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■15.『環境少女、日日野まもり!』第9話・ほのおのまもり!

 さて、人知れずスカー=ハディット辺境吸血伯が絶命する一方、『バルバコア自然公園』では環境省による大規模な公園整備が始まっていた。港湾施設の充実、舗装路の敷設、航空基地の開設。これは身勝手な消費のための自然破壊ではなく、大義の勝利のための自然破壊であるから、環境省の面々に躊躇はない。

 村々には太陽光発電設備が導入され、夜闇を払う燈火とうかが普及し始めた。もちろんまだまだ規模はさしたることはなく、村内に打ち建てられた数か所の街灯に電力を供給する程度である。それでもバルバコア・インペリアル・ヒトモドキらは、初めて接する“文明”にいたく感動した。


「刺身なんて10年ぶりじゃないか――!?」


 旧フォークラント=ローエン領が文明の恩恵を受け始める一方で、環境省職員らもこの世界の恩恵に預かっている。新鮮な自然食材、現地動物らが手製する素朴な飲食物は、彼らの士気を高めた。寄港する執行艦の乗組員に好評だったのは、マグロめいた赤身の魚である。食中毒のリスクを鑑みて、一度のチャンスで全乗組員が食せないことがさらにこの魚肉の希少価値を高めていた。

 他方、物々交換をする上でバルバコア・インペリアル・ヒトモドキらが喜んだのは、日本産のビールや煙草、あとは飴やジュースのような甘味かんみである。こうした質のいい嗜好品は、この異世界では高級貴族でもない限り口に出来ないものであり、否が応でも人気が集まった。

 また無税となったことで余裕が生まれ、環境省側に労役を申し出るバルバコア・インペリアル・ヒトモドキも現れ、インフラ整備に人手が足りない環境省側は少しずつ彼らの雇用を進め始めた。ただし賃金は彼らが使う帝国通貨ではなく、環境省が新規発行した環境円で支払う形になっている。




◇◆◇


 濛々たる黒煙で夜空を焦がす森を背に、日日野ひびのまもりは再び立ち上がった。

 鮮血流れる割れた額が、痛々しい。黒のロングヘアは血に濡れ、ところどころ焦げていた。黄緑おうりょくを基調とする戦装束いくさしょうぞくは焼け焦げ、ほつれ、破れている。それでもなお、彼女の瞳から光は消えていなかった。口許の血を煤けた手の甲でぬぐうと、口を開いた。


「わたし、わかったよ」

「樹木は炭となり、草葉は灰となり、人は容易に焼死するということがか?」


 対する業火ごうかの魔人、エフリートは口の端を歪めた。嘲笑である。勝利を確信した嘲笑だ。草木の生命エネルギーを転写して戦う日日野まもりは、荒々しい猛火にはかなわない。ただでさえエフリートは、未だ全力を行使してはいなかったのである。自身は“燃やす側”であるという余裕が、彼にはあった。そして右掌に、火球が生成される。


「【火球投射ファイアボール】」


 全てを無に帰す暴虐が完成した時、エフリートの立つ周辺温度は3000℃にまで急上昇し、空間が燃え上がる。その灼熱の中を、一瞬で有機物を炭化せしめる火球が翔けた。破滅の顕現。

 防御は、間に合わない。

 表面温度数万度に近い地獄の業火は日日野まもりを直撃し、100メートルの火柱となって噴き上がり、彼女を火葬した。骨が残るかも疑わしい一撃――ところが、である。


「炎だって、自然に存在しないわけじゃない」


 巨大な業火の柱が急激に縮小し、背後で森林を舐め尽くす炎の渦が火勢を減じ、そのまま掻き消える。


「は?」


 エフリートは自身の眼を疑った。

 大破壊の中心に、日日野まもりは立っている。

 額からの流血はもう止まっていた。傷口が焼き塞がれている。


「樹木は炭になるし、草葉は灰になるよ。でも森林が死ぬことはないんだ」


 日日野まもりの戦装束は、変貌していた。

 その色は、塵灰と焦土を連想させる黒灰白こっかいびゃく

 だがそれは絶望の色ではない。

 黒は焼滅した後の残り滓の色か――否、あらゆる可能性カラーを抱えた色である。

 灰は果たして燃え尽きた後の色か――否、新たな生命を育む塵灰じんかいの色である。

 白はそこに何もない虚無を表す色か――否、新たに何かが始まる白の色である!


