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■7.破竹の進撃(前)――Type-10 EARTH-V現る!

「“ファイアフライ”が来るッ――!」


 対するローエン野戦軍側は、空中哨戒中の航空魔術士からの通信を受けて、8名の航空魔術士を要撃に上げた。みなそれぞれフォークラントに声をかけられた傭兵であるから、連携に不安があったが、空戦技術に関しては一流の腕を持っている。フォークラントは彼らにかなりの期待をかけていた。鋼鉄の羽虫を排除して空中を支配してしまえば、敵の動向は手にとるようにわかる。

 時速100kmで空翔ける航空魔術士は視力を極限まで強化し、朝日を背中に向かって来る2つの敵影を捉えた――とともに、敵影が“瞬いた”。


「ま」


 まずの「ま」か。それともまずいの「ま」か。

 最先頭を往く航空魔術士が、四散した。比喩ではない。1秒前まで航空魔術士を構成していた臓物や骨肉は、高速で地表へぶちまけられた。その隣を飛翔していた航空魔術士も同様で、右半身を失って墜落し、なんとか形を留めている左半身は木々に引っかかった。大腸や左腕が、枝からぶら下がる。無惨。

 その後方――中衛、3名の航空魔術士たちは動揺して減速し、空中で棒立ちになるという愚を犯した。

 それを死の羽虫が見逃すはずがない。30mmチェーンガンが火を噴き、航空魔術士たちを一掃する。滋養に富んだ血の雨が降り、これで眼下の森はよく育つであろう。彼らは土壌の肥沃化に役立つために飛び上がったようなものだった。


「畜生ォ」


 後衛3名は賢かった。

 身を捻って決死のダイブ。位置エネルギーを速度エネルギーに変え、急降下で射撃をかわす。ひとりの航空魔術士は魔力噴射によるブレーキが間に合わず、そのまま地面に激突し、泥と一緒くたになったぐちゃぐちゃのペーストと化した。


「航空9番だッ、もう2名しか残ってない!」


 通信を試みつつ、空翔けながら両掌に火球を生成する。


「【火球ファイヤーボール】」


 投擲された火球は、秒速数十mという“高速”で羽虫へはしる。

 しかしながらAH-64Dの御者は秒速数十mという“低速”の攻撃を認めるや否や、これを急旋回で回避した。対空ミサイルに比較すれば、あまりにも遅すぎる。死角から放たれたならともかく、真正面から撃たれればいくらでも対応可能である。


「勝ち目がない!」


 乾坤一擲の反撃が容易く回避されてしまった航空魔術士は、何の躊躇いもなく地表へ降り立って逃走した。敵前逃亡。傭兵としての信用を失うだろう。これで二度と雇われることはあるまい。が、すべては命あっての物種である。

 ところがしかし、環境省保全隊員が人を傷つけようとして失敗し、逃走を図る害獣を見逃すわけがなかった。地を走る航空魔術士目掛けてロケット弾を発射し、その一帯を耕してしまう。むくろさえ残らない。


 続けて空中哨戒任務の航空魔術士も追い払ったAH-64Dが旋回する中、環境省環境保全隊の水陸両用部隊が白浜へ上陸を開始する。水際地雷があるのではと掃海艇が最初に展開したが、すべては杞憂であった。水平線の向こう側からAAV7が煙幕を展開しながら押し寄せ、一挙に周辺を確保する。


「ペッ――」


 AAV7から下車戦闘に転じる保全隊員らは、口内に残る胃液を唾とともに吐き捨てながら展開した。水陸両用車輛で運ばれて酔わない者などほとんどいない。これまで幾つもの強襲上陸を経験してきた古強者らも、車内の動揺と心身の緊張でやられていた。


(静かすぎる)


 だが、彼らが覚悟していた激しい敵の砲爆撃はなかった。のどかの一言。まるでリゾート地にでも上がったようだった。僥倖ぎょうこう。どうやらハゼ港湾を焼き払うという陽動作戦はうまくいったらしい。

 続けてLCACや旧中国人民解放軍から接収した戦車揚陸艦が巨躯を震わせながら浜辺に乗り上げて、重装備を降ろしていく。10式戦車をはじめとする装甲車輛や自走砲、そして上陸部隊を支援する機材・物資。彼らはすでにフォークラント=ローエンの企図を看破していた。内陸での決戦を臨むなら、受けて立ってやろうというわけである。


 地上戦の戦端はすぐに開かれた。

 保全隊側の偵察部隊が敵と遭遇。先行していたAAV7がこれを撃退したものの、すぐさま敵の再攻撃が予見されたため、着上陸したばかりの10式戦車1個小隊が急行した。

 雑木林を踏破していく鋼鉄の獣――その姿は、制式採用された2010年の頃のそれとは大きく変わっている。

 悪鬼の顕現。邪悪の権化。滲み出る殺意。

 車体側面・後面に籠状装甲を纏った不格好な怪物が姿を現したとき、すでに最前線では戦闘が再び始まっていた。

 敵はゴーレムの直協を受けた銃兵部隊であり、寄せ集めにもかかわらずよく統率され、練度が高いようだった。その証拠に、散兵として方々(ほうぼう)に潜み、ライフリング銃で射撃してくる。隊員も迂闊うかつには動けない。

 AAV7は、といえば攻撃魔術の直撃でも受けたのか、炎上していた。乗員が辛うじて脱出に成功したらしいことが不幸中の幸いか。一方の銃兵らは敵の車輛を撃破した、と士気が上がっている。

 だがしかし、10式戦車E型――10式戦車EARTH-Vが咆哮すると、戦況が、地形が、全てが一変した。3000mの距離で足を止めた2輌の10式戦車が、曲射攻撃を開始する。メルカバMK.4同様に砲塔後部モジュールに格納された自動制御の60mm迫撃砲による砲撃。と、同時に前衛の10式戦車2輌が行進間射撃で躍り出る。


「弾種、キャニスター」


 1発あたりタングステン製小弾1000個が詰まったキャニスター弾が連続発射され、敵が潜む一帯を文字通り薙ぎ倒す。知っての通りこの砲弾は朝鮮半島北部で自殺攻撃を繰り返す民兵を皆殺しにするために開発・製造されたものだが、この異世界でも無数の敵兵を挽肉にしてみせた。

 その血肉の海の中に、ローエン野戦軍が頼みの綱とする兵種・装甲ゴーレムが立っている。




次の更新は11日になります。

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