勇者とメイドさん その9
降り注ぐ隕石
「もし明日隕石が降ってくるとしたらどうする?」
「この近くに落ちるのであれば、ご主人様と荷物を纏めて可能な限り遠くへ避難します」
「もし世界中が滅びる規模だったら?」
「ご主人様に感謝とお別れを告げてから、隕石が落ちる前に自害します。しかしなぜ隕石なのですか」
メイドさんの疑問も最もだろう。その疑問に答えるべく毎回買っている一冊の本を見せる。
「この雑誌の読者応募コーナーで、隕石への対策について募集しててね」
「そんな未曾有の大災害に対策も何もないでしょうに……」
「ともかく一緒に考えてみよ?」
「はあ、一応仕事は一段落したのでいいですよ」
メイドさんが横についたところで、雑誌の当該ページを開きつつ、読みながら話を進める。
「前提として、城一つ、街一つ、国一つ潰せる規模のどれにする?」
「この雑誌わざわざそんなとこで分けてるんですか。では城一つで」
「じゃあ、『城一つを滅ぼす規模の隕石が降ってくるので、緊急事態故に、ある程度非常識な手段(法を犯すレベル)でも構いません。対策を考えてください!』ですってさ」
「法律を破ってもいいとなると……そうですね、ご主人様のお仲間の魔法使いに頼み込んで、城を基盤ごと引っこ抜いて隕石にぶつけて相殺する、というのはどうでしょう」
「かなりはっちゃけてるね……まあそれもひとつかな。どちらにせよ城が滅んでるのは気になるとこだけど」
とりあえず付属のハガキに書き込む。
「巨大な質量で相手をするっていうのは似てるかな。俺の策は城の宝物庫から財宝をかっぱらって、それでドラゴンを大量に釣ってきて相手させるっていうのだけど、メイドさん的にはどうかな?」
「街一つ規模の隕石ともなると何百匹も必要になるでしょうが、城自体はドラゴン数匹でも落とせるので、同規模の隕石程度なら大丈夫なのでは? どちらかというと、知能の高さから事後処理の方が面倒になりそうですが」
「今気づいたけど、そもそも財宝自体が足りるかっていう懸念点もあるし、かなり微妙ではあるか」
すぐに何匹も見つかるものでもないのも考えると、微妙どころかすごい無理あるか。
「そもそも破壊前提で話してますけど、逃げるという選択肢はないんですか?」
「ないよ。ほら、雑誌のここ見て。『逃げたとして何になる。隕石が落ちた地は数十年に渡りお先真っ暗だ。そうなってはもう遅い。そうならないようにする方法を考えるのだ。』とのこと」
「まあ間違ってはいませんけど……」
逃げるのが一番楽だからって思ったけど、後のことを考えるとこの文面の通りやっぱ楽じゃないから、その日が来たら対抗する方が楽にはなるのか。
「メイドさんの案で応募しちゃっていい?」
「いいですよ。適当に考えただけですし」
「ありがとー。これね、採用されるとお金もらえるらしいから、もしされたらどっかしら遊びに行かない?」
「いいですけど、どうせされないので大丈夫ですよ」
メイドさんは期待してないみたいだけど、今回のお題からして応募数自体が少ないだろうから、出すだけで当たるかも。そんな期待をしつつハガキを送ってみたり。
その日の夕飯は唐揚げ(+クレーター風盛り付け)だった
人間は非力。