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四面ホモか!  作者: 公望
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ガチ勢参入!

 俺の名前は不知火(しらぬい)(あきら)

 都内にある私立冷泉学園高等部二年の男子高生である。

 まずは簡単に自己紹介。

 外見は中肉中背で特に目立たず、顔は中の下といったところ。年頃の学生らしく髪型などは美容室で整えているがマシューカットが致命的に似合わないらしい。街中でよくみかける髪にしておけば間違いないと思っていたが、友人からは坊主の方がマシと言われる始末である。と自己分析しただけで虚しくなる。

 外見のディスアドバンテージを内面で補えるかと言われればそれも土台(どだい)無理な話。優しさや気遣いなどはそこそこ出来る方だと自負しているものの、今時の高校生にそんなものは求められていない。

 最重要項目は面白いかそうでないか? その場を盛り上げられるかどうか? であり、これらのパラメータが高くない限り、クラス内ヒエラルキーで上位にはなれない。見た目が良くないなら尚のこと。また「不良である」という状態にまだ価値を残しているギリギリの年代でもある。が、もちろん俺は不良出来るほどの(きも)もない。

 頭がいいかと言われればそれも微妙だ。現代文と日本史は得意だが、それ以外はほぼ平均点。

 運動は体力テストでBにいくかいかないかといったところでリレーの選手には決してなれない基準だ。

 つまりは平凡もいいところであり、俺というパーソナリティに特出した事項はない。

 そう! ないのだ! まるきり! これっぽっちも! 特に変哲もないのだ! 

 なのに! なぜに! 如何(いか)にして! 俺はこんな事態に遭遇しているのか?


 クラスメイトの東条(とうじょう)みさきに突然の告白をされたのが一週間程前のことだ。

 彼はかつて性同一性障害を抱えており、女性から男性へと性転換をした(実際に身体に手を加えたのかまではわからない。社会的には完全に男性となっている)同級生である。俺もジェンダーについて詳しくはないがナチュラルに考えれば彼は女性を好きになるはずである。

 

 しかし! しかしである。なぜか俺は告白を受けたのだ。それも「男性として好き」とまで強調までされて。これは女性から男性となった彼がゲイに目覚めたという複雑過ぎる案件であり、俺が彼に女性としての魅力を感じては関係が成立しないということになる。

 そんなことは不可能である。なぜなら彼は男性として見るにはあまりに可憐(かれん)で、その華奢(きゃしゃ)な身体は触れるだけで官能的なよからぬ妄想をしてしまいかねない。うっすらと胸のふくらみが残っている気がするのも、いやそんな目で彼を見ていること自体が彼に対する侮辱にあたるものだ。こんな心境の俺が彼の想いに応じられるはずがないのだ。

 

 救いなのは、東条自身が自らの出目(でめ)を自虐的にネタにすることがあるぐらいなので自身の見た目がどういったもので、男子からどう映っているのかの自覚はあるようだ。去年の文化祭で彼が女子高生の女装(果たして女装といっていいのか疑問ではあるが)をしている姿を見て、そのあまりの生足の美しさに下半身が暴走しかけたのを覚えている。狼狽(ろうばい)する周りの男子生徒を見てケラケラ笑っていたことからも東条の生き様が見て取れた。自らその女性的な見た目をネタにしているのだから。

 

 明るく綺麗でスタイルは抜群。誰にでも分け(へだ)てず接する東条は学園の人気者であり、雑誌でも特集が組まれることがある程だった。俺も別段(べつだん)深く関わっていたわけではないが、遠巻きにその光を眺めていた一人である。


 だからだろうか。その彼があの日、突如猛獣のように豹変し、俺のケツを鷲掴みにした事実が受け入れられずにいた。あの時のまるで血の通っていないかのような表情も、ハイライトを消したかのような(うつ)ろな瞳も、すべてが白昼夢(はくちゅうむ)だったのではないか? と未だに真剣に考える程だ。

 

 あの告白の翌日のこと。全身震えながら登校した俺への東条の対応はまるでいつもと変わりなかった。ニコやかにおはよう、と挨拶をかけられた程度で告白についての言及もなければ豹変することもなく、いちクラスメイトとしての距離感だったと思う。その対応が続き、今日に至るというわけだ。


 ――あれこれ悩んでもしょうがない。なかったことにしよう。あれはなにかの勘違いだったんだ。


 午前中の休み時間。どこか吹っ切れた俺はもやもや考えることすら馬鹿馬鹿しくなり、勢いよく席を立った。トイレにでもいって気持ちを切り替えよう、と。

 

