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■63.「地下迷宮なんか攻略する必要ねぇんだよ!」

 魔王ゼルブレスの策源地たる地下要塞は過去、あらゆる侵入者を撃退してきた。


 この地下要塞は全7階層から成る。

 1階層目は極めて広大であり、野戦軍の兵舎が立ち並ぶ魔人らの居住区だ。人類側の討伐隊はこの地下要塞に忍び込めたとしても、まず万単位の魔人が棲息するこの広大な居住区から、2階層以降に降りる“転移装置エレベーター”を探さなければならない。

 2階層から6階層は、高級魔族の居住区であったり、新兵器の開発施設や武器庫が設置されていたりするが、侵入者に対する備えも万全だ。“床面積と頭数の暴力”を振るう第1階層とは異なり、こちらは監視装置と罠が張り巡らされ、そしてレベル60から70代の幹部が睨みを利かせる階層となっている。

 ちなみに以前、人類軍が派遣した討伐隊が到達できたのは、第3階層まで。第1階層を突破し、第2階層でブッチャーLv.79を撃破したところで、もう組織的な行動が出来ないほどに損耗していた。


 そして魔王ゼルブレスは最深部の第7階層にいるわけだが、実はここまで辿り着いた者はいない。

 ……勇者であってもだ。彼は地下要塞での戦闘が不利とみて、第1階層にすら足を踏み入れようとしなかった。その代わりに自らが囮となり、地上にて数多くの野戦軍を殺戮し、幹部を引き摺り出してこれを殺害し、魔王陣営の手駒を漸減ぜんげん。その間に封印施設を完工させたのである。

 つまりかの勇者でさえ、真正面からの攻略を回避した。


 これが一種、魔王陣営の自信に繋がっていた。

 人類軍の通常部隊では地下要塞の突破は不可能。

 地上での野戦に敗れたとしても、ここで敵の戦術を研究しつつ再起を図ればいい。


 だが環境省環境保全隊が、それを許すはずがなかった。

 彼らもまた勇者と同様に正攻法での攻略を回避した。

 魔術による封印の仕方もわからない。

 環境省は他省庁の担当者とこの地下要塞をどう処理すべきか議論したが、5分会議したところで幹部らが「あの古代の猿相手にこれ以上時間を使いたくない」と言い出したため、とりあえず航空攻撃でやれるところまで“穿ほじくり返す”ことになったのである。


「魔王には同情するぜ」


 一部の環境省職員は、自分たちがしようとしていることに少し引いていた。

 環境省環境保全隊は魔王陣営と戦うと決めた時点で、魔王側の魔術防壁バリアが強力で火砲や爆弾では貫徹出来ない可能性に備え、地中貫通爆弾を2種類持ち込んでいた。


 ひとつは旧アメリカ軍が保有していたGBU-28バンカーバスターと同性能で重量約2トン、F-15SEX-Jであれば複数発装備可能なものである。

 通常の地面であれば、約30メートルから40メートルまで穿うがち、厚さ6メートルのコンクリートで防護された施設さえ貫く。

 これならば、地下要塞の第1階層には確実に達するであろう。


 もうひとつは米国製GBU-57を基にして、日本国内で開発した大型貫通爆弾である。

 このGBU-57は前述したGBU-28の倍近い貫徹力を有している。特別に防護されていない場所であれば、約60メートルから70メートルの地中にまで達し、確実に地下施設を破壊可能だ。

 ただし問題点もあった。

 GBU-57はあまりにも重すぎた。

 13トンという大重量であり、F-15SEX-JやP-1では装備出来ないのである。旧アメリカ軍はこれを戦略部隊となる空軍地球規模攻撃軍団に配備、B-52やB-2といった戦略爆撃機に搭載しており、実戦でじゃんこじゃんこと使うつもりはなかったため問題にはならなかったようだが、当時の航空自衛隊としては不満であった。

 旧航空自衛隊は少数の爆撃機に搭載する少数の特殊兵器が欲しいのではなく、敵勢力圏に点在する原子力発電所の原子炉に致命的なダメージを与えたり、水力発電所を破壊したりしたかったのである。

 そのため、国産大型貫通爆弾はこのGBU-57の小型化・軽量化版として開発された。

 これでF-15SEX-Jであれば、機体中央部の兵装ステーションに1発が装備可能となった。


「重量2トン、9トンって感覚が麻痺するよなあ……」

「なんか大人気ねえよな。これだけでかい爆弾を持ち込んで、最終ボスの待つラストダンジョンを攻撃するとか」

「さりとて地下迷宮に部隊を送りこんだら酷い目に遭うぞ……航空支援も特科火力支援もなし」


 というわけで環境省環境保全隊は、とりあえずこの2種の地中貫通爆弾を地下要塞に向けて使い始めた。


「ドロップ――」


 まずF-15SEX-Jから成る攻撃隊は、第一撃として8発のGBU-28を投下した。それも高度1万メートルを超える高空からである。GBU-28はロケットのような推進装置を有しているわけではないため、威力を発揮するためには高高度で放った方がよい。

 地球の重力に曳かれるまま音速に達し――地面に衝突した。

 弾頭が地表に穿ち、その身を地中に沈める。土埃と土砂が吹き上がり、一瞬遅れてから地表が盛り上がって火焔が噴き出した。


(効いているのか――?)


 後から観測役のヘリが進出するも、上空からでは効果のほどはわからない。

 正直言って地下施設にダメージが入っているという確証はなかった。なにせ地下要塞の構造図を入手しているわけではなく、適当に見繕った捕虜に“インタビュー”することで把握した出入口から、要塞の地下構造を推測して投下しているだけなのだ。

 だがとりあえず手持ちのGBU-28と、国産大型貫通爆弾を重ねて投弾していく。

 GBU-28の貫徹力ではおそらく深部までは届かないため、初弾が着弾したポイントを狙って続けざまに2発目を投下。

 国産大型貫通爆弾はモデルとなったGBU-57と同様に、構造物をぶち破った回数をカウントし、炸裂する深度を調整できるスマート信管が内蔵されているため、可能な限り第7階層近くに被害が及ぶように設定されて投下された。




◇◆◇


次回更新は1/7(木)を予定しております。

また拙作『次なる戦争・尖閣侵攻2021――日本国自衛隊vs中国人民解放軍――』も完結いたしました。いつもお付き合いいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

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