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第07話 不登校の理由

※2019.3.6 リーさん、希ちゃんの描写を追記しました。 

「そんなに面白い話じゃないですよ……?」


 静まり返った店内に、俺の声だけが響いていた。秋菜はいつの間にか亜里沙さんの隣まで移動して、カウンター越しに俺の話を聞いている。真横では体ごとこちらを向いたオカキンと、その脇から伺う様にして俺を見る萌くんがいた。ノートPCを開いたまま正面を向いているリーさんと、俯いている希ちゃんの表情は分からない。だが、どうやら俺の話には耳を傾けてくれている様だった。


 因みに、リーさんと言うのは日本人だ。いつも、カウンターの端でノートPCを弄っている、多分、三十代くらいの寡黙な男性。スーツ姿がサラリーマンっぽいという事でリーさんと呼ばれている。そして、希ちゃんはおそらく俺と同年代。詳しい事は知らないが、いつも元気な美少女だ。髪の色がころころ変わるが、地毛なのかウィッグなのかは分からない。今日は、長いストレートの髪が真っピンクになっている。


「スマホ……ですよね。元々は持っていたんですよ……俺も」


 亜里沙さんや秋菜、そしてオカキン達の視線が見守る中、俺は記憶の断片を話し始めた。


「昔は普通に使ってました……俺も、皆んなと同じ様に。ネットを見たり、ゲームをしたり……連絡も殆どチャットでした」


 口に出すと、何だか妙に懐かしい。


「俺が中三の頃ですかね……確か、今くらいの時期だったと思います。六月頃。その頃は、俺も普通に学校へ通ってたんで……」


 俺が今、不登校なのは、皆んな薄々気付いている筈だ。俺は自嘲気味に笑って見せたが、誰一人つられはしなかった。皆、真剣な表情で俺の話を聞いている。そんな少し重い空気の中、俺は話を続けた。


「自分で言うのも何ですが、成績だけは良かったんですよ、俺。いつも大体、学年で一番か二番でした」


 特にガリ勉だった訳では無い。読書が趣味だった俺は、普段は目立たない、どちらかと言えば大人しい部類の生徒だった。元々勉強が嫌いでは無かった俺は、普通に授業を受け、普通に課題をこなしていただけで、学校でも一、二を争う成績にはなっていたのだが。好きな事にはトコトンのめり込んでしまう性格が幸いしたらしい。だが、お陰でテストの後だけは、いつも皆んなの注目を浴びる羽目になった。


「だからですかね……。どこにでも居るでしょ? ちょっと目立つ様な奴がいると、直ぐに()()をつけたがる女。そう言う奴の目に止まっちゃったんですよ……」


 そいつは、学校でもダントツの人気を誇る美少女だった。まあ、確かに見た目()()はかなり可愛い。しかも、()()、誰にでも優しくて明るいその性格は、同じ女子からも絶大な人気を誇っていた。所謂(いわゆる)、学校のヒロインと言う奴だ……表向きは。


 彼女は当時、卒業する迄は学校で一番のイケメンと言われていた一つ上の先輩と付き合っていた。その前は確か、医者の卵だとか言う大学生。更にその前は……。とにかく、男遍歴が激しかったのは覚えてる。随分、大人ぶって自慢気に話していたからな。だが、誰もそこに突っ込む男子はいなかった。逆に、その軽さが自分でも()()()()()()()()()と言う、淡い希望を男子に持たせ、人気を博していたのも事実だ。


「自分に自信があったんでしょうね……。いきなり、教室(皆んなの前)で堂々と告白されました」


 当時、彼女がまだ先輩と付き合っていたのか迄は分からない。だが、俺はあの時、彼女が『学年で一番頭の良い彼氏』と言うステータスが欲しかっただけだとしか思えなかった。


「……で、断ったの?」


 亜里沙さんが、相槌も兼ねて俺に質問を投げかけて来た。


「……はい。彼女が本気じゃ無い事くらい、俺にも分かってましたから……」


 ええーっと僅かにどよめきが起こった。小声で、オカキンが『勿体無い』と呟いたのを俺は忘れない。


 でも、俺はあの時、あの女にアクセサリーの様に扱われるのだけは嫌だった。女の子と付き合ってみたいと言う興味はあったけど、本気で自分の事を好きでも無い相手と付き合うのは御免だ。堅すぎると言われても、性格なんだから仕方ない。まあ、お陰で未だに女の子と付き合った事が無いんだけど……。


