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■66.『環境少女、日日野まもり!!』第13話・決戦!ロナルド・レーガン!

(チャンスは1回きりだ)


 亜音速の世界にいる日日野まもりの脳裏に、航空自衛隊幹部の言葉がリフレインする。

 敵防空網を突破し、魔神王がする航空母艦『ロナルド・レーガン』へ突入するには、これしかない。乾坤一擲けんこんいってきの大勝負。


(本来、我々が君に頼むのは筋違いだと分かっている。だが、いまこの国を――いや、人々を、日々のいとなみを守れるのは君しかいない。……“頑張る”んじゃだめだ。“勝ってくれ”)


 すでに周辺空域では魔神王の眷属と化したF/A-18E/Fと、航空自衛隊機によるつばり合いが始まっている。

 戦況は五分五分。F-15Jが発射した空対空誘導弾は次々と敵機に直撃し、空中で破滅的ダメージを与えていく。

 爆発四散するF/A-18E/F――が、次の瞬間には映像が巻き戻されるように、ぶちまけられた機体の破片が集合し、再結合を果たす。

 それを目視していたイーグルドライバーは、舌打ちをした。

 魔神王が得手とする時間制御の魔術だ。故に敵機は破壊されたそばから再生してしまうのだ。


「キャリアーはまだか――」


 傀儡ホーネットを圧倒する本職イーグルだが、敵の魔術のせいで膠着状態が続く。

 当然ながら長期戦は不利。しかしながら、勝ち目はある。F-15Jら制空戦闘機部隊の役割は、敵機を拘束すること。


「頼んだぞッ」


 その大混戦の背後に迫ったF-2Aが93式空対艦誘導弾を解き放つ。

 亜音速で航空母艦『ロナルド・レーガン』とそれを護衛する第15駆逐隊の水上艦艇へ突進する鋼鉄のやじりは、次々と撃墜されていく。

 F/A-18E/Fによる体当たりと、生体誘導弾による迎撃。

 それを潜り抜けて、数発が第15駆逐隊のイージス艦を直撃した。

 が、噴き上がった爆炎は瞬く間に消え、残骸は元通りに回復する。

 それを『ロナルド・レーガン』の艦橋で眺めていた魔神王は、薄ら笑いを浮かべた。


動物ヒトとは愚かなものだ。敗北を認めず、最期まで悪あがきを続ける。エネルギーを浪費するだけだ。無駄だ」


 本当にそうか?

 火焔と黒煙、再生の最中を、さらに高速の飛翔体が疾駆する。

 あらゆる音を置き去りにして1発の空対艦誘導弾が、『ロナルド・レーガン』に迫る。


「ほう、それが本命か」


 突入する超音速飛翔体――ASM-3の接近に気づいた魔神王は、1秒とかからず『ロナルド・レーガン』の全周に魔力防壁を張り巡らせた。

 超音速の鋼鉄と、半透明の障壁が激突する。

 双方、爆散。飛散する鉄片、魔力の残滓ざんし


「所詮、この程度――」


 魔神王が嘲笑した0.1秒後、“本命”は火の粉と魔力の燐光の中を突っ切って、『ロナルド・レーガン』甲板直上に姿を現した。


「何」


 甲板上に居合わせた魔人らは、目をすがめた。

 黒灰白こっかいびゃく戦装束いくさしょうぞくを纏った少女は、虚空で身体を捻り、魔術を完成させた。時間の巻き戻しなど関係ない、相手が燃え尽きるまで焼き尽くす魔術の炎が、飛行甲板に降り注ぐ。


