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いったい七尾梢とは何者なのだろう?
今、この異変を起こしている原因が彼女であることは予想がつく。だが、彼女がどのような力を持っていて、何の目的のために動いているのか、それがまったくわからない。
まずは彼女を知る必要がある。
彼女が何者なのか突き止めなければいけない。
勇斗は七尾梢を捜して走った。
梢のことはすぐに見つけることが出来た。どこへ向かっているのか、一人で公園横を歩いている。
勇斗は彼女の後をつけることにした。
少し距離を開け、物陰に隠れながら七尾梢の様子を伺う。
七尾梢は淡々とした歩調で歩みを進めていく。周囲は団地に囲まれているが、今は誰の姿も見えない。
彼女がこの世界を歪めているのならば、彼女をどうにかしなければいけない。尚子を守らなければいけない。
そのためならばーー
(どんなことでも)
強い思いを持って彼女の後ろ姿を見つめる。
さっきから梢は少しうつむきながら何かを呟いているように見える……が、あれは何か一人で歌っているのだろうか。まるで音程が取れていないので、お経のように聞こえてくる。
――ともすると、小さな小石に躓き転びそうになり、恥ずかしそうに周囲を見回す。
その姿はただのドジな女子高生にしか見えない。
ふいに七尾梢が足を止めた。
突如、大きなエンジン音が聞こえ、通りの角から大型トラックが姿を現した。それはこんな団地の細い路地にはあまりにも不似合いなものだった。そして、最初から様子がおかしかった。まるで何かの強い意思を持っているかのように車体を震わせながら、猛スピードで近づいてくるとそのまま梢に向かって突っ込んでいく。
驚くことにその運転席にドライバーの姿は見えない。
梢は決して慌てることはなかった。
その雰囲気とは違い、素早い動きでフワリと身を翻しトラックの突進を躱す。
的を失ったトラックはそのまま沿道の樹木へと突っ込んでいき、街路樹をなぎ倒して動きを止めた。
だが、自体はそれだけでは済まなかった。
そのトラックの車体が大きくグシャリと崩れたかと思うと、みるみるうちに別のものへと姿を変えていく。
(あれは?)
大型トラックの大きさのまま巨大な虎となって七尾梢のほうへと顔を向ける。そして、唸り声を上げて梢のほうへと近づいていく。今にも梢へ向けて飛びかかっていきそうな勢いだ。
いったい何が起きているのか、勇斗は自分の目が信じられなかった。
それでも、やはり七尾梢は落ち着いている。
虎はゆっくりと梢に近づいていく。その口から青白い炎が吹き出て、梢の足元まで届く。
突如、その梢の足元に真っ白な狐が姿を現した。そして、虎に向かって進み出る。その白い7つに割れた尾が大きく膨らみフワリと揺れる。
次の瞬間、その虎は煙と化して姿を消した。
ふいに梢が振り返った。
勇斗は慌てて木の陰へと身を隠した。
「もう、あなたの思い通りにはなりませんよ」
それが誰に向かって言っているのかはわからない。だが、それが自分に向けられているものとはとても思えない。
彼女の言っていることがまるで自分にはわからないからだ。
さっきの虎、そして、あの白い狐、あれらは何なのだろう? 七尾梢とどんな関係があるのだろう?
再び梢のほうへ視線を向けると、すでにそこに梢の姿はなくなっていた。
(今のはなんだったんだ?)
だが、ハッキリしたのは彼女が普通の人間ではないということだ。
彼女の狙いはきっと尚子だ。尚子を守らなければいけない。