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■26.静かに、穏やかに、変わりゆく環境!

「何が起きているのだ」


 バルバコア・インペリアル・ヒトモドキと環境省環境保全隊が睨み合いを続けるその遥か北方――バルバコア帝国北西部に境を接するエクラマ共和国、その防衛を任とするエクラマ国防軍総司令部の幕僚スタッフらは小首を傾げていた。

 数週間前からバルバコア帝国軍に動きがある。確実に国境線に張りついている戦力が減っているのだ。10日前まで嫌がらせのように続いていた航空騎兵による航空偵察もぱったり途絶えている。

 何かが起きているのは、間違いない。


「バルバコア帝国が我々の方面から部隊を抽出しているとすれば、それはただひとつ。いよいよ“連邦”との再戦が近くなってきたということか」

「どうでしょうか。季節は秋。これから戦争を始めれば冬が来ます。人民革命国連邦軍に喧嘩を吹っかけるには最悪の季節です。こちらの油断を誘うつもりかもしれません」


 どうだかな、とエクラマ国防軍最先任幕僚長のユリーネは吐き捨てるように言葉を続ける。


「現皇帝は阿呆だ。……その阿呆が率いる連中にも苦戦を強いられるのがいまの我らだが」


 中小国のエクラマ共和国は北側から東側にかけて、超大国の人民革命国連邦と国境を接しており、主として南側でバルバコア帝国と対峙している。西側は海浜だが、戦時ともなればどちらを相手にしても制海権は取れないため、安全だとは言い難い。

 故にエクラマ共和国では国民皆兵制を採用し、精強ではなくとも(その台所事情のために銃器を揃えられない)、国家に忠誠を誓う常備軍を維持しているが、それでも全周警戒の態勢をとり続けるのは苦しい。理想からはかけ離れた最低限の戦力しか貼りつけることが出来ていないのが現状である。

 しかしながらここにきて、ふっとバルバコア帝国と睨み合う南部国境線のプレッシャーが弱まった。


「敵の意図をあれこれ考えても仕方がないし、分かったところで我が軍に何が出来るわけでもない。我々としては現状の警戒態勢を維持するほかないというわけだな」


 半ば自虐的に、半ば楽観的に言って周囲の笑いを誘ったユリーネ最先任幕僚長だったが、脳裏では警鐘が鳴っている。


(バルバコア帝国が国境線から兵を引き始めた。もしも連中が政変などの都合で人民革命国連邦との停戦合意ラインからも戦力を引き抜いていたら?)


 そうなれば、人民革命国連邦軍は動き出すだろう。

 ただ縦深のあるバルバコア帝国に対して、ではない。

 バルバコア帝国を警戒するがあまり、“回収しきれずにいる”このエクラマ共和国に対して、である。


◇◆◇


 非現実的な方針や命令を打ち出したり、進行中の様々な事柄に口出ししたりするのは得意だが、実務には興味がない皇帝キルビジアス11世は何もすることがないので、御前会議は連日のように行われたが、その参加者は徐々に減り始めている。「流行り病にかかった」と官僚がひとり欠け、「自領に戻って戦支度する」と貴族がひとり欠け。

 だがしかし、皇帝キルビジアス11世は、それが何を意味しているか考えようとはしなかった。

 良くも悪くも彼は、外敵といかに戦って勝つかしか考えていなかったのである。

 そして勝利の鍵となるのは帝国の装甲艦隊であり、これが戦えば必ず勝つとまで思い込んでいた。

 この点、根拠がないわけではない。


「20年前に“海の民”が現れたように、彼ら日本国環境省なる連中も海からやってきた。つまり本拠地は海の向こうにある。兵器や物資もすべて海の向こうから運んでくるわけだ。だから海戦に勝てば、連中は補給もままならず立ち枯れていくのさ」


 と、彼は自慢げに左右へ語って聞かせている。


 ところがしかし、その装甲艦隊は未だ動いていない。


「装甲艦隊の出征はまだか!」


 彼が期待をかける装甲艦隊は、未だに帝都西方に位置する軍港に留まっていた。

 矢のような催促にも、装甲艦隊司令部はやれ物資を積み込む人夫にんぷが集まらないだの、やれ旗艦の機械トラブルが発生しただのと口実をつけ、頑として動かなかった。

 装甲艦隊の指揮を務める艦隊司令官ウバルカルは、御前会議に呼びつけられて皇帝から2時間に亘って叱責されたが、それでも装甲艦隊が動く気配は微塵みじんも見せない。


「そろそろ動かなければ、解任されますよ」


 と、周囲が忠告しても、老齢の司令官は首を振るだけだった。その一方、彼は陸戦隊の戦闘準備を秘密裏に命じており、また私財をなげうったり、口説いたりすることで手練れの冒険者を集めていた。


 さて。

 三者三様、みなそれぞれの思惑をもって動いている最中さなかで、皇帝キルビジアス11世に一応の忠誠を誓っている官僚や貴族の中には、独自の和平交渉にあたる者たちも現れた。その中のひとりが仲介役として選び出したのは、バルバコア帝国の片隅で特異な存在感を放っている聖領、その高級神官のナサキシエである。


「承りました。拙職せっしょくが日本国環境省なる方々とお話をいたしましょう。少しでもこの星の未来と、生命についてお考えの方々であれば、聖なる教えに気持ちを動かされるはず」


 そして海の青を纏ったかのような長い青髪と、森の緑を封じ込めたかのような翠眼すいがんの女性は寸鉄も帯びずに日本国環境省環境保全隊の前に現れた。




◇◆◇


次回、■27.そこまで言って委員会ISKI! は、私が過労死していなければ10月14日(水)に投稿予定です。

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