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その夜、勇斗は夢を見た。
それは奇妙なものだった。
見えているのは一つの部屋。
白い壁、白い床。
大きな窓が開いていて、長いカーテンがわずかな風にゆらゆらと揺れている。
その窓近くには大きなベッドが置かれ、そこに尚子が眠っている。その顔が妙に青白く弱々しい。しかも、彼女が眠るベッドは普通のものではなく両脇に柵のついたものだ。
そう……そこは病室だ。
病室で眠る尚子の姿はまるで似つかわしいものとは思えなかった。彼女は小学2年以来、風邪すらひいたことがないというのを自慢のようによく言っている。その彼女が夢のなかであったとしても、病室のベッドで弱々しく眠っているのはとても不似合いなように思えた。
それを脇に立って、尚子の顔を上から覗き込んでいる者がいる。小柄で長い黒髪、尚子と同じ高校の制服を身につけている。
その顔を勇斗は知っていた。
(七尾梢だ)
梢は右手をそっと尚子の顔へと近づけていく。そして、その額にそっと触れる。
その瞬間、ゾクリと背筋が寒くなるのを感じ、勇斗はぱっと飛び起きた。
(夢……か)
勇斗はホッと胸をなでおろす。
だが、なぜあんな夢を?
やはりこれも七尾梢の存在のせいだろうか。
胸騒ぎがする。
* * *
七尾梢が何者なのか、それを調べだすことは意外にも難しかった。
彼女が何者なのかは相変わらずわからず、彼女の自宅すらどこにあるのか見つけ出すことは出来なかった。
その間にも、日々、異変は少しずつ大きくなりつつあった。
もっとも影響が大きいのは尚子だった。
授業が終わると、尚子はカバンを持って立ち上がった。そして、隣の席に座る勇斗に向かって声をかけた。
「勇斗君、今日は待ってくれなくて大丈夫よ」
「今日も部活だろ?」
だが、尚子は力なく首を振り、意外な言葉を口にした。
「今日は練習を休むわ」
「どうして? 今まで休んだことなんてなかったじゃないか」
「少し……足が痛いの」
力なく尚子は言った。
「足が痛い?」
ますます勇斗は驚いた。
「……ううん、正確に言えば痛いような気がするの。むしろ感覚がないような気がする。こんなの初めてなのよ」
尚子は右手で軽く左足の膝の辺りをそっと擦る。
「大丈夫か?」
「そんなのわからないわ」
不安そうに小さく呟く。「走れなくなったら……どうしよう」
「そんな……そんなことになるわけがない」
「どうしてそんなこと言えるのよ」
尚子は唇を震わせながら言った。
「ナオ、どうしたんだ?」
「昨夜、夢を見たの」
「夢?」
尚子の言葉を聞き、勇斗は先日自分が見た夢のことを思い出した。
「夢のなかで……私、事故に遭ったの」
「事故?」
「交差点で信号を待っていたら急に車が突っ込んできたの。私、逃げようとしたんだけど間に合わなくて電柱と車に足が挟まれてーー」
「ナオ! それは夢だ」
勇斗は思わず両手で尚子の肩を掴んだ。
「……でも、怖かったの。すごく生々しい感じがして」
「大丈夫だ!」
尚子に強く声をかける。
「でも……」
「しっかりするんだ」
「勇斗……くん?」
「僕がなんとかするよ」
「なんとかって?」
驚くような目で尚子は勇斗を見た。
「大丈夫だ。心配するな」
勇斗は急いで教室を出た。そして、ただがむしゃらに走った。
走りながら自分がどこへ向かっているのかを考えた。
全てをもとに戻さなければいけない。
(それが出来るのは)
それは七尾梢のところだった。




