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■31.もやそう、どうぶつの街!

 装甲艦隊が航空攻撃と艦対艦ミサイル攻撃によってみなことごとく廃艦となった頃、日本国環境省環境保全隊は、AAV7とCH-47JAを尖兵とする強襲上陸作戦を敢行した。彼らが最も恐れたのは、身動きの取れない洋上で野戦砲の射撃に晒されることであったが、皇族公爵バルハルダロス率いる革命軍は沿岸部への布陣を避けたため、環境保全隊の上陸は着々と進んだ。

 では革命軍はどこにいるかと言えば、帝都にいた。フォークラント=ローエン野戦軍の敗戦から、皇族公爵バルハルダロスは水際作戦に打って出ることは無謀であり、さらに平野での戦闘も不利であることを学んでいた。

 ならば、市街戦である。

 市街地は火力を吸収する――という現代戦のセオリーを彼が知っていたかは不明だが、帝都市街であれば環境省環境保全隊よりも、彼ら革命軍将兵の方が地理に明るい。地下道や地下水道、代々の皇族や高級貴族らが張り巡らせた秘密の隠し通路もある。敵に逆襲を食らわせたり、あるいは包囲されても外部との連絡を保ったりすることは十分可能だった。市民の多くはすでに戦争の臭いを嗅ぎ取って、帝都から避難を終えていたから、革命軍による家屋や食料等の徴発も順調にいった。


「害獣どもは我を引きこみ、出血を強いる腹積もりか」


 その意図するところを環境省環境保全隊の職員らは容易に見抜いたが、バルバコア・インペリアル・ヒトモドキの大群が市街地に潜んでの籠城戦を選択した以上、それに応じざるをえない。

 だがしかし、最初から地上部隊を送り込めばさしものの環境保全隊といえども苦戦は必至――であるから、彼らは帝都を焼却することに決めた。


「ドロップ」


 環境省環境保全隊が出撃させた12機のF-15SEX-J戦闘攻撃機、その操縦士らは何の躊躇いもなく翼下に備えた航空爆弾を眼下へ投じた。最初に投弾された一発は、宮殿の屋根に接触すると黒煙を纏う橙色の火球を噴き上げた。煙を曳きながら、燃焼する燃料の塊が飛散し周囲に降り注ぐ。


「炎――」


 呆然と宮殿直上に視線を遣った大通りの兵士はその1秒後、大通りの中心に生まれた火球に呑み込まれる。1000℃を超える地獄の業火。彼が熱を知覚し、苦しんだ時間は僅かであっただろう。彼は周囲の有機物とともに瞬く間に炭化した。


「火、火の海だ……」


 飛散した粘性のある燃料の塊は、石造りの建物や石畳の路面にへばりつきそのまま数分間に亘って燃え続ける。そのため裏路地に潜んでいた兵士の中には、逃げられぬまま酸欠で倒れる者が続出した。


「奴らはこの帝都もろとも我々を焼き尽くすつもりか!?」


 市街地に点在する緑地帯のひとつ。巧妙な擬装とともに設置された司令部にて、革命軍の指揮を執っていた皇族公爵バルハルダロスは、気を動転させていた。多少の航空攻撃は覚悟の上だったが、まさか市街地の一角を焼き払うほどの火力を環境省が有しているとは思わなかったのである。


「抜け道がございますっ! まずは御身の無事こそ……」

「そ、そのとおりだな」


 一瞬だけ呆けた皇族公爵バルハルダロスは、司令部を放棄することに決めた。敵が投下する爆弾の火勢は、帝都全体を焼き尽くすかと思われるほどである。敵の眼をごまかせるはず、という考えの下で司令部を構えたこの緑地帯も、かえって危険だった。左右に導かれ、森林の外れにある地下道へ向かう――次の瞬間、暴虐が彼らにしかかった。

 超音速の爆風。

 何か言い残すことさえ出来なかった。急激な気圧変化によって皇族公爵バルハルダロスの眼球は破裂し、鼓膜は裂け、皮膚は破けてめくれ上がり、内臓という内臓ははじけてしまった。後に残るのは、無数の穴が空いたことであまりにも小さくなってしまった生命の抜け殻である。

 少し離れた場所にいる士卒や貴族らも同様の死を迎えていた。眼窩から血を流しながら斃れる兵士。内臓が破裂して即死した騎士号持ちの下級貴族。鼓膜が破け、肛門から血を垂れ流しながら、痛みにのたうち回る子爵――。


「我々は、何と戦っている!? 何と戦っている!?」


 この惨劇の中、奇跡的に生き残っている兵士は何事か泣き喚いていた。信じられない。これは砲撃や爆撃という範疇の攻撃では到底ない。都市を一瞬で滅ぼしたというレッドドラゴンのブレス、その再現ではないか?

 そう思った瞬間、至近距離にて新たな航空爆弾が弾け、火球が彼を呑み込んだ。


「帰投する」


 炎上する帝都を背に、黒鷲らは去っていく。

 ナパーム弾と燃料気化爆弾による連続攻撃。環境省内でもこの種の爆弾を使用した航空攻撃に関しては多少の議論を要したが、最終的には「ナパーム弾と燃料気化爆弾の使用により、人的損害は最小限に抑えられる」という“人道的思考”から投入が決定された。この人道兵器による攻撃は、勿論1回で終わるものではない。

 第一次攻撃隊が去った後、新たに8機のF-15SEX-J戦闘攻撃機から成る第二次攻撃隊が帝都上空に現れた。当然の如く、その翼下にはナパーム弾や約900kgの航空爆弾、燃料気化爆弾が吊り下げられている。

 それが飛び去った後に残ったのは、四肢を折り畳んだ姿で炭化した死骸が無数に転がる死都しとであり、この死都を環境保全隊は容易に陥落せしめた上、帝都の周囲――皇帝直轄領を楽々と占領してしまった。

 この時点でもはや帝国側に、抵抗可能な野戦軍は残っていない。辺境領から押し寄せる環境保全隊の地上部隊と対峙していた直轄軍・諸侯軍は、激しい砲撃によって壊滅していたし、革命軍に参加した諸侯と士卒は、みな帝都と運命をともにした。

 日本国環境省環境保全隊に対する継戦能力を残しているのは唯一、聖領のみである。




◇◆◇


次回更新は10月25日(日)を予定しております。

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