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第04話 アンケート



「みなさーん! こんにちはー! フリードちゃんですよぉーっ!」


 相変わらずの軽いノリで、二次元の美少女フリードが両手を振りながら喋り出した。ふと見ると、亜里沙さんや他の客達も同じ動画を見始めている。俺は目線を秋菜のスマホに戻し、動画の続きを見守った。


「K市の爆撃はどうだったかなぁ? 少しは僕の事、信じて貰えたかな?」


 人差し指を口元に当て、悪戯っぽく尋ねて来るフリード。すると、今までうーんと考え込む様な表情で喋っていたフリードが、一転、思い付いた様にパッと笑顔を浮かべて喋り始めた。


「それでねー。今回は皆さんに、アンケートを取りたいと思いまーす!」


 そう言って、また満面の笑顔で大げさに敬礼のポーズをとり、アピールするフリード。そして、その二次元の美少女は、可愛らしくもとれる機械の音声で続けた。


「今からアンケートを出します! 二択だからどっちか好きな方を選んでねっ! 無回答は小数派の方にプラスしますから注意して下さいねー? では、始めまーす!」


 そう言ってフリードは、どうぞっと言わんばかりの素振りを見せる。何かを紹介する様に両手で自分の後ろをアピールし、画面から光の粒子となって消えていった。パッと暗転した後、フリードの顔をデフォルメしたキャラが透かされた、薄い青の画面に切り替わる。


 そして、画面にアンケート内容が浮かび上がる。


 ───────────────

 ・この国の事をどう思いますか?


 A︰まあ、こんなもんでしょ。


 B:逝ってよし!

 ───────────────


 何だこれ?


 それに質問の内容が大雑把過ぎる。


 大体、普通に考えたらこんなの『A』に決まってるだろ。本物かどうかはともかく、本当に爆撃するかも知れない様な危険な奴に、『B』なんて答えたら何をしでかすか分からない。


 当然、俺はそう考えていた。しかし、どうやら世の中の反応は違うらしい。


「何だこれ? はははっ……逝ってよし!」


「えええ……まずいでしょ、それぇ。でも……えいっ!」


 テーブル席のカップルが、ふざけながらお互い画面にタップしている。えいっと大げさにタップする女の方も、どうやら『B』を選んでいる様だ。ふとカウンターの方に目をやると、オカキンが今まさにアンケートに答えようとしていた。


「この国は一回、逝った方がいいんですよっ!」


「ちょっとオカキン君……」


 物知り顔なオカキンと、心配そうな顔で彼の軽率な行動を(いさ)めようとする亜里沙さん。しかし、当のオカキンは逆にそれが嬉しいみたいだ。亜里沙さんに構って貰える、心配されるという事が彼にとっては快感なのだろう。何となくだが俺にも分かる。


 好きな人の前で見せる、若さ故の蛮勇とでも言うのだろうか。無茶する事が格好いいと勘違いしてしまう、男の悲しい(さが)だった。


「うりゃっ!」


 悪ふざけする様なノリで、オカキンが画面をタップした。亜里沙さんの反応を見るに、おそらく彼も『B』だろう。ふと、秋菜の方に目線を戻すと、彼女はどうしていいか分からずにスマホを眺めていた。俺は彼女に自分の考えを話した。


「こんな、何しでかすか分からない様な奴のアンケート、『B』なんて答えたらまずいんじゃないかな? かと言って、無回答は少数派に足すとか言ってるし……多分、少数派は『B』だから、アンケートに付き合うのは馬鹿らしいけど『A』を選んでおく方がいいんじゃない?」


 幾らなんでも『A』が少数派なんてありえない。このアンケートはおそらく、無回答が多数出ると考えて作られているんだ。無回答が全て少数派の『B』に流れれば、『逝ってよし』になる可能性は十分あり得る。

 

 ここは『A』に回答を入れておくべきだ。こいつが本当に、何かする気なのかどうか迄は分からないけど……何となく、こいつからは嫌な予感を感じさせられる。


「そ、そうですよねっ!」


 俺の意見に後押しされたのか、秋菜は決意を込めた目で同意を求めて来た。そして、俺の返事を待たずに『A』をタップする。すると、画面の文字が消え『集計中……』の文字が浮かび上がった。画面はデフォルメされたフリードが、机で書類の束に向かっているアニメーションに切り替わる。どこまでも軽く、ふざけたノリだ。