「【炎鏃ファイアボルト】」


 無数に燃え上がる火柱の中、転がりながら本命――日日野まもりは着地する。


「うまくいった……!」


 ASM-3に“乗って”、敵中枢に殴りこむ。

 超音速まで加速した彼女は見事、三重に護られた『ロナルド・レーガン』にまで達したのであった。

 そして彼女は再生と炎上を繰り返す魔人の合間から、キッと視線を上げる。

 その先には、『ロナルド・レーガン』の艦橋――。


◇◆◇


 人類が個々に武力を持ち、仲違いをしている現状をあざける魔神王の台詞を聞きながら、フォークラントはぼうっとしていた。

 束の間の平和が訪れた。

 復活した魔王陣営は壊滅。

 人民革命国連邦軍は雪に閉ざされて出てこられない。

 日本国側から積極的に仕掛けないのであれば、彼ら人民革命国連邦と再び干戈かんかを交えることになるのは、雪解けと泥濘の季節である春が過ぎ去ってからになるであろう。

 彼もまたしばらくは自身の居館でゆったりと過ごせそうであった。


「……平和、か」


 戦争は去り、確かに平和が訪れた。

 が、日本政府の勢力圏に収まった旧大陸の地域は、“激動する平和”を迎えつつある。

 急速に港湾や道路、航空基地が整備され、日本政府関係者向けの宿舎が完成していく。

 水力発電所が稼働し、鉄道が開通し、堤防が築かれる。

 かつてバルバコア帝国と呼称されていた領域は、バルバコア自然公園となり、続いて少しずつその自然公園の指定範囲が削減されていく。

 そして最終的に旧バルバコア帝国勢力圏は“日本国化”されていくのだろう。


(これが、彼ら日本人がこの世界に来た理由のひとつか)


 “異世界最終戦論”。

 かつて藍前が口にした言葉を、フォークラントは覚えていた。

 異世界がひとつしかないとは限らず無数に存在していた場合、いずれは世界“内”ではなく、異世界間での大戦が勃発する可能性がある。

 それに備えて日本国は、数多くの異世界にまたがる強力な国家として国力を伸張させるべきであり、それが難しくとも万が一の際に生き残りを図るため、複数の拠点を設けておくべきである、という考えがそうであるらしい。


 これを巡っては長らく日本政府内でも「脅威が潜む未知の異世界は発見次第、即座に核攻撃で焼却すべきである」という意見と、この“異世界最終戦論”の主張がぶつかり合い、議論が紛糾していたらしいが、フォークラントら異世界の生命体にとって幸運なことに、とりあえず現状は“異世界最終戦論”が有力になったようだ。


 日本政府がセイタカ・チョウジュ・ザルを保護したのは分断統治のためかもしれないし、安価な現地労働力を欲したからかもしれない。

 フォークラントは藍前が以前、「また竹下太蔵の横槍だ……」とひとりごとを洩らしていたのを聞いているが、それが日本側の施策に関係があるのか、彼らの真意はどこにあるのかまではわからなかった。


(勝ち目はひとつしかない)


 フォークラントは漫然とテレビ画面を眺めながら思う。

 復讐――日本側をこの世界から叩き出す方法がひとつだけある。

 それは内戦だ。日本政府はあまりにも多くの組織の武装を認めている。認め過ぎている。彼らの対立を煽ることが出来れば、本国はともかくこの異世界における日本側の統制は瓦解がかいするだろう。


 だが、フォークラントはかぶりを振った。


 所詮は夢想だ。計画プランではない。

 問題点はふたつある。


 ひとつは日本国が強靭な国民国家・民主国家であり、彼ら官僚や軍事指揮官らがほとんど野心を持っていないことだ。実際、こちらがけしかけて相撃あいうつ程度のモラルであれば、この世界に来る前に日本国は分裂していたことだろう。


 もうひとつは万が一、日本側が分裂したり、あるいは組織間の不和が原因で人民革命国連邦に苦戦したりするようなことがあれば、この世界は日本側の最終兵器によって滅ぼされるという厳然たる既定の事実である。

 つまりフォークラントとしては個人的な復讐心を捨て、むしろ日本側に協力するべきなのだった。


「……」


 しかし、それも悪くない、と思い始めている。

 遥かに進んでいる日本国の文化は、王侯貴族でさえも享受出来なかったものだ。

 旧バルバコア帝国勢力圏の暮らし向きは確実によくなるだろう。

 現状では反旗をひるがえす理由がない。


(というか、日本本土に行きたい……)


 それがいまのフォークラントの偽らざる心情であった。




◇◆◇


ミサイルを利用したエントリーはサツバツナイトに影響されています。


次回更新は1/15(金)を予定しております。

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