Ⅹ 協会
Ⅹ 協会
グランでの大規模戦争は様々な悪影響を各地に及ぼしている。その1つが巨大な力を持つモンスターが暴れることで、その力の波動が大地へと伝わっていくことにより普段隠れて暮らしているモンスターが狂暴になり人々を襲ってくること。これにより普段平和であるオースン国もモンスターの襲撃に備える必要がでてきている。国王が居を構える首都カンガレーには大規模な兵団が置かれているが、グランでの戦争に半数の兵が従事している現在、辺境にあるラウドを助けるための兵は数十に過ぎない。それでは街への侵入を防ぐ防衛しかできないだろう。収穫時期を迎えたラウドにとってこれは痛手であるため、自警団の編成と傭兵の募集をかけている。
「申し訳ありません、エリス殿。ゼクス殿を戦争に赴いていただいたのに、セリス、イクスの両名にも手助けしてもらうことになって。」
「いえそれはしょうがないことですわ。あの子たちも覚悟を持って戦ってもらいます。皆さんで力を合わせて難局を跳ね返しましょう。」
「そういってもらえると助かります。ではまた。」
パチパチパチ、俺はイノブーの肉をいぶして燻製肉にする作業に没頭していた。火って見ていると和むよなってぼーっとしていたら、ゴホゴホゴホ、燻製作っているときは煙がすごいからたそがれることもできない。大量に貰ったイノブー肉はセリス母さんが魔法で凍らせたので保存がきくが、生肉より味が落ちてしまう。余裕があるときは燻製肉にしておくと、ベーコンのようなうまい肉ができる。これと目玉焼きを一緒に食べると口の中が幸せな気持ちになる。
「イクス、あと1時間したら農場に向かうから用意しておいてね。」
「は~い。」
朝錬から戻ったセリスから連絡を受けた。
「さっききたおじさん、協会の人でしょう。あなたのアピールにつながるんじゃないの?」
「父さんが紹介状出してくれるから大丈夫だよ。英雄からの紹介状なんてなかなか貰えないでしょう。」
「そういうことじゃなくて、今回のモンスター討伐もカウントしてもらえれば、あなたの進級が早くできるでしょう。」
「ああ、なるほど。さすが姉さん。後で母さんに聞いてみるね。」
魔王討伐に関するあらゆる業務を行うための国境をまたいで活動する協同組合、通称協会は国からの援助によってドロップアイテムなどの売買等を独占的に行い莫大な利益を得ている。その利益から冒険者へ世界に報奨金を支払っている。世界12大国に協会を入れて13大国と揶揄する声も多く聞かれる。
協会ではクラス分けを行っており、クラスによって受けられるクエストに制限がかかる。セリスが行っていた進級とはこのことであり、スタート時クラスⅠから始まるクラスは最高クラスはLⅣ(54)である。最高クラスはすべてのモンスターに対応できるスーパークラスとされており、ゼクスやほかの英雄、大賢者等限られた人間しか在籍していない。
「狂暴化したイノブーならクラスⅢにはなれるんじゃないかしら。」
「姉さんは何でも知っているね。頼もしいよ。」
「なんでもなんて知らないから。でもどのモンスターがどのクラスか分かっていれば対応が早くできるでしょう。だから全部暗記しているわ。あなたと一緒に冒険するときが来るかもしれないからね。」
「その時はお願いします。」
ぺこりと頭を下げたイクスに対して、「賢者になったら真っ先に駆け付けるから待っていてね。」とイクスに聞こえない音量で囁いた。
「さあ朝食を食べて、出かける準備をしましょう。」
少し赤くなった顔を悟られないように、両手で頬を隠しながらセリスが家へと入って行った。