Ⅶ イノブー
Ⅶ イノブー
「大変だ~、イノブーが現れてけが人が出てしまっただ~、誰かみんなを助けてくれ~お願いするだ~」
農夫が街へと駆け込んできた。俺たちが住む家は塀で囲まれている街にある4つの出入り口の1つの近くに住んでいる。英雄と賢者が住んでいるので防衛も兼ねているが、ルナマリアを含む動物も一緒に暮らしているため、土地の確保も簡単にできたという経緯もある。
農夫のもとに慌てて駆け付けた俺たちは農夫に話を聞く。
「イノブーは何匹出たんですか?」
「イノブーは1匹だけなんだけども、2メートルくらいあるでかいやつで、トリムのやつ一撃で吹き飛ばされちまっただ。」
イノブーというのは地球にいるイノシシに似ているが、下あごから生えている牙が鋭く、大きいものは牙が50センチ以上もあり、この牙で突かれて命を落とす犠牲者もラウドでは毎年でている。しかし普段は臆病な性格のためあまり人前に出てくることはないのだが、戦争の影響が出ているのだろう。
「場所はどこですか?」
「ここから500メートルほどの畑ででただよ。おおエリスさん、ライムの怪我を見てくれねえか?」
「はい、こちらへ連れてきてください。」
ライムさんは家にある治療室へと運ばれていった。
「ねえイクス、イノブー退治私たちの出番だと思わない?」
セリス姉さんはいたずらっぽい視線を俺に向けてきた。
「行きますか?俺と姉さんのコンビでイノブーなんて大したことないですよ。」
「でしょう?」
「私たちでイノブー退治に行ってくるわ。」
「いいのかい?」
「まだほかの人たちが残されているんでしょう?早く助けに行かないと。エリス母さんに出かけたこと伝えてもらっていいですか?」
「ありがとう。本当にありがとう。」
「さあ行きましょ、イクス。」
「ああ、行こう。」
俺たちは駆け足でイノブーのもとへと向かった。
たどり着くと、取り残された農夫は3人で木に登ってイノブーから逃げているが、その木の周りをぐるぐると回って威嚇し続けている。
「私が魔法で仕留めようか?」
「俺が引き寄せるよ。魔法で木に登っている人たちがびっくりして落ちてしまうといけないからね。」
「わかったわ。何かあったらすぐ魔法をはなてるようにしておくからね。」
「よろしくセリス姉さん。」
近くにあった小石をイノブーに向かって投げた。小石がイノブーの胴体にうまく当たると、イノブーは俺の方へ体を向けた。ブルルルルッと一瞬体を震わせるとイノブーは俺に向かって真っすぐに向かってきた。タイミングよく俺は真上にジャンプし、イノブーが俺の下を通過した時に剣を突き刺した。
プギャと悲鳴を上げ、よたよたと俺の方へ向き合った。なかなか男らしいイノブーだ。そのまま逃げればわざわざとどめ刺しに行かなかったのにな。イノブーが先ほどの半分くらいの遅くなったスピードで突っ込んできた。俺は軽くジャンプをし、イノブーの首めがけて剣を振り下ろした。ズドンとイノブーが倒れた。今度は致命傷を与えることができたみたいだ。
「倒した~?」
セリス姉さんが確認の声を上げた。
「倒したよ~」
「じゃあ帰りましょうか。」
荷馬車にけが人とイノブーを乗せ街へと戻ることにした。
「ありがとう本当に助かったよ。二人はゼクスさんのところのお子さんじゃろ。」
「ええ、私はセリス、こっちがイクスです。傷はふさぎましたが内臓に損傷があるといけませんから、うちの母に見てもらってください。」
「そうさせてもらうよ、本当に助かった。」
「それにしてもイノブーの気性が荒くなったのって、戦争の影響だな~」
「そう聞いています。」
「ここまでだいぶ離れているのに影響出るのが早いよな。昔魔王軍が攻めてきたときはすぐには影響でなかったから今日も大丈夫だと思ったんだけどな~」」
「大規模な戦争になっているんだろうなあ。」
イクスとセリスは顔を見合わせたがその顔には、父親に対して漠然とした不安な気持ちが表情に表れていた。
家に着くとさっそくけが人を母親に託した。軽傷な村人が話しかけてきた。
「イノブーの解体をこちらでしておこうか?何かお礼したいさ。」
「お礼は気にしないでくださいも。協会から保障料も出ていますし、父親が頑張って稼いでいます。」
「そりゃそうさな、ゼクスさんは英雄だからな。それでも何かお礼したいんだ、ちょっと待っていてくれ。」
そういうとイノブーを荷車に載せて、自分の家へと帰って行った。
「ただいま~」
「お帰りなさい、あなたたちは怪我してない?」
「大丈夫よ。」
「そう、セリスはちょっとこっち来て。治療の仕方を教えるから。」
「はい。」
「イクスはお風呂の準備お願いできる。」
「はい。」
エリスはそれぞれに指示を出し、大けがをした農民の治療に専念している。
「お兄ちゃんお帰りなさい。」
「ただいま~イリス、アクス。」
イリスとアクスは双子なので、仲良く遊んでいると1日が過ぎていくそうだ。
「お風呂の準備が終わったら遊んであげるから待っていてね。」
「うん、約束だよ。」
お風呂の準備は割と面倒くさい。蛇口をひねればお湯が出るとかの便利機能はついていない。水についてはエリス母さんが魔法で水を生成してくれるので後は温めれいいんだけどこれがめんどくさい。薪を燃やして温める五右衛門風呂方式なんだけど、こんな風呂があるなんて時代劇の漫画を読んで初めて知った。燃やしすぎても熱すぎて入れないし、火加減が中々に難しい。面倒だから風呂に入らないこともあったんだけど、セリス姉さんとイリスにすごい嫌がられるので、毎日風呂に入っているし、風呂の担当を進んでやっている。
「ここにいたか?」
「ああ、おじさん。」
「イノブー捌いてきたから持ってきたよ。」
そこには荷車一杯のイノブーの肉が積まれていた。
「ありがとうございます。ただうちでは食べきれませんから半分貰っていきますね。後は皆さんで食べてください。」
「助けてもらったうえ、イノブー肉貰ってしまっていいのだか?」
「もちろんですよ。うちではこんなにうまく捌けないですから、お礼です。」
「そうかい、遠慮なく貰っていくよ。ありがとう。」
「こちらこそありがとうございます。」
イノブー肉はとてもおいしい肉だ。豚肉に近い味だが、この辺の豊かな植物を食べて育っているので、臭みがなく豚肉より少し歯ごたえがある。ただ農民がこのモンスターを倒すことはまずないので、冒険者が倒したものを買って食べるしか方法がない。おいしい肉のためそれなりの値段がするためイノブー肉を食べるのは祭りの時だけというものも多い。そういう意味では感謝されるのも当たり前なのかもしれない。
さてこの肉を焼いてソテーにでもしよう。明日は母さんにシチューを作ってもらおう




