勇者とメイドさん その12
果てなき思考の迷路。
「ご主人様、一時間ほどじっと考え込んでいるみたいですが、どうかしたんですか?」
「……いや、世界の広さとか起源とか神とか諸々について考えてたら、勇者がなんだ、ただの人間一匹じゃないか。この世界に比べれば、ちっぽけな存在でしかないなと」
「私からすれば、ご主人様はちっぽけどころか、すごい強大な存在ですけど。と同時にわからないこともないですがね」
「……わかる?」
「はい」
ご主人様が考えていることは、なんとなく理解出来ます。なぜなら、私も月イチくらいで同じようなことを考えて、その結果数時間を無駄にしている身なので。
ご主人様がカタカタ震え始めました。
「考え始めると止まりませんよね」
「そう、上手く言葉に出来ないけど、色々となんの意味があるんだって。生きてる価値も欲求も行動も」
「なんといいますか、雲ひとつない快晴の空とか満天の星空を前にした時とかも、似たような状態になるので注意しましょう。虚無感が押し寄せたり、精神が不安定になったり、そうなりますね」
「人の営みなんてそんなもの……」
私にもよくわかりますが、経験してきてるからこそ言えることは、この思考ループはなんの意味も成さないということです。こんなことしてるくらいであれば、寝てた方がよっぽど有意義です。おっと、ご主人様の目が虚ろです。そろそろ止めないとまずいですね。
「ただしそれはそれです。早くこちらに戻ってきてください。怖いのならギューしてあげますから。私も恐怖から人肌恋しくなるのでわかりますよ」
「ああぁ……死にたくない」
「死にませんから。ほら、ギューしますよ」
「……」
「精神衛生上かなりよろしくない上に、ご主人様はあまり耐性が無いみたいですから、二ヶ月に一回くらいにしてくださいね。呑み込まれたら終わりですよ」
声をかけながらぎゅーしていると、ご主人様の目に光が戻ると同時に、電源が切れたかのように眠り始めました。まあ最初はこんなものでしょう。呑まれなかっただけ上出来です。
その夜、泣き腫らして死にそうな顔で私の部屋に来たご主人様と一緒に寝ました。
考え始めると止まらない。