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■39. 『環境少女、日日野まもりR!』第11話・日々のジェノサイド!

 豊富な資源と大規模な重工業、そして膨大な人口を抱える人民革命国連邦を意のままに操る人民革命国連邦最高指導部は、「対バルバコア帝国戦線の背後にて、正体不明の新たな敵部隊が遊撃戦を開始した」と報告を受けても狼狽うろたえることはなかった。

 人民マンドラゴラを奉仕種族として操ってきた旧支配者と彼に協力していた“海の民”に対して挑戦状を叩きつけ、革命を成功させた男――そして独裁者でもあるカーブリヌ=ワンは口髭くちひげを撫でながら、鷹揚おうように笑ってみせた。


「それで、その旧人類どもはひとりあたり、どれくらいの兵卒マンドラゴラを殺したのだ? 100か? 1000か?」


 人民マンドラゴラは広大な農地で栽培され、1年を通して収穫される。母体から無性生殖で土中に成る彼らの増殖は、留まることを知らない。たとえ対バルバコア帝国戦線で敵兵ひとりを殺すのに兵卒マンドラゴラ10名、100名が犠牲になったとしても、最後に勝つのは我々の側。人的資源が枯渇することは決してない、と人民革命国連邦最高指導部は本気で考えていたのである。


「旧人類は極めて非効率的な存在だ」


 というのが、常々彼が唱えてきた自論であった。

 旧人類というものは、知的階級はともかく労働者階級までもが成長と学習に長い時間を要する。そして個々が意志を有するが故に、国家という形をとっても総意というものが生まれない。派閥、競争、利己エゴ。ロスとエラーが多すぎる。非効率的なのだ。

 それに比べて新人類たる人民マンドラゴラはどうか、と彼は広言してはばからなかった。このカーブリヌ=ワンの言葉を疑う人民マンドラゴラ核心層マンダラゲ指導者層アルラウネは存在しない。周囲に居並ぶ幹部たちさえも、みなカーブリヌ=ワンの協賛機関なのである。

 が、カーブリヌ=ワンは現状に満足し、油断しきっているわけでもなかった。


「とはいえ、対バルバコア帝国戦線――北方辺境防護伯領の突破に時間をかけすぎるのも考えものだ」


 執務室の窓際に立ち、パイプをふかしながら銀世界を眺めていたカーブリヌ=ワンは、そのまま左右に指示を飛ばした。

 彼が示した優先事項は3つである。まず、対バルバコア帝国戦線・対エクラマ共和国戦線への増援。次に突如として補給路に襲いかかった遊撃隊の調査。そして最後に、バルバコア帝国内にて勢力を伸ばしつつあるという『バルバコア自然公園』とその中核組織とされる日本国環境省の情報収集、である。


(秋に別方面へ転用されたバルバコア帝国の部隊は、まだ戻ってきていない。加えて我々の攻勢に直面してもなお、増援が現れる兆候はなし。つまりバルバコア帝国と日本国環境省の争いは、未だ決着がついていないか、後者に有利な情勢。そして我が前線部隊を脅かすのは新戦術、新兵器を用いる精鋭部隊。これは確実にバルバコア帝国に属するものではない……)


 カーブリヌ=ワンは、すでに正体不明の遊撃隊と日本国環境省を結びつけて考えていた。


(北方辺境防護伯は、日本国環境省と同盟関係にあるのやも)


 だがそれでも、カーブリヌ=ワンは彼ら旧人類を見下していた。

 彼らは滅びゆく種族なのである。そして引導を渡すのは、この新人類である我々――そのための“最終解決装置”はいま完成しつつあった。


「次のご報告です。約300トンの“防虫化学剤4号”が――」


 部下の報告を、彼は半ば聞き流している。

 カーブリヌ=ワンが思い描く旧大陸に、旧人類は不要。いずれ人民革命国連邦は旧大陸統一を成し遂げ、新大陸へ逃げ去った“海の民”を滅ぼし、新大陸をも併呑するのであった。


◇◆◇


「どうだ、日日野まもり?」


 灰色かいしょくの雪が降る。核攻撃で倒壊した街並みが、白く染まっていく。鉄筋だけになった建物が、横転した乗用車の残骸が、表面が溶け出した状態で再び固まったブロンズ像が、そして路上を埋め尽くす白骨が、雪に隠されていく。雪葬せつそう

 その中心に、ふたつの影。

 かしいだ電柱のいただきに立つのは、古ぼけた外套をまとった山羊頭の魔神。

 対するのは外壁を全て失った鉄骨の上に立つ少女、日日野まもりである。瞳を閉じているが、眠っているわけではない。その証拠に、彼女の纏う黒を基調とした戦装束いくさしょうぞくは、その表面で青白せいびゃくの魔力をスパークさせている。


