■45.環境省環境保全隊第11旅団vs人民革命国連邦軍第4軍!(前)
環境省環境保全隊第11旅団第18普通科連隊による第144狙撃兵連隊への夜襲から、人民革命国連邦軍第4軍と環境省環境保全隊第11旅団の間で壮絶な殴り合いが始まった。
「同数以上の敵部隊が攻撃してきたッ」
第144狙撃兵連隊本部は、上級単位にあたる第96狙撃兵師団に泣きついた。彼らには寡兵が我に斬り込んでくるわけがないという先入観があるため、この時点で前面に連隊規模以上の敵が展開していると勘違いしている。
報告を受けた第96狙撃兵師団司令部の判断は早かった。師団が抱える火砲を進出させ、第144狙撃兵連隊の宿営地周辺から同隊の警戒線の合間にいるであろう敵部隊目掛けて激しい砲撃を加えたのである。
言わずもがな、これは盛大な空振りとなった。前述の通り、すでに彼ら第18普通科連隊の夜襲部隊は73式装甲車に分乗し、蹂躙した警戒線を後にしていたからだ。
「敵は沈黙」
「国防軍の練度と装備では速やかな部隊移動にも限界がある。土とともに耕されたことだろう。夜中だが好機だ、戦線を押し上げるぞ」
一方、第144狙撃兵連隊宿営地の西方では、地方都市ノルデルクスへ繋がる街道に沿って、機械戦車に支援された2個狙撃兵連隊(第145・151)が南進を開始していた。月明かりも乏しい雪夜であっても、街道を伝っていけば迷うことはない。無論、多少の反撃を受けることは覚悟の上であった。
……その覚悟も砕け散る火力が、哀れな2個狙撃兵連隊に叩きつけられることとなった。
(まさかこいつで対戦車戦闘をやることになるとはな)
最先鋒の機械戦車4輌の車体前面にパッと火花が散ったかと思うと、次の瞬間には双方ともに出火する。機械戦車の脇を固める歩兵らは反射的に首を竦めたが、何の気休めにもならない。そのそばから薙ぎ倒されていく。街道を北進してきた96式装輪装甲車による40mm自動擲弾銃の連続射撃は、無遠慮に、そして一方的に、2個狙撃兵連隊の陣頭に立つ小部隊を全滅させたのだった。
「街道上に機械戦車を擁する有力なる敵部隊!」
威力偵察も兼ねていた機械戦車4輌と随伴歩兵から成る小部隊が撃破されたことで、両連隊は街道上の敵、街道沿いに潜む敵に気づいた。
ところが双方の連隊本部は、迷うことなく我武者羅の突破を試みた。図らずも2個連隊で競い合うような形になっていたのが問題だったのかもしれないが、真相はわからない。この夜の内に、連隊本部の構成員のほとんどが戦死することになったからである。
「予想は外れたか?」
銃剣を閃かせ、喊声とともに押し寄せる敵の群れを前にして、第18普通科連隊の幹部らは少々焦った。こちらの火力を見せつければ敵も前進を逡巡し、明け方くらいまでは小競り合いがせいぜい、かなりの時間が稼げるだろうと踏んでいたからだ。
数で優る敵に押し切られるのでは、という危惧もあったが、街道を中心として設けられた第18普通科連隊の警戒陣地が放つ重機関銃、軽機関銃の十字射撃の中を敵狙撃兵連隊が突っ切るのはさすがに不可能というもの。
僅かな時間で狙撃兵連隊の突撃は鈍り、制圧射撃のために後退さえ困難な状態に陥った。彼らは雪原に這いつくばり、辛うじて生き長らえていたが、そのままノルデルクス市街地に配置された120mm迫撃砲RTの猛射撃により、噴き上がる雪と泥と共に虚空へ生命をぶちまけていった。
「後方に敵の機械戦車ァ」
加えてこの2個狙撃兵連隊の前進によって生まれた突出部の側面に、東側から73式装甲車から成る先の夜襲部隊が斬りこんだものだからたまらない。最終的にこの2個連隊の兵卒らは、連隊幹部の死傷が相次いだことで遊兵となってしまった。
「この闇夜、みだりに兵を動かさない方がよろしいのでは」
「それでは街道の突破を図った第145、151狙撃兵連隊を見殺しにするつもりか!?」
第96師団司令部では即座に第144狙撃兵連隊と手持ちの機械戦車を前進させ、第145・151狙撃兵連隊の東側に張りついた敵部隊を攻撃し、両連隊の退却を援護することに決めた。第144狙撃兵連隊は初撃の標的となった部隊で損害も小さくなかったが、すぐに投入可能な部隊は彼らしかなかった。
第144狙撃兵連隊の陣頭に立ったのは、ヘッドライトを煌々と点けた機械戦車である。当然、敵を照らし出してやろうという意図があったのかもしれないが、そうだとすれば逆効果であった。
「ニンジンどもが、“ここにいるぞ、撃ってくれ”と言っているようなもんじゃないか」
突出部となった街道を側面から攻撃していた夜襲部隊は、すぐさま接近する第144狙撃兵連隊の存在に気づいた。機械戦車とは対照的に、無音・無声・無灯を心がける隊員たちが前進し、84mm無反動砲や自動小銃に装着した40mmグレネードランチャーで、先鋒の機械戦車12両をものの数分で撃破した。
「旧人類どもがぁああああああ!」
陣頭指揮にあたっていた戦車隊の指揮官は、炎上する機械戦車から辛うじて雪上へ脱することが出来たものの、自身が操っていた戦車兵の多くは車内で鋼鉄の破片を全身に浴びて即死するか、火だるまとなって焼死するかどちらかの運命を辿っていた。
「機械戦車などただのデカい的じゃないか――!」
後続する第144狙撃兵連隊の幹部らは、二の足を踏んだ。
敵の火力は強烈で、これまで盾役を果たしてきた機械戦車の装甲は何の役にも立たない。それどころか炎上する機械戦車の残骸のせいで、こちらの姿形が照らし出されてしまうではないか。
そうこうしているうちに、日付が変わり、そして天候もまた変わった。
風が出てきたと誰もが感じたその数十分後には、視程が極端に縮まるほどの吹雪となった。
◇◆◇
次回更新は11/21(土)を予定しております。




