■62.ロールアウト!魔王の新兵器!
「ロクイチ舐めんなよッ――」
神奈川県警の側面を衝こうとしていたヘルハウンドの群れは、国土交通省緊急災害対策派遣隊61式戦車の連続射撃に晒されることになった。弾種は90mmキャニスター弾。数百個の鉄球から成る横殴りの暴風は、非装甲のヘルハウンドを容易に薙ぎ倒してしまう。
この敵機動部隊を破った61式戦車隊は、そのまま魔術兵から成る敵密集陣を側面から叩こうと前進した。
ちなみに彼ら国土交通省緊急災害派遣隊の61式戦車は、陸上自衛隊現役時の姿とはかけ離れた外見をしている。被弾の可能性が高い砲塔前面には楔形の増加装甲が設けられており、そのため丸みを帯びていた砲塔は鋭角的なフォルムに変わっていた。
複合装甲が追加で砲塔に施されたことで防御力が格段に向上する一方、攻撃力はどうか。
主砲は90mm戦車砲のままである。
が、国土交通省緊急災害派遣隊の61式戦車は基本的に日本国内で活動することを念頭において改良を施されており、主たる敵は被災地を跳梁跋扈するテロリストや、離島に着上陸した水陸両用戦車・水陸両用歩兵戦闘車とされてきた。大陸で敵主力戦車と殴り合うことは考えられていないのだ。
そういった事情から105mmライフル砲や120mm滑腔砲へ無理に換装せず、可能な限り攻防走のバランスを保つ努力がなされている。
攻撃力の面で強化があるとすれば、それは新型砲弾の配備だ。74式戦車が93式APFSDS弾を得たように、61式戦車も90mm新型砲弾の獲得によって、複合装甲を持たない第2世代主力戦車相手であれば、正面から撃破可能になっている。
「まずい」
一方、61式戦車が側面を衝こうとしていることに気づいた魔王野戦軍側は、即座に後退を開始した。彼らは神奈川県警・宮内庁近衛警備連隊の正面からの攻撃を防ぐのに必死であり、側面にまで魔力防壁を張り巡らせる余裕はない、と判断したのである。
野戦軍本隊が態勢を立て直す時間を稼ぐため、ゴーレムに支援された魔術兵部隊が61式戦車隊の前に立ち塞がったが、緊急災害派遣隊の隊員らが苦戦することはなかった。榴弾の釣瓶撃ち。前面に立つゴーレムはものの数分で全滅し、その後方に続いていた魔術兵らもまた榴弾とキャニスター弾によって、惨たらしい最期を遂げた。
しかしながら、日本側の諸隊は追撃を控えた。
その原因は緊急災害派遣隊・神奈川県警・宮内庁近衛警備連隊で連携が取れていないことにある。61式戦車隊と後続の73式装甲車に分乗する機械化部隊は、神奈川県警・宮内庁近衛警備連隊が協同して正面から連携攻撃を仕掛けてくれるか、確信を持てず、それ以上の前進に踏み切れなかった。
(地上部隊の連中は、何やってんだか)
その頭上に現れたのは、2機のジェット戦闘機である。
増槽とともに500ポンド航空爆弾数発を吊り下げており、高空から次々と爆弾を投下し、曳光弾めいて打ち上げられる魔力弾の最中を翔けていく。
国土交通省緊急災害派遣隊が保有するF-1E支援戦闘機だ。鈍色に塗装されたこの矢のような機体は、緩旋回しながら戦域を離脱していった。
この航空攻撃により魔王野戦軍は手痛い打撃を被ったものの、前述の通り日本側の地上諸隊が追撃を取りやめたため、致命的な損害を回避することが出来た。
「レッドドラゴンも、ウィッチも逝ったか」
さて。魔王ゼルブレスである。
デーモン・ロードからの報告を受けた彼は、しばらくドラゴンめいた頭骨を傾けてじっと沈黙していた。何を考えているのか……否、そもそも思考をしているのかさえ分からない。しばしの沈黙の後、地下要塞の最上層にある広間という広間が、新たな生命で満たされた。
「【眷属創造】Lv.10」
魔王ゼルブレスが製造した人工生命、端的にその姿を表すならば“竜人”である。
魔人を超越する身体能力と物理飛翔能力を誇り、全身には敵歩兵の燃焼エネルギー兵器に耐え得る竜鱗が施されている。
さらに特筆すべきは彼らに自由意志がないことか。
一匹一匹に至るまで、魔王ゼルブレスが操作する。
これによりレッドドラゴンや、スカイクラッドウィッチのように、驕慢や恐怖に囚われることはない。
つまりこの竜人は、魔王ゼルブレスが人類軍に打ち勝つために、地上戦の戦訓をフィードバックした新兵器なのである。戦術もこれまでの密集陣形から散兵戦術に切り替える予定であった。
が、この新兵器は完成した1分後に全滅した。
環境省環境保全隊の地中貫通爆弾による航空爆撃が始まったからである。
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