「これが人類の選択だ。人類はお前を信じなかった。お前が勝利する可能性を信じることなく、お前ごと俺を核攻撃で葬ることに決めたのだ。無論、それはかなわなかったわけだが。さて、これがお前が全てを捨てて、失って、戦って、守ってきた人類の正体だ」


 山羊頭の魔神の語気には、愉悦がにじんでいる。


「どうだ? いまのお前の心象を言い当ててやろう。黒だ、絶望の黒。家族を皆殺しにされ、それだけに留まらず守るべき街を、守りたかった人々を、まさか核で焼き尽くされるとは。お前の戦いは無駄だった。いや、戦わない方がマシだったというものだ! みんな死んだ、お前のせいで!」


 勝利を確信する山羊頭の魔神は自然、早口となる。

 が、それを日日野まもりはかぶりを振り、遮った。無感情な昏い瞳が、開かれた。


「雑魚ほど主語が大きい」


 は? と呆けた魔神に対して、日日野まもりはわらった。


「これは“人類の”選択ではない」

「詭弁を言うな。この核攻撃は人類によるもの――」

「違うな。“在日米軍の”選択だ。この落とし前はあとでつけさせる。この私が、貴様を惨たらしく殺したあとでな」


 日日野まもりの戦装束が変容していく。

 雪の降りしきる中で。否、雪ではない。放射性降下物が降りしきる中で。

 先程まで黒色こくしょくを基調とする戦装束は、いま殺意と死に彩られる。


「だいたい“お前のせいで”とは何事だ? この街が、人々が死んだのは私のせいではない。直接的には核ミサイルのキーを回したやつだし、あるいは核攻撃の命令を下したやつだろう。間接的には私ではなく、貴様ら侵略者に原因があるはずだ」

「侵略者を焼くために街を滅ぼす、これが人類の愚かさ――」

「もう1度言う、雑魚ほど主語がでかい」


 嘲る日日野まもりが突き出した掌に、魔力が集積されていく。


「私にも感情はある。悔しいし、悲しい。でもそれ以上に、貴様が憎い。そして、嬉しいんだ」

「は?」

「ここでならどんな魔術を行使しても、許される。確実に貴様を葬れる」


 1秒未満の高速で、日日野まもりの魔術は完成する。

 山羊頭の魔神もまた咄嗟に防御魔術を完成させていたが、即座に悟った――次に放たれる一撃は回避不能、防御不能のそれとなる。


「冒涜的だな! 日日野まもりィ、ここでそれを使うか!?」

「包丁も、爆弾も、使い道次第だ。【火球投射アトミックシュート】」


 魔神の戯言を無視して放たれる一撃は、人工の太陽を生み出した。魔力によって編まれた防御スクリーンを貫徹し、その内部で炸裂した50メガトンの暴虐は山羊頭の魔神を圧殺し、同時に焼殺し、その細胞のすべてを再生不能のレベルまで破壊せしめた。


「……」


『環境少女、日日野まもりR!』第11話・日々のジェノサイド! ……。

 この回の再放送をタクシーの後部座席に付いているTV画面で、偶然見ていた外来生物対策室長の逆田井は、自嘲気味に薄く笑った。


(くだらないプロパンガンダ・アニメ……)


 というのが逆田井の『環境少女、日日野まもりR!』に対する評価である。

 第11話で言いたいことは、Bパートで直接的に語られている「国防のために国内でNBC兵器を使用したり、街を焼いたりした場合、責められるべきは侵略者である」ということ。それからAパートで遠回しに示された「目には目を、歯には歯を」、というところであろうか。


まままま「まりも」♪

りりりりり「もり」♪

もももも「もりま」♪ ←「えっなにそれは?」


 本編と落差が激しすぎるエンディングに目もあてられず、ふと窓の外に視線をやる。

 久しぶりに見る異世界ではない空は、濁ってみえた。降りしきる雨。車窓にへばりつく水滴は、透明なのか灰色なのか黒色なのか、わからない。

 公用で久しぶりに関東に戻っていた逆田井は、休む間もなくタクシーで埼玉県さいたま市北区に向かっていた。




◇◆◇


次回更新予定は11/10(火)となります。

埼玉県さいたま市が登場した時点でこのあとの展開が読めた方もいらっしゃると思います。

『環境少女、日日野まもりR!』のED曲は『まままままもり式☆りべんじゃーず(作詞:河畑濤士)』です。規約には違反しておりませんのでよろしくお願いいたします。

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