勇者とメイドさん その10
宝石は素敵
「ご主人様、また宝石散らかしたままじゃないですか。部屋はいいとしても、ダイニングテーブルに放置するのはやめてください」
「いやあ、宝石はついつい夢中になっちゃってね」
「いつもの場所に戻しておきますよ」
ご主人様の趣味のひとつに、宝石鑑賞というものがあります。旅の途中で収集したものらしいです。ただ眺めるだけなのですが、それだけならいいんです。ダイニングから始まり、思い立ったように部屋に行った後には、必ず宝石が散らかったままです。一般教養を魔法使いから教わったのでは?
「すーぐ片付けちゃうの解せないね。なぜメイドさんはこの輝きに心ときめかないのか」
「私にも人並みの欲はありますが、その前にご主人様のメイドです。主を良い方向へと導くことも務めですから」
「片付けしないくらいで?」
「はい」
外面は完璧なご主人様ですが、私生活になるとかなり適当になるので、世話焼きな方意外と結婚したら、その差に幻滅されそうではありますね。
「あとこれは初めて言うことだけど、もしかしたらあの宝石群の中には、触れるだけで発動する魔石があったかもしれないから、メイドさんにはあんまり触ってほしくないんだよね」
「今更ですか。ところでご主人様はなぜそれらに問題なく触れるのですか」
「勇者ともなるとね、ある程度までのレベルの魔術は完全に抵抗しちゃうから、どれが魔石かっていうのは判別出来ないんだよね……」
「でも片付けないのですよね」
「うん」
「じゃあ私が片付けるしかないですね」
宝石のことになると周りが見えにくくなるのが、ご主人様の数少ない弱点かもしれません。
ご主人様は身の回りの整理整頓はできるのですけどね。
希少価値。