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■53.渡る世間に悪はなし!(みんな正義を自称するため)(後)

 時を同じくしてエクラマ国防軍中部方面軍の右翼もまた攻撃に晒されていた。

 彼らは丘に陣取るエクラマ国防軍首都防衛軍の守備部隊としのぎを削っていたところ、側方――北方に新手が現れたことを認めた。その旗印は、交差する一対のすきである。


「北に現れた新手はエクラマ国防軍第101応召兵連隊です」

「なんだ、驚かせやがって……」


 中部方面軍右翼諸隊は、胸を撫で下ろした。

 第101応召兵連隊は戦時動員によって充足する連隊であり、職業軍人と平時から徴兵対象となっている若い兵卒から成る歩兵連隊と比較すると、体力・練度ともに劣る2線級連隊――否、3線級連隊だ。火砲はもたず、小銃も数名に1丁の割合だから、補給等に携わる後方職種の士卒に至っては丸腰である。

 故に彼らは侮った。


「「現実をみせてやれ」」


 第101応召兵連隊が吶喊とっかんする。

 対する中部方面軍の最右翼、第16歩兵連隊は手持ちの火砲を再配置し、これを迎え撃つ格好をみせた。このとき第16歩兵連隊が有していた火砲は、射程2km前後の野戦砲である。旧式もいいところだが、平坦な田園地帯を横切ってくる第101応召兵連隊を叩き潰すのには十分のはずだった。

 ところが前線に姿を現し、発砲の瞬間を待つ野戦砲は即座に吹き飛ばされた。


 第101応召兵連隊、決死の突撃。

 それに協同するのは鋼鉄の猛獣である。

 この異世界においては白十字として名を馳せる「士」の漢字を砲塔に飾る怪物が、戦車砲の連続射撃で120mm多目的榴弾と120mmキャニスター弾の弾幕を作り出す。膠着状態となった対人民革命国連邦戦線から転進してきた第11戦車隊の90式戦車が、敵の火砲を吹き飛ばし、敵陣を制圧する。

 その猛射撃のもと、第101応召兵連隊は白刃をきらめかせ、崩れる第16歩兵連隊に斬りかかった。


「行け行け行け行けッ! 目の前の現実と国民の生命が見えない阿呆どもを斬り捨てろッ!」


 突撃の最先頭は二振りの山刀さんとうを振るう第101応召兵連隊長である。


「正義は議会になしッ、国民を守る者にこそ在り!」

雄雄おお――ッ!」


 3線級部隊のはずの第101応召兵連隊が、第16歩兵連隊の横腹を食い破り、さらにその大穴を拡げていく。

 それを見過ごすわけにもいかず、隣接する他の右翼諸隊が第16歩兵連隊の窮地を救おうと動き始めた瞬間、丘に陣取るエクラマ国防軍首都防衛軍の守備部隊が反撃に転じた。旧バルバコア帝国領から流入した中古の装甲ゴーレムと野戦砲を押し立て、丘上きゅうじょうから逆落さかおとしに殴りかかる。


「このままでは左翼が崩れ、片翼包囲されるな」


 状況の把握がワンテンポ遅れている軍司令部でバルディシエロが、予備戦力の投入と一部部隊の後退を命令したときには、すでに前線部隊はエクラマ国防軍首都防衛軍と環境省環境保全隊のタッグによって半包囲されていた。

 特に敵左翼を攻める環境省環境保全隊の戦闘団の活躍は目覚ましいものがあり、普通科部隊を支点として第7偵察隊がぐるりと戦線中央の後方へ回りこみ、敵の退路を脅かしている。


「なんでこんなところにィ!?」


 前線へ急ぐ予備部隊は、第7偵察隊と火力支援役の高射中隊にぶつかった。

 “腕付き”――87式自走高射機関砲の砲塔がなめらかに旋回し、35mm機関砲が火を噴く。雪が薄く降り積もり、きらきらと輝く地表に予備部隊の士卒はへばりついた。そこに120mm迫撃砲弾が次々と着弾し、土砂で出来た柱が次々と立ち上がる。将兵の頭上に砂と雪、肉片、臓物、糞尿が降り注ぐ。が、動けない。頭さえ上げられない。


 それは戦線中央の諸隊も同様であった。

 有利に立つために丘と周辺の陣地を相手からった彼らは、120mm迫撃砲のみならず首都近郊に展開した第11特科隊の155mm榴弾砲により、手痛い打撃をこうむった。もともと奪い取った陣地であるから、その所在はエクラマ国防軍首都防衛軍と環境省環境保全隊の側にすべて割れてしまっている。


「丘を下り、退くしかあるまい」


 と、奪い取った丘上きゅうじょう陣地の第2歩兵連隊幹部らは決心したが、後退する先がない。何も考えずに東へ転じれば、そこを背後に廻りつつある敵の機動部隊に攻撃される。

 彼ら第2歩兵連隊本部は幸か不幸か、丘の上から戦場の大部分を見通すことが出来た。状況は最悪である。左翼は押し込まれた上に、環境省環境保全隊の歩兵部隊から制圧射撃を受けて動けない。その身動きがとれない左翼諸隊を横目に、環境省環境保全隊の機動部隊が大暴れしている。右翼も突撃してきた敵の第101応召兵連隊を食い止めるのに精いっぱいだ。


「処置なしだ」


 第2歩兵連隊本部は、早々に降伏を決めた。




◇◆◇


次回更新は12/10(木)を予定しております。

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