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■28.帝都撃侵!

 ……という逆田井の発言とは裏腹に、艦隊決戦が現実のものになるかは微妙なところであった。

 日本国環境省環境保全隊は航続距離の長いF-15SEX-Jにより、昼夜兼行の帝都爆撃を開始していた。その狙いは直轄軍司令部や、官庁街である。環境保全隊からすると、トップの皇帝は生きていようが死んでいようが関係ない(むしろ愚か者には生きていてもらった方が都合がいい)のだが、皇帝の下に連なる有能な官僚や機構、軍事組織は徹底的に潰しておきたいところであった。

 その所在に関しては、冒険者から仕入れた情報や、洋上を往く執行艦から飛び立ったF-35Bによる情報収集により、大雑把に掴んでいる。あとはそこに数トンの航空爆弾を投下し、更地さらちに変えるだけでよかった。


「皇帝陛下の直轄軍は遊んでいるのか!?」


 帝都に住まう臣民の衝撃は大きい。


「敵がいるじゃないか、敵が来ているじゃないか、敵が爆撃してきているじゃないか。なんで高速航空騎兵隊は出動しないんだ!」


 高速航空騎兵隊は緒戦で壊滅状態に陥ったことを知らされていないため、臣民は裏切られたという感情を持たざるをえない。血税を投じ、直轄軍将兵の横柄を許してきたのは、今日のためではなかったのか、というわけである。この臣民らの怒りに、バルバコア帝国中央政府の関係各所は弁解すら許されない。なぜなら言い訳を考える前に、みな消し飛ばされていくからである。

 被害を軽微に留めることが出来たのは、装甲艦隊の水上艦艇のみであった。


の航空戦力が我を凌駕している以上、港湾施設や地上の司令部は危険である」


 と、見抜いた艦隊司令官ウバルカルは、地上にあった司令部の機能を可能な限り洋上へ移し、切り札となりうる巨艦は帝都近傍の軍港から北方へ避退させていた。残っているのは数隻の非装甲フリゲートと、小島の傍に擬装を施してひそんでいる2隻の装甲艦のみである。


「クレイハルゲリアが」


 その装甲艦も1隻は爆焔ばくえんを噴き上げて、大破着底の憂き目に遭った。

 F-15SEX-Jが高高度から放った誘導爆弾は重力に惹かれるまま、艦体中央部の甲板に突っ込んだのである。旧式装甲艦であるクレイハルゲリアは舷側に100mm前後の装甲板を有するが、甲板は非装甲だ。その甲板を容易にぶち破った誘導爆弾は、クレイハルゲリアの体内で炸裂した。堅牢な艦上構造物と脆弱な生命が空中に噴き上がり、無機物と有機物が混淆した土砂降りの雨が海面を叩いた。このとき乗員600名のうち、過半数が即死している。

 残るは同じく旧式装甲艦のハレイカルバニアであるが、こちらもまたいつ空襲に晒されるか分かったものではなかった。


 そんな中で、皇帝の住まう宮殿だけが無傷のまま取り残されている。


「戦力の抽出と再編はまだ終わらないのか!?」


 と、皇帝キルビジアス11世は左右を詰問したが、有能な者ほど北方戦線から戦力を抽出・再編したところで勝ち目があるとは思っていなかった。一応、他方面から航空騎兵を掻き集めて1個大隊36騎を揃えたが、だからといって侵入する敵機を撃退できるわけでもない。高速航空騎兵隊の指揮官はすでに帝都防空を諦め、一縷いちるの望み――装甲艦隊の直接援護にこの36騎を廻そうかと思案していた。

 つまり皇帝のお膝元である帝都と帝都近郊を一種の囮とし、切り札である海空戦力を温存しようというのである。

 だがその大戦略も、皇帝キルビジアス11世には理解できない。


「なぜ避戦の構えをとるッ!? 我が軍は慣れ親しんだ地の利、帝国臣民が味方するという人の利があるのだぞ。圧倒的優位だ。足りないのは戦力ではない、天運を引き寄せる勇気ではないのか!?」


 と、残った数少ない部下を面罵した。

 一方、彼らは内心、「地の利も人の利も勇気でさえも、圧倒的火力と想像を絶する機動力に吹き飛ばされている現状で、馬鹿正直に戦ったら死ぬでしょぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!?」と思ったが、まさか口にするわけにもいかない。

 こうして皇帝キルビジアス11世に対する不満が高まる中、起こるべくしてそれは起きた。


「陛下は御乱心あそばされた!」


 軍事クーデターである。

 首謀者は早々に領地にて戦支度を整えていた皇族公爵のバルハルダロスであり、環境省環境保全隊の北侵に備えるという口実で帝都近辺にまでやって来ると、機を見て一気に帝都をいた。バルハルダロスだけではない。彼に同調する大小貴族も少なくない手勢を引き連れて宮殿を目指したし、彼らに通じている帝都勤めの官僚も多かった。


「外敵がいま目の前に来ているというのに、どういう了見だ!? この愚か者どもがぁ!」


 と、キルビジアス11世は吼えたが、彼には抗する術がなかった。

 彼が片時も離れようとしなかった壮麗な宮殿に地の利はなく、彼が窮したときに身命を賭して戦ってくれる者はなく、そして彼がすがる天運などというものは最初から実在していない。


(愚かに過ぎたのが悪いのです)


 対して、絶対成功の確信とともに決起に踏み切ったバルハルダロスは、ほくそ笑んだ。彼もまた楽観論者であった。キルビジアス11世を捕虜として日本国環境省と交渉すれば、必ず講和に漕ぎつけることが出来るであろう、と考えていたのである。


「まだ宮殿内を捜索しているのか?」


 だが、何かがおかしかった。

 私兵らが宮殿に踏み入ってから数時間しても、捕縛成功の報告は上がってこない。

 バルハルダロスが本営にて「もしや」、と思ったときには、すでにキルビジアス11世は帝都にはいなかった。


「……朕を侮りおって!」


 最後の忠臣である艦隊司令官ウバルカルの陸戦隊と、彼が雇った冒険者に連れられて、彼はいま洋上――旧式装甲艦ハレイカルバニアにいた。




◇◆◇


次回、■29.珍事、御前海戦! に続きます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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