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■3.害獣対策に、撃つだけ簡単!ハイドラロケット(19本×4セット)!

 執行艦『ひゅうが』飛行甲板から浮かび上がったAH-64Dは見る見るに加速し、時速約250kmでハゼ港湾へ向かった。昆虫然とした外観を有する陸戦最強の怪物は、死の羽音はおとを轟かせながら、『はたかぜ』を飛び越して湾の中心部に達する。『はたかぜ』といえども港湾の最奥部にある砲台を叩くのは骨が折れるが、このAH-64Dならば容易い仕事だ。


「GTM(対地目標モード)」


 メインローター直上にあるAN/APG-78レーダーが起動し、最大出力で発射されたビームが敵静止目標を捜索する。この間、約6秒。そしてAH-64Dの操縦士はすぐさま攻撃準備を整える。死刑執行の用意は、わずか10秒で完成した。


「ウエポンズフリー、エンゲイジ」


 次の瞬間、AH-64Dは翼下よくかの暴虐を解き放った。ハイドラ70mmロケット弾76発による連続射撃。空翔ける火箭かせんは執行艦『はたかぜ』が撃ち漏らしていた砲台に突き刺さり、火砲を、弾薬を、有機物を燃やし尽くしていく。


「あれはなんだ」


 指揮所に詰める士卒らは、騒然とした。

 レッドドラゴンではないか、と誰かがぽつりと言った。レッドドラゴンなど、神話における架空の生物に過ぎない。だが、周囲に居合わせた者たちは、誰も笑わなかった。笑えない。目の前にレッドドラゴンを彷彿とさせる大火力が、実在しているからだ。

 焼滅しょうめつしていく砲台、炭化していく砲兵。彼らの墓標が、燃える砲台から高々と上がる。


「神の怒りか」

「馬鹿な――」


 そう言いかけたとき、港湾の最奥部にある指揮所に2発のロケット弾が突っ込んだ。連隊長をはじめとする士官らは何も分からないままに、煉瓦と弾片と爆風と火焔が一緒くたになった塊に薙ぎ倒された。後に残ったのは瓦礫と血肉のペーストである。

 それを見下ろしながらAH-64Dはハゼ港湾に向けて攻撃を続けた。接岸している帆船を30mmチェーンガンで粉砕し、こちらに小銃を向けている人影を捕捉して、ハイドラ70mmロケット弾を躊躇いなく撃ち放つ。


(駆除と産廃処理が同時に出来て一挙両得だなこりゃ)


 日本全国には死蔵されたままの武器弾薬が大量にあり、保管と処理に多大なマンパワーが必要になっているくらいだ。遠慮は必要ない。むしろ積極的に出撃して、装備する武器弾薬を使い尽くした方が、日本国のためになる。というわけで、AH-64Dはハイドラ70mmロケット弾76発と、30mm機関砲弾1200発を撃ち尽くすまでハゼ港湾上空に居座った。


「対地警戒を厳となせ」


 AH-64Dが執行艦『ひゅうが』へ帰投するのと入れ違いに、再び執行艦『はたかぜ』がハゼ港湾に進入する。数十分前まであった端正かつ整然な港湾の姿はどこにもなかった。砲台は煙を吐き、浮かんでいた帆船はみな無残な姿を洋上に晒すか水底みなそこに沈んだ。岸壁上に積まれていた積荷が、轟々と燃えている。

 執行艦『はたかぜ』は事前に準備していた特注の拡声器で、沿岸に向けて英語で交渉を呼びかけた(相手は動物なので“交渉”という言葉遣いはあまり適切ではないかもしれないが)。


「反応なし」

「撃ち方始め」


 1分待っても反応がなかったため、執行艦『はたかぜ』は2門の砲を以て連続射撃を開始した。狙いなどない。避難が終わって無人になっている鈍色の街並みを吹き飛ばしていく。交渉に応じないなら、この砲が届く範囲の物体すべてを破壊するぞ、という恫喝――ではなく慈悲深い説得である。

 数分すると、岸壁にふたりの影が現れた。必死に手を振っている彼らは港湾海防連隊の副長と、その部下であった。連隊長の戦死を確認したため、隊の最先任、そして港湾の代表者として『はたかぜ』の前に現れたというわけだった。


「すぐに会おう」


 野生生物課長の鬼威は、執行艦『ひゅうが』艦上のCH-47JAに乗り込んだ。危険は承知の上であるが、彼は――というか、環境省の官僚らはみな居ても立っても居られない性質たちの人間揃いである。

 前述の外来生物対策室長・逆田井も、「まだまだこちらに害意を持つ害獣どもが蔓延はびこっているのでは」と眉を潜めたが、鬼威に続いた。他にも鳥獣保護管理室長の藍前あいぜんや、希少種保全推進室長の御寧おねいといった幹部達も、年甲斐もなく胸を期待と不安でいっぱいにしながら、ヘリに乗り込んでいく。

 乗員には彼ら文官だけではなく、自動小銃等で武装した隊員も混ざっていた。

 このあたり、ぬかりはない。




(次回更新は9月6日となります)

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