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■23.地震、雷、火事、日本人(おやじ)!(前)

「まさにこれこそ天祐てんゆうよ」


 皇帝キルビジアス11世は抱腹絶倒、まさに“おれの喜びが有頂天になった!”状態だった。馬鹿げたことに「朕は全世界に愛されている」、とまで放言してみせたほどである。人間の力ではどうすることもできない天災が、『バルバコア自然公園』を襲った――これぞ千載一遇の好機だと彼は直轄軍に号した。


「日本国環境省なる化外けがいの蛮族どもも、この地震で身動きがとれまいッ! いまこそ天を味方につけた我が帝国軍が、彼らをくだすとき!」


 すでに直轄軍や高速航空騎兵隊、装甲艦隊は勿論のこと、ウォーマット=ルベット奴隷伯をはじめとする南部諸侯軍の動員は完了していた。躊躇う理由はない。この機を逃してなるものかと彼らは勇躍、南侵を開始した。


「“再現”、だな」


 それに対峙する日本国環境省環境保全隊の面々は、冷然に、凄然に、嚇怒かくどした。

 環境省職員の誰もが日本列島を襲った一昔前の激甚災害――南海トラフ巨大地震を思い出していた。

 正確には、この激甚災害そのものだけではない。

 それを奇貨として軍事行動に移った周辺国や、窮地に陥った日本国を助けなかった同盟国。

 言うなれば、“世界の裏切り”を脳裏に思い浮かべたのであった。


 思えば、その日から日本国民は狂気に囚われた――否、“正気”に返ったのだろう。


 国家間に友情などありえず、世界平和などありえず、人道正義などありえない。

 世界とはつまり、弱肉強食の生存闘争の場。

 友情など、平和など、正義など、すべては自身が有利に生き残るための方便ほうべんに過ぎない。

 国際社会など、殺す殺されるが横行する野放しの自然環境と変わらなかった。

 それに気づいた彼らは“復興”を成し遂げた。

 もともと北朝鮮弾道ミサイル誤射事件や京都議定書に端を発する日米中関係悪化、中国人民解放軍の軍拡もあって、右肩上がりであった防衛費の折れ線グラフは、ここにきて“絶壁”が如き様相を呈し、さらに日本国民の熱狂は一見すると安全保障に無関係な省庁に重武装化を要請するに至った。外務省の邦人救出チーム(事実上の斬首部隊)の創設を皮切りとして、日本列島と海外拠点要塞化を進める復興庁、国土交通省。そして、法務省。宮内庁。経済産業省。文部科学省……。むしろ旧自衛隊装備品を継承している環境省環境保全隊は、中でも最後発に近い存在である。

 日本国民自身もまた狡猾で、過激になった。日本国に対して引け目を感じているらしい同盟国を最大限利用して復興ぐんかくを成し遂げ、周辺国に苛烈な復讐戦を挑んでいった。


 勿論、そんなことを皇帝キルビジアス11世は知らない。

 知りようもない。だが到底、許されることではなかった。

 被災地に対する侵攻は日本人の逆鱗に触れる行為にほかならず、そんなことをすれば日本当局は、苛烈な報復に打って出る。ユーキャンの流行語大賞に、時の防衛大臣が放った一言、「法的根拠は後からついてくる」が大絶賛とともに選出されたように、彼らは最初から無制限の大規模攻撃に移り、殲滅してから辻褄を合わせていく。

 不幸中の幸いがあるとすれば、異世界なわばり争いに、旧アメリカ軍の戦略装備を振りかざすことを第一に考える総武省ではなく、まだ自制的な環境省が勝っていたことであろう。

 だが、バルバコア・インペリアル・ヒトモドキたちからすれば、程度の差でしかない。


「勝負にすらならない!」


『バルバコア自然公園』襲撃を試みた高速航空騎兵隊は、4日で壊滅した。

 実際のところ、皇帝自慢の最強兵科である航空騎兵が空を舞ったのは最初の2日に過ぎない。

 出撃した騎兵はみなことごとくF-15SEX-Jに邀撃ようげきされた。航空戦を辛うじて潜り抜けた少数騎も、害獣駆除用の対地火器として境界線沿いに前進配備されていた20mmVADSや、35mm連装高射機関砲L90による射撃で文字通り粉砕された。


「地対空誘導弾すら必要ない」


 この結果に環境省職員らはあざけったが、対する航空騎兵らはこの“正確無比な対空射撃”に恐怖した。なにせ機関銃も知らない彼らである。突如として空中で襲いかかってくる空対空誘導弾の一撃は高速すぎて認知すらされないこともあったが、こちらは地上から撃たれていることがわかる。認識できてしまう。故に彼らに深いトラウマを刻み込んだ。


「こっちは敵も見えない内にバタバタやられていくんだ、もう上がりたくねえ!」

「命がけで越境してもどうだ!? 連発銃か攻撃魔術か知らないが、回避も出来ない弾幕を突破しなきゃならん!」


 3日目には士気旺盛のはずの航空騎兵のほとんどが任務を拒否し、地上に留まった。


 そして4日目、前進基地に留まったままの高速航空騎兵隊の生き残りは、高空から発射された巡航ミサイルの乱打を受けてこの地上から消滅した。




◇◆◇


劇中のイベントは現実の時系列とは関係がありません(我々が南海トラフ巨大地震を経験していないからといって、劇中の南海トラフ巨大地震が2020年以降の出来事であるとは限らないということです)。


荒唐無稽なファンタジー小説ですが、今後ともお付き合い頂ければ幸いです。


次回更新は10月7日(水)を予定しております。

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