表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/95

■57.魔王Lv.99「人類のくせになまいきだ」!(中)

 地上侵攻から9日後の早朝。

 陣中にて野戦軍の指揮を執る高級魔族、デーモン・ロードLv.89は深夜に放った斥候――浮遊する巨大な眼球の怪物、ドゲザエルモンが集めてきた情報を分析していた。


「敵は西方の丘陵地帯とその周辺に布陣したか。が、離れているな」


 ドゲザエルモンによると人類軍の主兵は、やはり火薬の燃焼エネルギーを利用した飛び道具であるらしい。

 相手にならない、というのがデーモン・ロードの率直な感想であった。

 魔力を帯びない純粋な物理的エネルギー兵器では、1枚、2枚ならともかく20枚以上の多重層魔術防壁を破ることは不可能、というのが常識である。魔術的な防御は、魔術的な攻撃でしか破砕出来ない。


「ほんとあほだよねぇ、にんげんってさぁ」


 腕を組んで西方の空を睨んでいたデーモン・ロードの脇に、いつのまにかひとりの少女が立っていた。

 透き通るような白のワンピースに身を包み、くるぶしほどもあるぼさぼさの髪を垂らした彼女の名は、スカイクラッド・ウィッチLv.81。デーモン・ロード同様にLv.80を超える魔王陣営の幹部であり、魔王に次ぐ魔術の熟練者であった。

 その彼女は、笑っていた。


「あんな花火で遊ぼうなんてホンキなのぉ!? ほんとかわいそー!」


「本気なのだろうな。でなければ、ああして布陣することもあるまい」


 デーモン・ロードの横で、スカイクラッド・ウィッチは空中に浮きあがりながら腹を抱えてアハハ、と爆笑を始めた。


「ざぁあああああああこっ! ザコのくせになまいきなのマジ笑えるぅ!」


 スカイクラッド・ウィッチLv.81の見解も同様であった。

 人類軍など恐るるに足らず。最初から帰順を決めればいいものを、なぜか生意気にも歯向かってくる。本当に理解し難い下等生物だ、と彼女は思っていた。


「レッドドラゴンがいったとおり、あたしらが出る幕はないかもねー」


 彼女がそう言い終えた瞬間、突如として戦端は開かれた。

 超高速で降り注ぐ鋼鉄と、火炎の雨。

 野戦軍の宿営地は昼夜を問わず、交代制で魔術防壁を展開する魔術防護中隊によって守られており、今回も彼らが全周に展開する多重層魔術防壁がこれを防ぎきるはずであった。

 ところが、彼ら魔術防護中隊の魔人デーモンらは、すぐに異変に気づいた。


「な――」


 声を上げることさえ、許されない。上空1000mから降り注ぐ鋼鉄の雨――M26ロケット弾が放出する1発あたり約600個の子弾は、たったの数秒で彼らの防御スクリーンを穴だらけにしてしまった。

 それを修繕する間もなく、わずか1分の内に環境省環境保全隊第1特科団のMLRSが放った計約5400個の子弾が、魔王軍の宿営地を蹂躙した。魔人や魔物の多くは攻撃を察知することさえ出来なかった。辺り一面が爆風と破片に薙ぎ倒される。猛然と巻き上がった砂煙が消えると、そこにはLv.30を超える精鋭の魔術兵たちが(人類の成人男性の平均Lv.は10)、ズタズタに引き裂かれてたおれる屍山血河が出来上がっていた。


「えっ」


 咄嗟に防御魔術で身を守ったスカイクラッド・ウィッチは、呆けている。


「敵の攻撃――」


 同じくデーモン・ロードもまた魔力で編んだ盾で飛び交う破片を防いでいた。が、彼はウィッチとは違って冷静だった。人類側の攻撃の正体を見極めようと、思考を巡らせていた。最初の5秒間は敵の強力な攻撃魔術が炸裂したのだと疑わなかったが、高速で襲いかかった鉄片を見て気が変わった。


「巨大な鉄と火薬の塊をぶつけてきた、というところか」


 などと納得している間も、環境省環境保全隊の攻撃は止まらない。

 丘陵の向こう側に展開したMLRSからの射撃とともに、無人環境監視機ファイティング・アイビスが進出し、戦果確認と地面を這いつくばる連中めがけて翼下のヘルファイア・ミサイルを撃ちこんでいく。


「早くしろォ! 魔術防壁の再構築!」


 休息をとっていた非番の魔術防護中隊が空中に再び防壁を立ち上げるが、秒速400メートルを超える速度で突入するヘルファイア・ミサイルは容易に数枚の防壁をぶち抜いて炸裂し、その衝撃と破片で残る内側の防壁を揺るがした。

 そうしてほつれ、きしむ魔力防壁に今度は155mm榴弾が襲いかかり、半透明のバリアは虚空へ霧散する。

 破片とともに四肢が飛び交い、榴弾の炸裂とともに弾ける魔物達の肉体。


「ま゛……ま゛ぼう゛ざま゛……だ、だずけ……」


 下半身を失ったLv.50を誇るグレーター・デーモンが胸から上だけで這いつくばり、先程まで魔術防壁を編んでいた魔術兵デーモンが、腸が飛び出た下腹部を押さえながらのたうち回る。

 その地獄の中を飛んできた目玉の怪物ドゲザエルモンが、デーモン・ロードに急を報せた。


――人類側に動きあり。ゴーレムを主力とする敵野戦軍が、前進を開始した模様。


 デーモン・ロードは周囲に素早く下知を飛ばした。


「みな後退せよ。宿営を捨て戦陣を組み直す」


 それと入れ違いに、大空へ巨大な影が舞い上がった。


 地上を逃げ惑っていた魔族らは、空中に浮かぶ絶対強者を見上げた。

 烈火を連想させる色彩の竜鱗、歯牙の合間から漏れる炎、大空はおろか地上においても最強を誇る巨大な体躯。

 レッドドラゴンLv.88。

 かつて100万都市を一瞬にして焼き払ったと言われる竜王が、そこにいた。




◇◆◇


次回更新は12/20(日)を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