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■6.環境省環境保全隊は常にリサイクルを推進しています!

 環境省環境保全隊が再びハゼ港湾沖に姿を現したのは、ファーストコンタクトから数日が経った後であった。朝焼けともに虚空から次々と水上艦艇が海面を蹴立てて現れる。その中からまず4隻が突出し、ハゼ港湾へ近づいていった。


「航空1番より野戦軍司令部、敵水上艦4隻がハゼ港湾に近づく。おかしい、砲がない。甲板上には、棒状の物体が大量に置かれている」


 ハゼ港湾上空にて哨戒にあたっていた航空魔術士は首をかしげながら、すぐさま内陸に構えられたローエン野戦軍司令部に魔力波通信で報告を入れた。同じく司令部に詰めるフォークラント=ローエンの部下や傭兵団長らも顔を見合わせたが、彼らを統括するフォークラント=ローエンその人は「馬鹿め!」と快哉を叫んだ。


「連中は数日前の戦闘で、こちらの火砲を全て潰したと勘違いしている! だからよくわからない上陸用舟艇を繰り出してきたに違いない!」


 なるほど、と数名の指揮者は頷いた。そうなればやることはただひとつである。数日前の戦闘後、新たに配置した野戦砲でのこのこやってきたMOEの上陸用舟艇を叩くのみ。これをやっつけてしまえば、連中も沿岸部を荒らし回ることしか出来ず、大いに悔しがることになるだろうとフォークラントは口の端を歪めた。

 一方、洋上の水上艦艇4隻――環境保全隊RE-cycle型揚陸艦は、敵野戦砲の有効射程手前で停止した。このRE-cycle型揚陸艦はその名の通り、旧式化した海外の中型揚陸艦を3R活動に取り組む環境省がリサイクルした艦艇である。そして、その名どおりの働きを始めた。


「は?」


 哨戒の航空魔術士や沿岸の見張りや砲兵らは無数の閃光を目撃し、呆けるしかなかった。数十秒後には、ハゼ港湾のあらゆる施設が燃えていた。濛々と立ち昇る黒煙を引き裂いて火焔の雨が降り注ぐ。

 Rocket Emission-cycle型揚陸艦の上甲板に備えられている6連装ロケット発射機10基は、ハゼ港湾が火焔と灰燼と黒煙の塊となった後も127mmロケット弾を撃ち放ち続けた。撃ち終わった発射機には、甲板下の給弾室から新しいロケット弾が装填され、再度の射撃を開始する。

 これこそ環境省が推進するリサイクル(Rocket Emission-cycle=ロケット発射サイクル)。

 無誘導であるが、広範囲を焼き払うにはもってこいの兵装である。


「ハゼ港湾、壊滅――」

「まだたった数分だぞ……」

「狼狽えるな!」


 フォークラントは周囲を一喝した。ハゼ港湾が熾烈な艦砲射撃を受けることは、最初から織り込み済みだったはずだ。だから主力は内陸部に控えているのだ。むしろMOEの連中に無駄弾を使わせたわけであるから、動揺する必要はまったくない! と、フォークラントは自身の部下に説いた。


「それだけの火力を投射したわけだから、敵は必ずハゼ港湾に上陸する! 我々はせんで勝つ!」


 と、息巻くフォークラントであったが、実際のところ執行艦『ひゅうが』の上陸作戦司令部の意図はまったく違うところにあった。1000発前後の127mmロケット弾をハゼ港湾に投射したのは、恰好をつけて言えば陽動作戦に過ぎない。

「バルバコア・インペリアル・ヒトモドキの知能は現代人に劣るため、派手な花火を打ち上げてやればそちらを注視する」という、日本国が誇る先進的動物行動学的分析を基にした極めて合理的な戦術だ。実際、フォークラントは環境保全隊がハゼ港湾に上がってくる、と勘違いしている。動物はどこまでも動物程度の知能しかないというわけであった。


「これってエネルギーの無駄遣いじゃないんですかね。ガスも相当燃焼させてますし……」


 しかし作戦の前後では元・海上自衛隊出身の保全隊員から、そうした疑問が呈される場面もあった。環境保護・希少動物保護を掲げる環境省環境保全隊のり方としては、確かに間違っている感はなきにしもあらず、である。

 が、その度に野生生物課長の鬼威はきまってこう言った。


「確かに我々がやっていることは、エネルギーの無駄遣いかもしれない。だが目先の事柄に捉われて、大いなる環境保護・希少動物保護の達成から遠のいてしまうことこそ、我々が最も避けなければならないことだ。本当に環境に負荷をかけない戦争をするならば、こうした水上艦艇やロケット弾は使わない方がいいに決まっている。環境省職員総出で、棍棒を握りしめて殴り込めばいい。だがそれでは、途方もない時間がかかる。そうしている間にも、彼らはセイタカ・チョウジュ・ザルのような希少動物を絶滅させてしまうかもしれない」


 それを横で聞いていた第5執行隊群司令の東雲司は「その理屈であなたがたはこの世界を焼くわけだ」と思ったが、決してそれを口に出すことはなく、表情筋を動かすこともなかった。


 さて、執行艦『はたかぜ』・『しまかぜ』ペアが進出し、ハゼ港湾に対する艦砲射撃が続けられる中で上陸作戦が展開していく。

 環境省環境保全隊の本命はハゼ港湾ではなく、ハゼ港湾の北東部にある白浜であった。浜の名称は不明だが、奥行きもある上にさんご礁のような障害物もない。地上部隊を揚陸するにはうってつけである。すぐにでも『おおすみ』や『しもきた』からAAV7やLCACを出撃させたいところだったが、環境保全隊は注意深かった。

 先に2機のAH-64Dを発艦させた。

 航空魔術士を狩り、航空優勢を確保するためである。




お気づきかと思いますが、本作に苦戦要素はほぼ一切ありません。

環境保全隊の装備品に関しては旧自衛隊から継承したものの他にも、独自に改修したものが登場します。

評価ポイントに関しては現時点では閉じております(まとまった話数が出揃って、ストーリーが一区切りしてから開放したいと考えています)ので、よろしくお願いいたします。

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