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後ろで一つに結んだ髪がリズミカルに揺れる。
放課後のグラウンドを走る小松尚子の姿は眩しいほどに輝いて見えた。白いTシャツから伸びた腕に汗が輝いている。彼女はトラック競技の選手で、特に1万メートルを最も得意としている。
決して背が高いわけではないが、走っている時の彼女のストライドは他の誰よりもずっと大きく、ピッチも高い。それを支えているのが彼女の強靭な足首だ。
中学時代には陸上部がなかったためバスケットボール部に所属していたが、それでも県大会の記録を何度も更新してきた。そのため、いくつもの陸上の強豪校からスカウトがきたが、彼女は将来、教員になるという目標を持っていて決して有名とはいえない地元の高校に進学した。高校に入学して陸上部に入ってからはさらにその記録を伸ばしてきている。今後もいくつもの高校記録を更新するのは間違いないだろう。
子供の頃から明るく活発な性格だった。同い年の女の子たちとおとなしく遊ぶよりも、男の子たちとヤンチャに野山を駆け回ることが多い子供だった。だが、そういう生活をしてきた子供が皆、足が早くなるわけではない。彼女にはきっと天賦の才能があるに違いない。その才能をさらに彼女の日々の努力が強く後押ししている。
いつかオリンピックでメダルを取る。
彼女はいつの頃からかそんな夢を抱くようになった。しかし、それは日に日に夢から現実のものへと近づいているように見える。今、彼女の夢はさらに輝きをましている。
彼女を知る者なら、誰もがその夢がいつか現実になることを疑うことはないだろう。
藤木勇斗にとってもそれは同じだった。
彼にとって、彼女が走る姿を眺めるのは大好きな時間だった。誰もいなくなった教室の窓から彼女の走る姿を眺める。彼女を知り、彼女の夢に憧れ、彼女のことを見つめるようになったのはいつ頃からだろう。
彼女を見つめていると、自分の中にも輝きが広がるように思えてくる。
彼女の夢を支えたい。
それが今の勇斗にとっての夢となっている。