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■25.“睨み合い”!?

 環境省環境保全隊にしてみれば最大の脅威とは、獣害を引き起こす駆除対象のバルバコア・インペリアル・ヒトモドキではなく、“距離”であった。旧陸上自衛隊機械化部隊は快進撃を続け、瞬く間に陸路にてホウテン円形都市跡地周辺まで進出したが、そこで停止を余儀なくされた。物資の補給が追いつかないのである。


「こればかりはどうしようもあるまい」


 と、野生生物課長の鬼威も諦めた。

 シャングリラ級大出力電源艦の連続稼働により、ピストン海上輸送を実施しているが、荷揚げや仕分けに相当な労力と時間を必要としている。地震の影響によってインフラが少なからずダメージを受けたのも大きかった。人手も足りない。物流管理が重要となる現代戦さながら、最前線でバルバコア・インペリアル・ヒトモドキを駆除する環境省職員よりも、後方支援の職員数の方が遥かに多いのだが、それでも一部には過労状態に陥る者も現れていた。

 これを補うために環境省は万単位でのさらなる人員の増強を決定。『バルバコア自然公園』拡張姿勢を内外に強く示してみせた。


 他方、バルバコア帝国首脳陣は現地の抵抗活動に期待をかけていた。

 高級貴族が斃れたとしても、その家臣らまで全滅することはない。彼らは必ずや地の利を活かし、最後まで抵抗するであろう。すでに『バルバコア自然公園』の版図に組み込まれた旧フォークラント=ローエン領や旧スカー=ハディット領も、未だ不安定な状態が続いているはず。環境省環境保全隊は足止めを食う。厭戦気分が蔓延するはずだ――と考えていたのである。

 だがしかし、これはあまりにも楽観的であった。


「直轄軍は何を考えているのかッ」

「航空騎兵と言えば、皇帝の指図で動く連中だろう!」

「奴には人倫というものがないのか! 阿呆にはつける薬もないわい!」


 現実は真逆に働いていた。

 旧フォークラント=ローエン領・旧スカー=ハディット領に住まうバルバコア・インペリアル・ヒトモドキらは、高速航空騎兵隊を差し向けたバルバコア帝国中央政府に憤怒した。実はF-15SEX-Jの要撃が間に合わなかった緒戦の僅かな間、高速航空騎兵隊は幾つかの村を襲撃し、これを焼いていたのである。震災直後の混乱の最中に村を焼きに来る連中と、震災後の復興活動に手を貸す集団。

 彼らがどちらに加担したかは、言うまでもあるまい。

 これでは現地貴族の生き残りがゲリラ戦を展開しようにも、地元の支援を受けることはできない。それどころか怪しい人物は即座に通報される始末であり、むしろその情報の精査に環境省環境保全隊の駐屯部隊は頭を悩ませた。が、ともかく環境省職員が恐れたような泥沼の地上戦は、生起しそうになかった。環境省環境保全隊は朝鮮半島・中国大陸の戦訓から、バルバコア帝国中央政府や加工利用派貴族の生き残りが、相手を人民の海に溺死させる人海戦略・戦術――否、相手を猿の海に溺死させる猿海えんかい戦略・戦術を採るのではと警戒していたのだが、取り越し苦労に終わったわけである。

 こうして、環境省環境保全隊からすれば“睨み合い”の一週間が過ぎていった。


「隊の移動は日没後だけだ」


 だが、帝国直轄軍と南部諸侯らの野戦軍からすれば、“睨み合い”ではなく地獄めいた一週間にほかならなかった。

 環境省環境保全隊は地上部隊の前進を停止させていたものの、航空部隊による攻撃は継続させていたし、かなりの戦果を挙げていた。

 相手は電波を出さないため、指揮系統や通信系統を破壊するのは容易ではないとみられていたが、実際には緒戦の諸侯らは、滞陣時に士気高揚を図って軍中旗を揚げさせたり、あるいは見晴らしのいい場所を求めて丘の上に陣取ったりもした。諸侯の間では環境省環境保全隊の航空攻撃に対する認識には温度差があり、戦訓が十分研究されていなかったのである。

 そのため無人環境監視機ファイティング・アイビスはすぐさまこれを捕捉、後方へ通報できたし、通報を受けたF-15SEX-Jはその一帯を地形が変わるほど猛爆した。また主要な交通網の高空には常にAC-1が張りつくようになり、無用心にも整備された道路を利用しようとした隊は、20mmバルカン砲に薙ぎ倒された。


「戦闘以前の問題で、これでは2、3人が戦場に辿り着ければ幸運だ……」


 とある下級貴族はそうぼやいたが、その通りであった。

 24時間に亘って、航空攻撃でどこかの野戦軍が吹き飛ばされている。また既存の交通網が使えないために、現地の土地勘がない貴族の隊に至っては現在地を見失い、移動に想定外の時間を食った。最悪のケースだと、分け入った山中で遭難している。

 これでは戦争どころではない。

 戦争どころではないのだが、現地の面々に対して皇帝キルビジアス11世は、「一人一殺、刺し違えるつもりで敢闘せよ。さすれば最後に地に立っているのは我が方である」と檄を飛ばし、早期の攻勢に打って出るように催促した。

 野戦軍の士卒らは、顔を見合わせざるをえない。




◇◆◇


次回更新は10月12日(月)となります。

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