勇者とメイドさん その95
新たな仲間がが。
「はい、こちらは勇者宅ですが」
「……」
「遠いところ、御足労いただきありがとうございます。出向いてきたということは、何かしらあるのでしょう。どうぞお入りください」
「……」
訪問者が来たらしく対応をメイドさんに任せたら、デュラハンを二人引き連れて戻ってきた。心当たりはあるから、まあ特別驚きはしないが。メイドさんが二人を対面に座らせたところで尋ねる。
「とりあえずその二人について聞いてもいい?」
「はい。このデュラハンのお二人は知り合いです。特別思い入れがあるわけでもないですが」
「……」
「まあいいや。続けて」
なぜメイドさんとデュラハンに接点があるのか、この周辺にデュラハンとかいないはずとか、疑問は湧き出して止まらないが、今は置いておこう。一番気になるのは、これらの目的はなんなのかだ。
「で、恐らく目的はこれですね」
「……サンドイッチ」
「この方々に会いに行く度に、手土産として持って行っていました。最初は私の軽食だったのですけどね」
「日頃からデュラハンに会いに行くとか何してんの……」
メイドさんが懐から出したのは、皿に盛られたサンドイッチ。そこからメイドさんが二つ手に取ると、デュラハンが大人しく鎧の胴部を開いた。片方の鎧の中には袋があったため、それをメイドさんに渡し、代わりにサンドイッチが収まる。
「で、その袋の中身は?」
「宝石や財の類ですね。それも相当量あります」
「……」
「……」
「……この人らは何が言いたいの?」
「私も理解できませんが、恐らくこの量の金品から考えられるのは二択です。まず一つ目は私を引き抜きに来た。これが目当てですから一応穏便に済ませようと、雇い主に直接交渉に来た、というところですかね。二つ目は家賃や諸経費含めて払って、こちらに住まわせてもらいに来た。これが目当てなので薄いですが、まあこちらという可能性もあるでしょう。従者を雇えるだけの主人ですから、金品の量から察するに、屋敷だと思ったのかもしれません。この通り一軒家ですが」
鎧にサンドイッチを収めながら、メイドさんがつらつらと話す。「後者だといいんだけどね」って言わせるために、メイドさんもよくその場で思いつくもんだ。常識的に考えれば前者しかないけど、メイドさんたっての希望だ。先に一択にしてから交渉に入ろう。
「なーるほどねー。ただねー、それだと一つ目の場合にはね、勇者の全力を尽くして、叩きのめさなきゃいけなくなるかもねー」
「「!」」
「すごい棒読みですね」
「だってさ、メイドさん手放せるわけないじゃん。二度と来れないように、勇者的恐怖を植え付けてあげるのだ」
「「!!」」
勇者のワードを出した途端、デュラハンの鎧がガチャガチャ鳴り始めた。慌てている様に見えるが、知らないで来たのかこの二人は。ちょーっと勇者的殺気を向けると、姿勢こそそのままだが、ガチャガチャとさらに大きな音を立てながら震え始めた。そこまでしてから、殺気を霧散させて笑顔を作る。
「さて、じゃあ交渉といこうか」
「「!」」
「あなた方はうちのメイドさんを買いに来たのかな?」
「「……」」
「それとも賃貸借りる気分で住みに来たのかな?」
「「(ガッチャガッチャ」」
肯定の意を示すかのように、鎧をガチャガチャ鳴らしているデュラハンを見るに交渉は成功か。提供できる部屋は一つしかないし、物置整理しなきゃいけないかな?
「とりあえず怒ってはいないから、落ち着いて聞いて? こうしてわざとらしく交渉してるのは、あなた方がメイドさんから逃げ道を用意してもらえる程度には、少なからず好感を受けてるから。そうでなければメイドさんは動かないし、その真意がわかった時点で、誰であろうと蹴り返してるからね。その点メイドさんと良好な関係を築けているから、個人的には仲良くしたいと思ってる」
「「……」」
「でだ、さっきは強引に選択肢を絞ったせいで選べなかったけど、諦めるという手もある。勇者と共に生活することになるわけだからね。嫌ならこの財を持って、お帰りはあちらです」
言うだけ言って、財の入った袋を置く。あとはあれら次第だが、片方が手を伸ばしたところで、何やらもう一人と揉めている。
「恐らく『勇者』というところが、引っかかっているのではないでしょうか。解放した力に晒されていますし」
「まあそうもなるか。じゃ仕方ない、あんまりぐちゃぐちゃ引きずるのも嫌だし、こうしよう。迷うならまず三日間住んでみて決めろ」
「「……」」
「メイドさんに故意に危害を加えない限りは、こちらから攻撃的行動を起こすことはないから。メイドさんは三日分だけ袋から中身抜いといて。でもって倉庫部屋の片付け。といっても外にプレハブ建てとくから、そこに移すだけね」
袋をメイドさんに投げて寄越す。そうしてプレハブ倉庫の材料を収集に出かけた。
その日の夕飯はサンドイッチだった。
割と寛容。