表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/380

勇者とメイドさん その4

勇者は18歳

メイドさんは21歳

「傾国のメイドさん……ですか?」


「そ。なってみたくない?」


「いえ、王侯貴族が好きってこともなく、この国に現状不満は抱いていないので遠慮させていただきます」



 ある日の夕方、庭にいるところ、唐突にご主人様が謎の言葉を振ってきました。傾国の美女だったり、悪女ならまだわかります。地味な容姿の私からすれば、なり得る可能性は万に一つもないですが。しかし出てきた言葉はメイドさん、一体どこから。私にも可能性はあります。なる気はありませんが。


「かっこいいじゃん、響きが。だいたい悪役ってことを除けば、傾国の○○は個人的に素敵な言葉だと思う」


「はあ、しかし国を相手にする程の度胸は私にはありません。いくらご主人様といえど、メイドさんの傾国化を強制するなら、今この場で自害しますが」


「えー残念、これ一本で傾国できるのに」


「剣一本でどうやって傾国のメイドさんになるんですか」



 ご主人様が私に見せたのは一本の剣。華美な装飾もなく、一見普通の鋼の剣。そもそも剣じゃ誘惑も何も出来ないのでは。


「いや、これね、ただの剣じゃないの」


「と、言いますと?」


「魔王を倒す道程で見つけた傾国シリーズの一つ、『傾国の聖剣』そのものよ」


「シリーズって、他にもあるんですか……」


「盾は戦士が持ってる。他の槌と鎌と杖はどこにあるかは知らないけどね」



 そんな危険な武器がシリーズであると言われると、一気に胡散臭く感じます。不思議な魔力でも篭ってるのですかね。


「でね、これ軽いからちょっと持ってみてよ」


「まあ持つくらいなら。…見かけによらず軽いですね」


「でしょ? 次は地面に突き刺してみて」


「突き刺すですか (ザクッ」



 受け取った剣は意外なほど軽く、私は言われるがままに剣を地面に突き立てました。するとなんということでしょう、文字通り地響きを轟かせながら、地面が傾き始めたではありませんか。


「ご主人様、これどこまで傾くんですか」


「デフォルトが三十度、使用者が考えればその数値だけ傾く仕様。ちなみに限界は九十度」


「なるほど。あっ……傾国のメイドさんになってしまいました。この剣で自害するしか……」


「いや大丈夫。後で王様には、勇者が問題を解決してきたってでっち上げとくから」



 なんとも自由なご主人様です。ただそんな簡単に見え透いた嘘ついていいものでしょうか。


「俺はあの魔王を倒したんだよ。このくらいは簡単に信じるでしょうよ」


「まだ何も言ってないんですが」


「疑問符が顔に出てたからね。ともかくこの剣はあげる。メイドさんは勇者付きのメイドさんだから、もし誰かしら権力を振りかざしてきたら、傾国するぞって脅してね♡」


「とても勇者とは思えないセリフですね」


「そりゃあ、メイドさん(有能さん)手放す気は全くないからね」



 剣を引き抜くと地響きと共に地面が元に戻っていきます。何のために、生み出されたのか疑問しかない武器ですね。


「ちなみにちゃんと国境線から盛り上がってるよ」


「それはいいんですが、そもそもこれ脅しになるんですか?」


「最初に三十度傾けて、次は垂直にするよう言えば勝ちよ。無辜の民がどうなってもいいのかーってね。ちなみにどんなに硬い地面にも突き刺さるように、力が弱くても、なんでも突き刺さる仕様だから、それも覚えといてね」



 その翌日の新聞には謎の傾国が起きたことと、勇者がそれを解決したという記事が書かれていました。




 世界と戦えるメイドさんになりました。

傾国(物理)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