 それが完全な判断ミスだった。一週間前のあの出来事を遥かに凌ぐ恐怖が俺に迫っていることを、この時知るよしもなかったのだから仕方ないのだが。


 立ち小便用の便器には何人かの男子生徒が用を足しているところだった。生徒と生徒の隙間の便器を見つけて陣取ると、カチャカチャとベルトを緩める。

 と、右隣に異様な気配を感じたのだった。視界の端でもわかる圧倒的な重圧感。

 横目でその気配を追うとそこにいたのは信じがたい巨漢であった。

 

 ――浦島太郎だ!!――

 

 間違いない。この学園の番長こと浦島の姿がそこにあった。

 身長は190㎝程、体重も100㎏は優に超えているだろう。袖も通さずに学ランを(ちなみにうちの制服はブレザー)羽織り、その下をムキムキの裸体が覗かせている。目深に被ったボロボロの学帽のつばには切れ目が入っており、まるで何代も受け継いできたかのようだった。上履きは下駄である。用を足す際も口元には爪楊枝を加え、腕組みして仁王立ちしている様は異様だった。というか今時こんなステレオタイプな番長がいるのだろうか。


「小僧。俺になにか用か?」


「ああいやなんでもないです。すみません」


「フン」


 視線に気づいたのか浦島から声をかけられた。学年は同じはずなのに思わず敬語が出るもの仕方ないというもの。

 浦島もとい番長には武勇伝が多すぎるのだ。入学早々から目立ち過ぎていた彼は上級生の不良に目をつけられ、散々呼び出しをくらっていたものの、そのすべてを己の武力で解決してきた漢である。

 番長は一匹狼タイプで所謂不良とは異なり、群れることはなかった。誰にも媚びず、かといって弱者には手を出さず、己の信念をひたすら突き進んでいるような印象だ。益荒男(ますらお)猛々しいとはこのこと。

 幸い敵意さえ向けなければ危害を加えてくることもないため、不良はおろか教師さえも浦島には頭が上がらない節があった。

 俺はクラスが違うということもあり、話したのは入学以来初めてだった。


「ほう……これは……なかなかどうして」


 ん? 右から声がしたので視線を向けると番長が不適な笑みを浮かべながら俺の方を、より正確には便器の隙間から覗かせる俺の息子に目を向けていた。


「小僧、貴様名前は?」


「あ、え? 自分ですか? 自分は二年四組の不知火っていいます」


「俺のことは?」


「もちろん知ってます。浦島君だよね?」


 用を足しながら初対面の巨漢とやり取りするというのはなかなかシュールだったに違いない。


「話がはぇぇな。ちょっとそれ見せてみ」


「え、それって?」


 番長がさも当たり前のように下顎でクイっと俺の股間を指し示す。


「いやなに言ってんすか。ハハッ」


「……聞こえなかったのか?」


 冗談っぽくたしなめようとしたのが逆効果だったようだ。一瞬で番長の周りが殺気に満ちていく。

 気が付けばトイレ内に人気はなく、異様な空気を察した生徒たちは退散してしまったようだ。


「あ、えっと、ごめんなさい。ほんとにわからないんだけど、見せるって何を?」


「ナニをに決まってんだろうが。言わせんなコラ」


 …………。

 あーやばいこれ終わったかも。この男、だいぶネジが飛んでいる。暗に武力で脅しまでかけてきている。冷や汗がもみあげを伝い、トイレの床にしたたる。その時だった。


『キーンコーンカーンコーン』


 チャイムだ!! 人生の中でこれ程休み時間が終わる瞬間が嬉しかったことはない。


「ごめん。時間だから僕もうこれで!」


 数瞬でベルトをつけ、いそいそとトイレの出口へと向かう。助かった。まさに間一髪。もう二度と学園でトイレにはいくまいて。花子さんの億倍怖い体験がここにあった。


「待てよ。誰が出て行っていいと言った?」


 なっ!? 

 気が付けばその太い腕が俺の細腕を鷲掴みにしていた。横を通り抜けること叶わず捕獲されてしまった。いやこれはもう捕食される秒読みといっていいだろう。そのまま番長がこちらに向き直る。


「いや浦島君。チャック閉めないと……」


 不適な笑みを浮かべたまま番長はチャック全開で、あろうことかその分身を隠すこともない。無言だがむしろどうだと言わんばかりである。


 オエッ。気持ち悪っ!!! なにこれ。なんなのこの状況? 俺が何かしたっていうのか??


