勇者とメイドさん その2
奇数回で勇者視点
偶数回でメイドさん視点
「特に野菜が安くなってるのが助かります」
「その価格そんな安かったっけ」
「いえ、魔王が生きてた時に比べればの話です」
いつものように、チラシを片手に買いに行く品を選んでいるところ、ご主人様が興味を示されました。
魔王。それは世界中に負の影響を与える魔の王。いつからそんな存在が生まれるようになったのかは、解明されていませんが、無視を続ければ手下を放ち、人の世を壊す存在。それに対抗できる存在が勇者。どちらもこの世界の神が作ったのでしょう。でなければそう都合よく脆弱な人如きが、あの強大な存在に勝てるわけが無い。
それはそうと、魔王は草木や野菜も腐らせる。壊血病などから、野菜不足でも人を減らそうとでもしているのですかね。そのせいか魔王が生きている間は、野菜の流通量が減少し、もやし以外軒並み価格が高騰していました。
「やはりもやしは正義ですね」
「ああ、そういや魔王倒しに行く途中も、どこも不自然にもやしだけ安かったね」
「もはや神の介入を疑える域まで来てますから」
「さすがに神とはいえそんなことしないんじゃ……」
明らかに高値の他の野菜の中、異様な安値かつ大量に積まれたもやしパック。売りきっても、次の日にはまた安値で山積み。一体どこから流れ込んでいるのでしょうね。
「今回ももやし多めにですかね」
「いつも不思議に思ってるんだけどさ、もやし多めに買ってくるけど、どこに消えてるの?」
「もちろんご主人様と私に半分ずつ収まってますが」
「えっ、普段見てる分にはかなりあったけど」
……夜中は耐え難い空腹に襲われるんですよね。
「他の野菜の価格も下降傾向です。これもご主人様のおかげですね」
「別に野菜のために戦ってたんじゃないけどなぁ」
「そういう側面もあるってことです」
「何があって魔王に、野菜を腐らせるオプションがついたのかね」
そんなことを話している内に、メモも完成しました。支度をして家を出るとしましょう。
「ご主人様、聞きそびれていたのですが、数日前の巨大なオークに関してはどうなりましたか」
「ん? あれね、到着した時は幸いにも被害は軽微だったよ。けどまたこんなことがあってもまずいし、俺が常にすぐ出れるとも限らないから、王様に手練のパーティ配置の提案とか適当にしといたよ」
「被害が少ないのなら喜ばしいことですね。しかし何が原因なのでしょう」
「そのあたりは魔術の専門家に任せるしかないさ。オークが出没した近辺を、城お抱えの魔術師が何やら調査してたしね」
それもそうです。ご主人様は魔術に精通している方という訳では無い。聞いてもわからなくて当然というもの。私はただご主人様のお世話をするのみ。
「んじゃいってらっしゃい」
「はい、行ってまいりますご主人様」
今日ももやしは山積みされていました。
もやしは正義