勇者とメイドさん その5
ペット回
「ねえメイドさん、この子飼いたいんだけど……」
「ご主人様、誰ですかそれ」
「最近巷で噂の聖女様とやら」
「どうせまたお世話しないんでしょう? あった場所に戻してきてください」
気分転換にちょっと散歩に出たら、徒歩十分くらいの道端に『勇者様拾ってください』と書かれたダンボールに入ってスヤスヤ寝てたから、ダメ元で拾ってきたけど、メイドさんの許可がもらえなかったので仕方なく戻してきた。ちくしょう。
「前の金魚もカブトムシも買ったはいいものの、結局お世話ほとんど任せっきりでしたよね。責任もってお世話出来ないうちは、ペット禁止ですって言いましたよね」
「いや、今回は名指しだったから……」
「名指しだからってなんですか。より一層ご主人様によるお世話が求められているってだけですよ。それも考えて拾わないできてください」
「……はい」
メイドさんの正論に返す言葉もないのが辛いところ。やはり前科は重かったか。
「じゃあメイドさんはいらないの? ペット」
「お世話が面倒なのでいりません。まあご主人様にさせられましたが」
「……」
この手の話になると、メイドさんが少し不機嫌になるのはそういう理由があったのか。ちょっと申し訳ないことしたかな。
「じゃ、お花育てよう?」
「急にどうしたんですか」
「ほら、お花なら朝晩水あげるだけだからさ、管理も楽だし癒しにもなるよ? メイドさんもお花好きだよね?」
「本音は?」
「メイドさんへの申し訳なさからです……」
「……わかりました。水あげるくらいですよ。ちゃんとやってくださいね」
メイドさんが不機嫌からいつもの調子に戻ったので一安心。とりあえず鉢植えと土と種を買いに行くとするか。道中に拾ってくださいが落ちていても無視しなければ……。
「で、我慢出来たんですか?」
「途中に聖女様とその隣に、目を潤ませた剣聖の息子も『拾ってください』してたけど、メイドさんのこと考えて我慢してきた」
「さすがはご主人様です。偉いですね(ナデナデ」
褒められた。よく考えると思春期の少年少女ほど扱いに難しいものはないし、すぐ面倒になってお世話放棄が目に見えてる。拾った聖女返してきて正解だったかも。
その日の夕飯は餃子だった。
お世話できない系勇者