「あまり騒ぐな。貴様だって痛いのは嫌だろう?」


 これでもかと目の前で握りしめられた拳は俺を黙らせるには十分だった。

 

 お母さんごめんなさい。僕はもう清いままではいられないようです。進もこんな兄さんでごめんよ。しばらく痔になるかもしれないけど嫌いにならないどくれよ。


 目をつむりどこか覚悟を決める。すると……。


「ああ。アキラ君こんなとこにいたのか。次移動教室だから急がないとだよ」


 トイレの入り口から救世主の声が。ひょこっと顔を覗かせていた声の主は東条だった。


「そ、そだったそだった。そうゆうことだからごめんね浦島君」


 一瞬の隙をついて手を払うと小走りで東条の元へ。チッという恐ろしい舌打ちが後ろから聞こえた気がしたが気にしない。


「不知火といったか。覚えたぞ貴様の顔と……と」


 そのまま走り去ったので捨て台詞の最後の方は聞き取れなかった。とにかく一命を取り留めたのだ。もう少しでお嫁にいけなくなるところでした。

 

………………。


 あああああああああああああっっ!! もう! なんなのほんとに! ふざけんなよ!

 嫌すぎる! なにアイツガチ過ぎるんだけど! マジでガチ勢。ホンモノ過ぎる! 廃課金者。冗談は名前だけにしろよこの野郎! ああ怖すぎておしっこ漏れそう。出したばっかなのに……。


「はぁはぁはぁ」


「少し……落ち着いた?」


 一心不乱で廊下を駆け抜け、突き当りまで来ていた俺は肩で息を吐きながら呼吸を整えた。そこで無意識のうちに東条の手を取っていたことに気が付く。


「あっ、ごめん! そうだ。次移動教室なんだっけ?」


 慌てて手を引っ込めると東条はどこか残念そうだ。


「いやあれは嘘だよ。アキラ君かなり危なそうだったから咄嗟(とっさ)にね」


 片目でウィンクしながら軽く舌を出す様は魅力的だがあざとい。だが彼のおかげで九死に一生を得たのも事実。今更ながら感謝の念が押し寄せた。


「ほんとに助かったよ。ってか番長ってアブナイ人?」


「ふふ、それはどういう意味で?」


 東条は笑みを崩さない。


「いやなんか俺の股間に興味持ってるような素振りだったし……」


「ふ~ん。アキラ君は男性の股間に興味を持つ男はアブナイって認識なんだ」


 笑みが崩れ東条はわざとらしくぷくっとむくれてみせた。

 いやいやいや当たり前でしょうよ!? アレが危なくなかったら警察なんていらないよ!


「いやそういう意味じゃなくて、いやそういう意味でもあるんだけど……ああ何言ってんだ」


「どうしようかなぁ。このままアキラ君のこと浦島君に突き出しちゃおうかな~」


 東条は俺の周りをぐるぐると周回しつつそんな恐ろしいことを口にする。そうでした。君も()()()()タイプの方でした。


「ごめんごめん! ほんとそれだけは勘弁してください! なんでもするから!!」


「ん? 今なんでもって?」


 ヒィイイッ!


「ああ今の無し! ノーカンで! ノーカン! ノーカン!」


「ふふ、面白いなぁアキラ君は。冗談だよ冗談。でもこれからはほんとに一人で用を足しに行かない方がいいよ」


 東条は人差し指を立てると、強調するように俺の眼前に迫った。


「確かにそうだよな。連れションするしかないか」


「じゃあ決まり、だね」


「ん? なにが?」


「もよおしたら僕に言うこと! 僕がボディガードとしてアキラ君のこと守ってあげるよ」


 東条はポンと胸に手を当て、得意満面でそんなことを口にした。

 唐突な提案に驚きを隠せない。ピンと来てないのに腹を立てたのかズイっと顔を近づけてきた。改めて近くで見ると整った顔してんのな~と感心してしまう。


「別にいいよ。断るってんならもう同じ場面に遭遇しても絶対助けてあげないから!」


 そしてまたすぐにへそを曲げる。こういうところは弟の進にそっくりだった。脅迫を孕みながら強引に話を持っていく手法も似ている。


「……わかったよ。というかこちらからお願いするよ。なんか他のやつに相談しづらいし、周りに話したらそれこそ番長になにされるかわかんないし」


「ふふ、じゃあ今度こそ決まりだね!」


 東条が拳を突き付けてくる。


「……なにこれ?」


「宣誓だよ。宣誓! アキラ君の貞操を守りましょうの会発足の!」


「えぇぇ」


 なんだそのアホくさい会は? アンタもこないだ俺のケツ鷲掴みにしてたんだけども……。


「ちなみにこれやんないと?」


「ダーメ!」


「やれやれ」


 俺は仕方なく八重歯をチラつかせながらニカっと意地悪く笑った彼の拳に拳を突き合せたのだった。

  

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