「燃え上がった後には、必ず新しい命が芽生えてくる。燃えてそれで終わるほど、命は弱くなんかないんだ!」


「戯言をッ」


 エフリートが再び、火球を生成せんとする。

 それと同時に、日日野まもりもまたえた。


雷炎らいえんもまた自然現象なら――わたしにだってコントロールできるはずッ!」


 彼女が纏う純白の装甲、その表面から魔力が弾けてスパークする。

 構えた日日野まもりの右掌が発火した。

 が、弱弱しい炎だ。ようやく灯火ともしびといったところか。これでは何も焼けはしないだろう。


「ふざけるなよ、日日野まもりィ――」


 エフリートは最大出力の火球を練った。

 単純な破壊力に直せば、1メガトンにも及ぶであろう。

 比喩ではなく、すべてを滅却めっきゃくせしめる大火力。

 これに対峙する日日野まもりの火は、あまりにも弱い。弱すぎる。それでもなお、彼女は逃げなかった。


「炎だって使い方次第なんだ。森林を、街を焼く炎も、夜闇を払い、人々を暖める炎も、同じ炎なんだッ――だからわたしはこの炎、生命を守る炎となすッ!」


「馬鹿な……」


 エフリートは気圧された。

 日日野まもりの火は、炎となり、火炎となり、大火球となり、夜空に輝く恒星と化した。燃焼温度も見る見る間に急上昇する。橙――黄――純白――青白せいびゃく


「【火球投射ファイアボール】――!」


 焦った彼は先手を打った。

 渾身の火球投射ファイアボール

 一方の日日野まもりは動じることなく、その頭上に生み出した太陽を投擲した。


「【火球投射プラズマシュート】ォ――!」




 ◇◆◇


 大スクリーンでエフリートが焼滅するとともに、小劇場にはどよめきが起こった。

 セイタカ・チョウジュ・ザルたちは目を白黒させている。まさかの逆転劇。草木を操って戦ってきた(環境省マスコットキャラクターの)日日野まもりがそれまで苦手としてきた火焔を操り、強敵エフリートを撃破するという『環境少女、日日野まもり!』屈指の名シーンだ。余談だがこの第9話を収録したDVDは、日本国内でも20万枚以上売れている。

 環境省は収容したセイタカ・チョウジュ・ザルに、『環境少女、日日野まもり!(現地語吹き替え版)』を毎日30分視聴させていた。特に理由はない。何か娯楽を与えようと考えた環境省職員の手元にあったのが、環境省推薦アニメの『環境少女、日日野まもり!』であり、最初は言葉が通じなくても(簡単な解説があれば)楽しめるシーンを抜粋して見せていたのだが、思いのほか人気が出てしまったのである。


 そしてこのアニメの視聴により、セイタカ・チョウジュ・ザルのシンシルリアは確信した。


(私たちもマモリみたいにバルバコア帝国と戦わなければダメだ!)


 まさに天啓であった。

 至高の太陽神が遣わしたエルフの守護神、環境省に守られて満足してはいけない、と。

 こうしてこの異世界にシンシルリアを開祖とする新たな宗教が創始された。


「私たちはエルフ日章軍を組織して、バルバコア帝国に囚われている多くのエルフを助けるべきだ」


 その名は、エルフ日章教。

 開祖は前述の通り、シンシルリア。

 信仰の対象は環境省職員が掲げる旗――太陽を象った日章旗。

 そして『環境少女、日日野まもり!』・『環境少女、日日野まもり!!(ツヴァイ)』を第一聖典とし、エルフと日本国の敵を殲滅する狂信者の集まりである。


(第二聖典に関してはここでは触れない。『地球少女、皆野テラ!』や『環境少女、日日野まもりRリベンジ!』の扱いはエルフ日章教の中でも学派によってわかれるためである)


◇◆◇




次回、■16.創始、エルフ日章教! に続きます。

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