表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/95

■20.円形都市<キリングフィールド>!

 地道な情報収集により、加工利用派のバルバコア・インペリアル・ヒトモドキの居場所を割ることに成功すると、環境保全隊は概ねふたつの戦術のどちらかを採った。

 ひとつはF-15SEX-J戦闘攻撃機の空爆による暗殺である。メリットは迅速かつ損害が出る恐れが少ないことであった。ところがしかし、誘導爆弾で相手の城館を吹き飛ばしたのでは、標的としたヒトモドキの生死が明確にならない。

 であるから次第に、環境保全隊では地上部隊による“斬首作戦”が重視されるようになっていった。

 特殊駆除チームをティルトローター機で投入し、確実にターゲットを殺害するのである。

 無論、戦闘が発生する以上、犠牲者が出る可能性は高い。

 だがしかし、彼らは任務を連続で成功させ続けていたし、きょうもそうなるはずだった。


「ウ゛ォ――!」


 闘技場に新手が現れる。背中から4本の武器腕ぶきわんを生やした怪物、エルフ・バーサク。文字通り人外じみた俊敏さで地を蹴り、近傍に居合わせた隊員に殴りかかる――が、隊員は目前に迫った異形に、怯むことなどなかった。

 大鉈を大上段に振り上げつつ、踏み込んでくるエルフ・バーサク。その喉元に小銃の先端に装着された白刃が深々と突き刺さる。散る血飛沫。流れるような動作で、隊員は彼の顔面を銃床の一撃で粉砕した。頬骨が凹み、白いものが口から吐き出される。よろける敵の膝を蹴込けこみで踏み抜き、間合いをとってとどめの斬撃。

 その脇では三つ首のエルフ・ケルベロスが5.56mm弾の連射を受けて、ふたつの頭部を弾けさせている。それでもなお残った頭脳が四肢に命令を下そうとするが、その1秒後にはその残った頭脳も吹き飛ばされていた。鮮血と砕けた脳漿が後方へ四散する。


「あ゛あ゛っ! あの環境省とやらを殺せえ゛!」


 自身の傑作が惨たらしく瞬殺される様を見てバン=ホウテン城伯は激昂したが、周囲はそれどころではない。小銃の有効射程前後に日本国環境省環境保全隊を名乗る刺客らが降着している。このままではバン城伯の、そして自らの身が危うい。


「閣下ッ、避難してください」


 周辺では激しい銃撃戦が始まっている。

 胸甲を身に着けた銃兵たちがライフリング銃で応戦しているが、旗色は明らかに悪い。1分で数名の銃兵がバタバタと斃れた。環境省環境保全隊なる敵が使用する銃器と銃弾の威力は、明らかに高い。胸甲や鉄帽を容易くぶち破ってしまう。


「駄目だッ、火力が違いすぎる!」


 それどころか特殊作戦群第5小隊は銃兵を点射で撃ち殺すだけではなく、ミニミ軽機関銃と40mmグレネードを大々的に使い始めた。銃兵のみならず、逃げ惑う加工利用派の貴族や観客らが薙ぎ倒されていく。それでも隊員らは眉ひとつ動かさない。日本国民から暴力という概念を託されたプロフェッショナルはただ、日本国民と日本国民生存環境の敵をみなことごとく殺していく。


「立てるかッ」


 一方、呆けたまま膝をついていたヴォーリズは、ひとりの隊員に肩を貸されて立ち上がった。


「なんだ……君たちは……」

「日本国環境省環境保全隊(MOE)だ。同胞を解放したくはないか? すぐに案内しろ」

「君たちは人間か?」


 思わず問うたヴォーリズに、隊員はにやりと笑った。


「“俺たちだけ”が、人間だ」

「……どういうことだ?」

「とにかく早くしろ。時間が惜しい。他に戦奴せんどとして捕らえられている同胞はいないのか?」

「いる。こっちだ」


 ヴォーリズの案内で第1小隊は円形競技場の施設内へ侵入した。出入口の確保と、戦奴を繋いでいる地下施設の解放が目的である。後者は希少種保全推進室長である御寧の指示によるものであった。


◇◆◇


「動員をかけろ、街門がいもん閉ざせえーッ!」

手隙てすきの者は俺について来い、バン閣下をお救いに往くぞ」

「ウォーマット=ルベット閣下に急を報せるべきだ。この緊急事態だ、許可を待っている場合ではない」


 一方、街の方々(ほうぼう)にある詰め所には衛兵らが集結し、市街戦の準備を完了させていた。雑踏警備や避難誘導は放棄している。彼らはとにかく円形競技場への突入を考えていた。バン=ホウテン城伯をお守りし、賊を皆殺しにしようというのである。

 で、あるから彼らは街の外に目を向けていなかった。


「おい、あれ見ろッ」


 街壁上層の見張りが、怒鳴った。

 そこにはV-22の機影がある。V-22、V-22、V-22。V-22の雁行がんこう。すでに地上では片道飛行覚悟で進出してきたCH-47JAの一団が、車輛や火砲を地に降ろしている。

 空を、地を埋め尽くす空挺強襲。

 機体の一部には、部隊章が描かれている。煉獄を連想させる炎色えんしょくと、墓標めいた縦書きの『十二』を背景に、髑髏にとまるオオワシ。21世紀に空中機動旅団として第12師団から改変された第12旅団の部隊章だ。得意とするのは旅団規模での完全空中機動による機動戦。そして、容赦なき殺戮である。


 しかしながらこの血も涙もない悪鬼の群れを前にして、街の衛兵らは防御態勢を整えることができていない。衛兵側の主力部隊はみな円形闘技場へ向かった。そして、そのまま帰って来ない。


「畜生ォ――!」

「その畜生に殺される気分はどうだ? ああ?」


 円形闘技場へ突入しようとした衛兵の隊列は、壊乱した。

 巨大な戦斧を振るう茶褐色の竜鱗に覆われたオオ・ヒトトカゲが吶喊し、最前衛の数名が粉々になったかと思えば、ハネツキ・オカアルキが衛兵を浚って数十メートル上空で放り投げ、これを墜死させる。憂さ晴らしでもするように、戦奴だった希少動物たちは衛兵らを殺戮して回った。


「あまり出過ぎるな! 環境省の人間によれば、円形闘技場がいちばん安全らしい!」


 この戦奴隊の指揮を執るのは、長剣を杖代わりにするヴォーリズである。


「わかってる、わかってる!」


 工作や機械に精通しているアゴヒゲ・ヨウセイが、衛兵から奪い取ったライフリング銃で射撃しながら怒鳴り返した。一部の戦奴は戦果拡大の追撃を禁じられ、不満を抱えたが、すぐに理由を理解した。

 CH-47JAが空輸してきた120mm重迫撃砲による連続射撃と、高空に姿を現したAC-1のM61 20mmバルカン砲による地上掃射が街壁を直撃し、長大なる瓦礫のドミノ崩しに変えた。


「す、すげえ」


 ヘビーハンマーと鋼鉄の怪鳥が、退廃の都を突き崩していく。その凄まじさは血に飢えるオオ・ヒトトカゲさえも天を仰ぎ、空を舞っていたハネツキ・オカアルキらもまた驚いて地に降りるほどであった。

 そして地に足を着けて自動車化歩兵となった第12旅団が一挙、円形都市へなだれ込む。




◇◆◇


次回更新は9/30(水)を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