勇者とメイドさん その99
花火回。
「たまには花火をしましょう」
「……用意いいね」
「さあ行きましょう」
「わかったから」
夕飯の後で本を読んでいたら、メイドさんが水の入ったバケツと花火の袋を両手に、ワクワクしてる雰囲気を纏いながら、無表情で立っていた。この人器用すぎる。花火だけ人が変わったようになるのは何が原因なのか。とりあえず本を置いてメイドさんに付き従う。……本来は逆なのでは。
「八月中に使い切る予定です」
「後半になって加速してる……」
「八月といえば……ちょうどデュラハンさんもいますね」
「誘ってみるか」
庭に出てみると、ちょうどデュラハンの一人が剣を振っていたので、花火のお誘い。
「花火する?」
「……」
「快諾でいいのかな」
「ならもう始めてしまいましょう」
言葉を聞いてから、すぐに剣を収めてしゃがんだ。この人花火知ってるのかな。というかメイドさんのワクワクがすごいことに。
一一一一
「でですよ? お互いに好いているのに、恥ずかしくて言い出せないのです」
「……」
「……」
「その結果、別の学校に流れていって、関係は自然消滅してしまったのです。あれだけ甘酸っぱいのに悲しいですよね……」
「……」
「……」
前もそうだったけど、メイドさんのこのノリノリ、すごい慣れない。隣を見ればデュラハンさんもギョッとしてる。そりゃいつも無表情な人がこうも変貌すれば、驚くってものか。
一一一一
「で、寝込んだ時には看病に来てくれるのです。帰り際には弱気に『いかないで』って袖を握って引き止めますよ!? そういうそういうもうもうもうもう////」
「……」
「……」
「普段はクールなクセに、弱った時だけ可愛くなるのは反則ですよ!? 彼も彼で口は伝染るからっておでこにキスしていくなんて、、もうもうもうもう////」
「……」
「……」
この一人で暴走してキャーキャー言ってる人を、止められる人はここにはいない。一人はそもそも喋れないし。なんとも言えない空気を纏いつつ、花火はシューシューと火花を散らしながら輝いている。
一一一一
「でですね、そこでバールのようなものが! っと、終わってしまいましたね」
「ちょっとそこだけ聞いていい? バールのようなものでどうしたの?」
「もう遅いですし、早く戻りましょう」
「ええ……」
メイドさんは最後に何を言いかけたのか。元に戻ってるから答えてくれそうにない。
「デュラハン……二人いるし、この呼び方は違うな。遅れて申し訳ないけど名前とかある?」
「……」
「人も捨てられた場合は名前なんてないし、まあない場合もあるか」
器用に手を横に振るデュラハン。そこまで気にしてる風でもないようだ。
「じゃデュラさんって呼んでもいい?」
「(ガチャガチャ」
「許しを得たところで一つ質問。デュラさんは最後のバールのようなもの、どう思う?」
「……」
デュラさんにも、バールのようなものが出てきた意味はわからないらしい。
その日の夕飯は麻婆茄子だった。
残り三袋。