊が吹き飛ばされるか、あるいはその両方か。
「駄目だ、戦闘機がなんとかしてくれないと……」
砲兵らが頼みとするそのイリーシャ戦闘機は、飛び立った傍から叩き落とされていく。
彼らの健闘は何の意味もなさない。
ただ日本側の航空部隊のパイロットらに撃墜数を進呈するのみ。
(といっても、何の自慢にもならんがな……)
が、環境省環境保全隊のイーグルドライバーらは、心底そう思った。
イリーシャ戦闘機は即座に空対空誘導弾によって撃墜され、地上に残骸をぶちまける。
彼らイリーシャ戦闘機隊の“戦果”といえば、主翼をもぎ取られて制御不能になった機体が、眼下を往く人民革命国連邦軍の車列に突っ込み、これを薙ぎ払ったことくらいであろうか。
むしろF-15SEX-Jや他の日本側のジェット戦闘機は、味方撃ちの防止に注意を払った。
物量で補い切れない、質による隔絶。
それでも一度動き出した攻勢作戦は、急には止められない。
人民革命国連邦軍の機械戦車部隊や歩兵部隊は、砲兵や航空戦力による援護がないまま、死地へ向かう。
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