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■61.「日本は喧嘩を売られた。これはどういうことか。私なりに考えたのですが、つまりこれは喧嘩を売られたということなんですね。喧嘩を売られたらどうするか。セクシーにデンジャラスに考えていく」

 さて、デーモン・ロードLv.89が指揮を執る野戦軍であるが、彼らは西方だけではなく、別方面――バルバコア・インペリアル・ヒトモドキ北方辺境防護伯の領地にもまた軍勢を送り込んでいた。

 地下要塞にうごめく魔王陣営の兵力は、無尽蔵である。

 万単位の精兵をようしている上に、ヘルハウンドやキマイラといった魔獣であれば容易に補充が可能なのだ。

 ひるがえって人類軍の戦力は即時の補充や増強が困難であることを、彼らは経験則から知っていた。

 故に魔王野戦軍は戦線を拡大することで、日本国環境省環境保全隊に負担をかけようと思考したのである。


 ところが、その考えは甘すぎた。


「凶器準備集合、さらに我々の仕事を増やしているわけですから、公務執行妨害の現行犯ですな」

「相手は人間ではないわけだが、まあそんなところだろう。彼らに対しては警察反比例の原則に基づいて、あらゆる火器の使用が認められる。法的問題は何もない。いいね」


 北方辺境防護伯領に迫る魔王野戦軍は不運に過ぎた。

 相手は世界各国から“濃紺の悪夢”と恐れられ、日本国内でも悪名あくみょう高い神奈川県警察である。

 近年では保釈中に国外逃亡した実業家のカルロ・スカモーンを殺害するため、F/A-18警察航空機から成る神奈川県警察航空隊をイスラエルへ派遣し、中東某国を“家宅捜索”したことが記憶に新しいことだろう。

 警察庁が保有する事実上の武力部門となりつつある彼らは、その凶悪なまでの“警備力”を振るうことに、何の躊躇ためらいも良心の呵責かしゃくも覚えない。


「神奈川県内における殺人事件の被疑者が、異世界へ逃走を図った疑いがある」


 という理由でこのとき北方辺境防護伯領に派遣されていた神奈川県警の捜査員は、他人を傷つける目的で凶器を準備し、集合した群衆デーモンらに対して、職務遂行のために必要な発砲を開始した。

 彼ら神奈川県警察が現行犯に対して、けん銃や特殊銃を使う際の言い分は警察反比例の原則だ。

 警察反比例の原則とは、犯罪に対する抑止力の観点から、軽微な犯罪に手を染めた現行犯に対しては説得やけん銃による威嚇や空砲射撃ではなく、特殊銃による射殺が許される(ここでいう特殊銃とは短機関銃から対戦車ミサイル、2000ポンド航空爆弾までが含まれる)という考え方だ。現行犯が次なる重大犯罪に手を染めない内に、解決を図るための原則である。

 つまり迫る群衆デーモンに対して、発砲することは適法なのだ。


「よし、検挙する」


 明るい青と純白の二色で塗り分けられた機動装甲警備車(16式機動戦闘車)に支援され、LAV-25装甲警備車とそれに搭乗する警官らが敵密集陣の中央へ殴りこみをかける。


「浮足立つなッ」


 一方の魔王野戦軍最先鋒は、魔術防壁を重ねがけした上にゴーレムを前面に押し立ててこれを迎え撃った。神奈川県警が迫撃砲や榴弾砲といった曲射砲を装備していないことと、F/A-18C/DやAH-1Zといった警察航空隊を持ち込んでいなかったことが幸いし、彼ら野戦軍は思いのほか善戦した。が、この機械化警官らを撃退するのに時間を費やしている間に、続々と日本国側の新手が姿を現した。


「敵の増援――」


 前線部隊を指揮する魔王野戦軍の幹部らは広域展開させたドゲザエルモンの斥候から、次々と敵の援軍が駆けつけてきたことを知った。

 まず神奈川県警に合流したのは、旧警察庁皇宮警察が前身の宮内庁警備課・近衛警備連隊である。“やんごとなき御方”を脅かす可能性のある存在があれば、地獄まで追いかけていくこの近衛警備連隊は、箱状の装甲兵員輸送車である英国製FV430で最前線に進出した。重要なのは同時に“儀礼用”として導入された経緯をもつ英国製自走榴弾砲のAS-90ブレイブハート4輌が、52口径155mm砲を以て支援砲撃を開始したことにある。


 加えて先の地震を踏まえて派遣されていた国土交通省緊急災害対策派遣隊もまた攻撃のために現れる。

 彼らのこの異世界における主な任務は、被災地の復興とインフラの強化にあるが当然のごとく武装もしている。

 ちなみに南海トラフ巨大地震直後の被災地を周辺国の軍事行動から守りつつ復興を急がなければならなかったことから、国土交通省緊急災害対策派遣隊は他の省庁よりも武装化が早かった経緯があり、彼らの装備品は00年代の旧陸上自衛隊の退役装備品が主だ。

 故に戦場に国土交通省緊急災害対策派遣隊の先鋒を務めるのは、60式自走無反動砲と61式戦車・改であった。




◇◆◇


次回更新は12/31を予定しております。

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