■54.再結成、エルフ日章軍? ――否!!!!!!!!!
エクラマ共和国首都ハルネルン。現在は閉会中の共和議会の代わりに、エクラマ国防軍首都防衛軍司令部・環境省環境保全隊前線司令部が置かれた“封焔の塔”に、最前線から古強者のヴォーリズが帰還した。
もう、吹っ切れている。
「シンシアはどこにいる? すぐに会いたい」
戻るなり彼は、与えられた私室で暇を持て余しているエルフ日章教の開祖、シンシルリアを訪ねた。鮮やかなエメラルドグリーンの瞳が、彼に向けられる。悪夢の中で股裂きにされる少女と同じ、澄んだ緑の虹彩。
それを前に、彼は躊躇することなくすぐに切り出した。
「エルフ日章軍を再び組織しよう」
「急にどうされたのですか――」
「エルフには、自らの身を護る力が必要だ」
ヴォーリズは、断言した。
何を自分は日和っていたのか、と彼は思う。
暴力を以て人々を虐殺する人民革命国連邦軍との戦闘や、無抵抗の人々を大量殺戮することが可能だという化学兵器の発見を経て、ヴォーリズは弱者であることが罪だということを思い出した。そして罪に対しては必ず罰が下される。その罰とはつまり種の奴隷化であったり、家族や友人が遊び半分で殺害されたりすることであった。
エルフは弱いままで、いてはいけないのだ。
いまは環境省がバックについているからいい。
だがしかし、だ。
万が一、環境省がこの大陸から手を引くようなことがあったらどうなる?
(我々は我々で自衛する力を持たなければならない)
確かに聖領のエルフ日章軍による殺戮は、悲劇であった。二度と繰り返してはならない。が、そもそも軍事組織とは無辜の人々を傷つける暴力にもなれば、無辜の人々を守る武力にもなることなど、とうにわかっていたことではないか。
(要は、コントロールすることだ)
力の手綱を握ることこそが大事なのであって、力を忌避してもいずれ何かを失う。
「なるほどですね……」
ヴォーリズの熱弁に、シンシルリアも頷いた。
『環境少女、日日野まもり!!』第12話・みんなのまもり! では、これまで“人類社会の後退こそ地球の意志”と語り、日日野まもりと敵対してきた地球少女・皆野てらが人類を滅ぼすための力を以て、人類を守ることを決意する姿が描かれている。
「ただ常備軍を組織することに、日本国環境省は難色を示すかもしれない。そこでシンシアには、環境省職員を説得してほしいのだ」
するとシンシルリアは弾けるような笑顔をみせた。
「これこそ“追体験”ですっ!」
「は?」と呆けたヴォーリズに対して、シンシルリアは半ば発狂したように叫んだ。
「エルフ日章軍が負を背負ったというのであれば、その反省から新たに出発するエルフの自衛組織は“エルフ自衛隊”! これこそ日章旗に付き従うエルフと、日章教の実力組織に相応しい名称です! “エルフ自衛隊”なら、絶対に環境省の方々も首を縦に振ることでしょう!」
ヴォーリズは戸惑い気味に頷いたが、とにかく環境省が認めてくれる可能性が高まるならそれに越したことはなかった。
ただ「エルフ自衛隊!!!!!!!! エルフ自衛隊!!!!!!!!!!!」と連呼しながら狂喜する目の前の少女と、夢に出てくる少女の瞳がよく似ていることが信じられない思いでいっぱいであった。
こうして後に異世界の警察官として振る舞うことになるエルフ自衛隊であるが、いまの時点では天啓に気づいた少女の狂騒と、百戦錬磨の一戦士の構想の中にしかなかい。
……さて、一方のバルディシエロ率いるエクラマ国防軍中部方面軍といえば、大敗を喫していた。
戦線中央の突出部を占領していた第2歩兵連隊があっさりと降伏を決めるとともに、左翼諸隊が瓦解して包囲殲滅の憂き目に遭った。最後まで粘り強く抵抗を続けていた右翼諸隊は、戦場を横断してきた第7偵察隊と高射中隊に背後を衝かれた。挟撃されては、どうしようもならない。壊走である。
これをみたバルディシエロは、守勢に転じた。
手元の戦力を使って防衛線を構築し、エクラマ共和国東部に来たるであろう環境省環境保全隊の攻撃に備える。目的は時間稼ぎだ。
「軍事行動は一種の陽動よ……!」
議員連中は、確認するようにそう言い合った。
負け惜しみではない。バルディシエロが指揮するエクラマ国防軍中部方面軍の他にも、彼らには手駒と必勝の策があった。
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次回更新は12/12(土)を予定しております。