「それで?」


 そんな悲しい現実に打ちひしがれていると、亜里沙さんがカウンター越しに続きを促して来た。俺は、同時に差し出された珈琲を受け取り、一口飲んで話を続けた。


「最悪だったのは、その女が俗に言う『スクールカースト』の最上位だったと言う事です……」


 よくある構図だ。この手の奴の周りは、大体、機嫌を取りたがる連中が取り囲む。こう言う奴は学校でも影響力がデカいから、敵に回したく無い奴や利用したい奴等が群がるんだ。そう言う意味では、彼女は当時、学校で一番権力(ちから)を持っていた。


「始めは大して気にならなかったんです。ああ、何かまたヒソヒソ言われてんなあ、位で。何しろ、学校の女王様みたいな奴でしたからね……そいつは。でも、気がつけば彼女に公衆の面前で恥をかかせたって言い掛かり付けられて、その日から全員敵みたいになったんですよ……いきなり」


 明からさまに皆んな、急に態度が変わったからな……あの時は。おそらく彼女の代わりに怒る事で、貴女の事をこんなに親身に考えてますよ、と言うアピールをしたかったんだと思うけど。


「それが一週間位すると、更に態度がおかしくなり始めました……。何て言うか、ヒソヒソ悪口を言われるだけじゃ無くて、堂々と俺を避ける様になったんです。元々、友達は多い方では無かったんですが、それでもまだ何人かは話くらいなら出来たんです。ですが、この頃を境に俺はクラスで一人になりました。明らかに……」


「虐め……」


 ボソリと萌くんが呟いた。特に、俺に向けて発した言葉では無いんだろう。多分、無意識に出た独り言の様な物だ。だが、俺は敢えてその呟きに答えた。


「そうですね……。今思えば、あれは虐めでした。でも、その時は気付かなかったんですが、単純に無視されたとか、そんな生易しい物じゃ無かったんですよ……あの時、既に」


 俺がそう説明すると、皆んながゴクリと生唾を飲んで黙り込んだ。


「俺がその事に気が付いたのは、夏休みが明けた二学期の始業式の時でした。いつも通りに学校に行くと、クラスの連中の様子がおかしかったんです。それ迄の避けるとか無視するとかいう様な、そんな曖昧な物じゃない。完全に敵意を向けられました」


「どうして……」


 まるで、今起きている話でも聞いているかの様に、秋菜が辛そうな顔で聞いて来る。


「俺は、隣のクラスにいた唯一の親友……隆に詰め寄りました。何か知っているのなら教えてくれって。そしたら、隆は渋々見せてくれたんです。俺だけが外された、自分のクラスのグループチャットを」


 隆は俗に言う『陽キャ』だったから、クラスの垣根を飛び越えて交流が広かった。三年にもなれば、ほぼ、どのクラスにも知り合いが居る程、顔の広い奴だったからな。そんな隆だから、当然、俺のクラスのグループチャットにも登録されていた。


 俺は、自分の神経が昂ぶって行くのを感じた。何とか抑え込もうと、亜里沙さんが淹れてくれた珈琲を口に含む。そして、出来るだけ平静を保つ様に努めながら話した。


「酷い物でしたよ……内容は。夏休み中、毎日の様に俺の悪口が交されていました。偶に、隆が擁護する様な事を書いてくれてたみたいですが、逆にボコボコにされてました。寄って(たか)って。でも、俺が一番ショックだったのは──」


 一番言いたくない部分を迎え、俺は小さく深呼吸した。そして、一気に言葉にして吐き出す。



「──俺が、交際を断ったその女……晴美に()()した事になってたんです」


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