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■68.プロフェッショナル・仕事の流儀!(前)

◇◆◇




 戦わなければ、守れない。


 日本国民が生き残っていくための自然環境の保護に邁進まいしんする環境省。その環境省に身を置き、いま異世界という未知の環境で、野生生物の保護のために悪戦苦闘を重ねる男がいる。


「日本国民が1000年後、10000年後も健康で幸福に生きていける自然環境の実現。これが私の夢です」


 環境省野生生物課長・鬼威燦太。


 入省以来、環境保全の最前線に身を投じてきた。


「この背中のは、対馬での傷ですね。刀か何かでばっさりやられた」


 対馬島では不法入国者と格闘。

 以降はアフリカや南米で、希少動物の保護に努める。

 時には重傷を負い、入院することもあった。

 それでもいまも彼が最前線に立ち続ける理由はなにか。


「酷かったですね。みんな死んでいった」


 知られざる過去――。


「衣食足りて礼節を知るという言葉もあるでしょう。その逆ですね。あの冬、我々はなんでも食べました。野良犬、野良猫は勿論、カラス、カエルだって捕まえました。電気が止まって、灯油もない。島中の木を切り倒して、焚火をやりましたね。……あんな思いはもう誰にもさせたくない」


 プロフェッショナル・仕事の流儀


 総合 4/1 22:00~




◇◆◇




 人民革命国連邦首脳部は、雪解けとともに旧バルバコア帝国領とエクラマ共和国に対して、全面攻勢に出ると決めていた。

 初冬の攻勢失敗については分析と対策が進められたが、カーブリヌ=ワンは南侵という方針を崩そうとはしなかったのである。

 先の人民革命国連邦軍第4軍が敗北した理由は、ひとえに戦術的なミスが重なった結果であって、大勢たいせいは人民革命国連邦の側に傾いている、というのが彼の判断だった。


「戦術レベルの健闘で国力差、戦力差を覆すことは不可能」


 というのがカーブリヌ=ワンのげんである。

 確かに人民革命国連邦の工業力、経済力、軍事力、全てをひっくるめた国力は旧バルバコア帝国を圧倒していた。その上、現在の人民革命国連邦はカーブリヌ=ワンによって、完全に掌握しょうあくされている。内部対立や粛清の影響により、旧バルバコア帝国にさえ苦戦を強いられた過去の人民革命国連邦とは違うのである。


 人民革命国連邦軍は事実上の敗北を喫した第4軍司令部のスタッフを更迭こうてつし、前線部隊の刷新さっしんを図ると、続いて次なる攻勢作戦に向けて準備を進めた。

 まず日本国環境省環境保全隊を名乗る新手を戦力差で圧倒するべく、“親衛”と名づけられた軍集団の動員が進められている(人民革命国連邦側は未だに自分達がほぼ同数の敵と戦い、敗北したと勘違いしている)。

 敵の火力が想像以上であっても、数で圧せば連邦軍側が敵防衛線に浸透し、防衛線を瓦解がかいにまで追いやれる、と真剣に彼らは思っていた。


 勿論、親衛軍集団の動員と配置は容易ならざる事業だ。

 無数の人民マンドラゴラ達が兵站の整備や、物資の集積・分配に駆り出され、昼夜兼行ちゅうやけんこうの作業が進められた。

 最初の1週間だけで千名単位の過労死者が出るほどの、過酷な業務である。

 そういう意味ではすでに戦闘は始まっているといえた。


 また質的な戦力向上も進められている。


「こちらをご覧ください」


 首都近郊の戦車工場を視察に訪れたカーブリヌ=ワンや軍高官が見たのは、現行の機械戦車よりも遥かに規模の大きい新型戦車であった。

 箱型の車体に楕円形の砲塔。

 一同を驚かせたのは、その砲塔から伸びる戦車砲が長大だったことだ。

 これまで短砲身のそれに見慣れていた彼らにとって、砲身が車体よりも前へ突き出ている格好は新鮮に映った。


「この長砲身戦車砲は、もともと装甲ゴーレムを確実に撃破するために開発を進めていたものです。が、敵の機械戦車を射貫することも可能であろうと自負しております」


「設計図を見たことはある。試作車輌のテストが以前から続けられていたことも知っていた。だが実物を見ると……素晴らしい」


 カーブリヌ=ワンは満足そうに頷いた。

 攻撃面だけではなく、当然ながら防御面もまた増強されている。

 現在から大量生産に移るため、人民革命国連邦軍全体の機械戦車を更新するのは不可能だろうが、それでも次の攻勢に必要な分は確保出来るだろう、というのが概ねの見通しであった。


 そして彼らの切り札は、“防虫化学剤4号”――化学兵器である。

 これまでこの防虫化学剤4号については、野戦での有効性に疑問がもたれていた。

 そこで先の戦いで捕虜としたエクラマ共和国軍の士卒や、捕獲した住民を利用した野外実験を複数回実施し、その効果や効率のいい散布方法を調査。航空機や火砲による投射戦術を確立した。


 と、この時点では人民革命国連邦首脳部は、夏の大勝を確信していたに違いない。

 悪天候の続く冬とは異なり、春以降ならば航空支援も期待出来るし、凍りついていた軍港も開かれ、複数隻の主力艦も投入可能だ。広範囲の敵を殺傷する化学兵器もある。

 先の戦いのような結果にはならないはず――。


 だが攻勢作戦の準備を推し進めるプロフェッショナルは、あまりにも相手を知らなさすぎた。

 前線部隊の将兵の意見もろくに聞かず、おごる一方の彼らは、ただただ人民や士卒に対してただただ徒労を強いているに過ぎない。




◇◆◇


次回更新は1/19(火)となります。

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