■47.環境省環境保全隊第11旅団vs人民革命国連邦軍第4軍!(後)
「敵砲兵は強力な野戦重砲を備えているとしか思えない。我々の野砲では到底、敵うものではありません」
「では師団砲兵は射撃をせずに逼塞するつもりかね。それはあまりにも無責任ではないか。最前線の将兵に申し訳が立たない、とは思わないのかね」
太陽は中天に差しかかろうとしている。
人民革命国連邦軍第4軍の第4・第96狙撃兵師団が擁する師団砲兵は、環境省環境保全隊に対する牽制や攻勢準備のための射撃を実施するそばから激しい応射を浴び、甚大な損害を受けていた。数時間の内に両師団合わせて30門以上の野砲が損傷を受けるか、完全に破壊されている。
異常といってもいいこの事態を前に、人民革命国連邦軍第4軍司令部は“鏡”を使い、師団司令部の関係者も含めて侃々諤々(かんかんがくがく)、議論した。このとき、連隊本部や師団司令部の関係者は、師団砲兵による攻撃は勿論のこと、3個師団による攻勢にすら批判的な立場になっていた。
「我が砲兵の砲撃開始から10分と経たず、敵は長距離砲を以て応射してきます。しかもその精度たるや極めて正確。敵は間違いなく我が砲兵陣地の近傍に斥候を潜ませ、その所在を報告しているに違いありません。準備砲撃はこれを狩り出してからでも遅くはないと考えます」
「敵の擁する新兵器、敵部隊の布陣、その縦深――我々にはそれらの情報すべてが不足しています。現状で闇雲な攻撃を繰り返しても、いたずらに損害を重ねることになるでしょう。否、損害を重ねるだけで済めばよい。損害どころか、敗退の憂き目に遭うかもしれません」
「……」
数日前までの国防軍とは、明らかに違う。
火力も、練度も、戦術も。それを第4軍司令部の参謀らは認めるしかなかった。
「日本国環境省環境保全隊か」と誰かが声を上げた。環境省環境保全隊らしき謎の武装組織は、すでに対バルバコア戦線にて目撃されていたが、所詮は補給部隊を脅かす軽歩兵に過ぎず、大局に影響を及ぼすことはないというのが軍上層部の評価であった。
「よりにもよって我々の前に機械化部隊とはな――」
誰かが苦々しげに放った一言に、第4軍司令部の参謀らは軽率に頷いた。
敵の新手さえ現れなければ第96狙撃兵師団は余裕綽々、今頃は地方都市ノルデルクスを占領していたであろう。それを思うとやり場のない、恨みがましい感情を抱かざるをえない。が、強引に数で押しても苦しい展開が待っているだけであることも理解出来ていた。
かくして第4軍司令部は攻撃延期でまとまり、その方針の下で各師団は持久戦に向けて動き出す。攻撃の一時中止に、実体験と周囲の空気感から不利を感じ取っていた最前線の指揮官らは安堵したし、連隊本部の幹部らもどこか緊張を緩めた。
(もうそろそろ真冬になる。次の戦闘は雪解けの春。いや辺り一面が泥の海となる春ではなく、少し経ってからの夏となるだろう)
と、考える指揮官も少なくはなかっただろう。
その弛緩を、環境省環境保全隊第11旅団司令部は見逃さなかった。
夕闇が訪れるとともに第11旅団は仕掛けた。UAVで敵部隊を捕捉すると、第11旅団司令部は特科隊の99式155mm自走りゅう弾砲と、各連隊が備える120mm迫撃砲RTを以てこれを激しく叩いた。
防御と野営のために築かれた陣地は155mm榴弾の直撃を受けて突き崩され、陣地間の連絡路が狙われる。後退しようと雪原を進んでいた狙撃兵連隊は悲惨であった。クラスター弾頭が次々と炸裂し、雪飛沫が上がるとともに兵卒らがずたずたに引き裂かれ、斃れていく。
(敵の追撃が来るッ!)
熾烈な砲撃の中でも戦闘態勢を整えようと努力する戦線西部の第4狙撃兵師団、その前面に現れたのは鋼鉄の猛獣である。警戒線の指揮官は、慌てふためいた。
「砲塔に白十字ッ、敵機械戦車隊だ! すぐに火力支援を要求してくれ、踏み潰される!」
砲塔に白十字――「士」「魂」の漢字を施し、車体側面に「刎ねられたソ連兵の首」を描き入れた主力戦車は120mmキャニスター弾で第4狙撃兵師団・同第4狙撃兵連隊の警戒線を粉砕し、そのまま踏み躙った。その後には積雪をもろともしない装軌車輌の73式装甲車が続く。
それを迎え撃つのは、第4狙撃兵連隊を支援する機械戦車である。
「舐めやがってえ!」
戦車長が憤怒の声を上げるとともに、狭い砲塔の中で砲手がハンドルを回す。
最前衛の機械戦車が30mmクラスの戦車砲を重量約50トンの野獣、90式戦車に指向する――その1秒後には90式戦車もまたその120mm戦車砲を、機械戦車に突きつけていた。
轟、と衝撃が奔り、氷晶が舞い上がる。
機械戦車が放った砲弾は90式戦車の手前に落着し、一方の120mm弾は機械戦車の砲塔前面を貫徹した。戦車砲の機構や乗組員の身体を粉々に破壊すると、砲塔後部を破って雪上に機械戦車の“内臓”をぶち撒ける。
「小隊集中、弾種榴弾ッ――あの白十字を1輌でもいい、仕留めろ!」
機械戦車は次々と90式戦車目掛けて砲撃を開始するが、90式戦車は雪を蹴り立てて疾駆する。疾駆しながら撃つ。また1輌、また1輌と機械戦車が撃破されていく。
ロシア製戦車T-72の撃破マークを6つ描き入れた120mm戦車砲を備える90式戦車が突進し、立て続けに1個小隊の機械戦車を射殺した。
その間にも夕闇は深く、濃くなっていく。
「――ッ!」
突然、90式戦車の戦陣の中にパッと火花が散った。
偶然、1発の戦車砲弾が90式戦車の車体前面に直撃したのである。しかしながら被弾した90式戦車はびくともしなかった。装甲板の表面に多少の傷がついた程度。これが敵戦車隊の唯一の戦果であった。
他方、90式戦車に率いられた機械化部隊は、高速で敵陣を引き裂いていく。
この第11戦車隊・第10即応機動連隊の攻撃に呼応して、戦線中央でも昨日同様に第18普通科連隊が第96狙撃兵師団に対して夜襲を仕掛けた。
「これ、ひょっとしてまずいんじゃないか?」
人民革命国連邦軍第4軍司令部の参謀のひとりは、他人事のように言った。
ひょっとしなくてもまずい。気づけば戦線西部の第4狙撃兵師団は食い破られそうになっていた。これをなんとか支えなければならないが、戦線中央の第96狙撃兵師団は昨夜の戦闘から損害を重ねている上に、第18普通科連隊の夜襲を迎え撃つために動かせない。
「万が一にも第4狙撃兵師団が敗れることはないだろうが……」
第4軍司令部は予備戦力である第334狙撃兵師団を戦線西部に充てることに決めたが、出発した第334狙撃兵師団の隊列は、即座に環境省環境保全隊側に発見された。
逃げも隠れも出来ない雪上で、洋上からの艦砲射撃と99式155mm自走りゅう弾砲の長射程榴弾を浴びればどうなるかは、言うまでもない。
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次回更新は11/25(水)を予定しております。




