勇者とメイドさん その13
ひっく
「『ひっく』」
「……」
「『ひっく』」
「しゃっくりですか? ご主人様」
「う『ひっく』ん」
午前中からなぜかしゃっくりが止まらない。辛い。
「一説によると、しゃっくりは百回で死ぬらしいですよ」
「それは……『ひっく』嫌だなあ」
「まあ嘘ですけど」
魔王すら倒した勇者の死因がしゃっくりとか悲しすぎる。
「驚かされると止まる。そんなことも聞きますね」
「『ひっく』じゃあメイドさん『ひっく』驚かしてよ」
「ご主人様はこんな大人しめの女性の驚かしが、勇者に効くと思いますか?」
「いやあ、『ひっく』効かないかな」
こんな常に冷静で有能で無表情のメイドさんといえど、逆にそのせいで驚かしは効かないかなあ。
「ではまだ太陽も高いですが、この場で布団敷いて寝るとしましょう」
「その言動には『ひっく』驚きだけど、驚きのベクトルは求めてるものじゃな『ひっく』よね」
「難しいです」
驚かそうという努力は嬉しいけど、なんか違う。
「そうですね。では冷えた水をどうぞ。水を飲むと止まるともいいます。コップ一杯分、一気に飲み干してください」
「まあものは『ひっく』試しよね」
するとなんということでしょう、一気に飲み干したらしゃっくりが無事止まったではありませんか。
「……止まった」
「個人差はあると思いますが、私はこれで止まります。流し込むのを意識するといいかもしれません」
「うん、ただ飲むだけじゃ止まらないよね」
これといって害はないけど止まるまで放置も辛いし、対策はあった方がいいよね
その日の夕飯はちらし寿司だった。
またの名を横隔膜の痙攣。