「ふぅっ……」


 とりあえずやり切ったという感じで、秋菜が横で溜息をついた。それなりに緊張していたみたいだ。解放された様に、どこかホッとした表情を浮かべている。


 この話題で持ち切りになった店内に少し居心地の悪さを感じた俺は、早々に残りのオムライスを掻き込んみ、食後のコーヒーを頼んだ。今日は早めに家に帰ろう。そう思って文庫本をしまいかけた時、後ろのテーブル席の男が声を上げた。


「あっ! 集計終わったみたい!」


 ようやく少し落ち着きかけた店内が、再びざわつき始めた。皆が一斉に手元のスマホやタブレットを確認し出す。すると、気を利かせた秋菜が黙って俺の方に近付いて来た。どうやら俺にスマホを見せてくれる気らしい。俺は遠慮なく、黙って目の前に差し出されたスマホを秋菜と一緒に覗き込んだ。


 顔が近い……。


 少しドキドキしながら横目で秋菜の顔を伺った。秋菜は真剣な表情で画面を見つめている。俺は、自分だけが意識してしまっている事に若干凹みながら、目線をスマホに戻した。


 画面は先程と同じ、デフォルメのフリードが透かされた薄い青の画面に



 ────────────

 結果発表!


 発表まで残り 02:50

 ────────────



 と言う文字が浮かんでいる。

 どうやら、ひとつずつ減っている数字がカウントダウンのつもりらしい。


 後、三分弱……。


 俺には横の秋菜のせいなのか、それともこの異常なアンケートのせいなのか、とてつもなく長い時間に感じられた。


 そして、カウンターがいよいよ00:00に近付く……


 00:03……


 00:02……


 00:01……


「結果発表ぉーっ!」


 いつの間にか皆が無言になり静まり返った店内に、フリードの可愛らしい機械の音声が響き渡った。画面にはにこやかに笑うフリードが現れ、彼女の後ろにはテレビ番組の様な数字のデジタルカウンターが映っている。


 俺はその数字を見て驚愕した。



 ─────────────

 ・集計結果


 A:20,344,711人


 B:35,654,082人 

 ─────────────



 ──あり得ない!


 無回答票が『B』に流れたのか? いや、それなら元々『B』が少数派だった事になる。そんなに無回答がいたなんて考えられない! だったらこの差は何だ? 明らかにおかしい! 無回答票が全て流れても、『A』にはこれだけしか入らなかったって事なのか? それじゃ半分以上の人間が始めから『B』に入れていたって事になる! そんな事って……。

 

 まさか、最初からまともに集計なんかして無いんじゃ……。


 俺がアンケートの不正を疑っていると、画面の中のフリードが喋り始めた。


「結果はこの様になりましたぁーっ! 皆さん、だいぶこの国に不満があるみたいですねぇ……」


 わざとらしい、真面目な振りをした顔のフリードが同情する様な素振りでアンケート結果を振り返る。そして更に、俺の考えを見透かした様に喋り続けた。


「言っておきますけど、この結果は不正なんかじゃありませんからねぇー? ちゃんと集計した、皆さんの正直なご意見ですよぉ? まあ、皆さん自分の胸に手を当てて考えてみれば、この結果に心当たりがあると思いますけどねっ!」


 貴方達『B』に入れたんでしょ、と言わんばかりに見透かした様な素振りで淡々と語るフリード。どうやら本当にこの結果には不正は無いらしい。


 こんな奴の言葉を信じるのもどうかと思うが、何となくこれは真実の様な気がした。事実、この店内にいる人間だけでも一定数が『B』に投票している。


 何て事だ……。


 この国はここまで無責任な人間が多かったのか。確かに、ここ最近はF国との事もあって、政府批判の番組(ニュース)ばかり放送されていた気がするが……おそらくネットでもそうだったんだろう。いくら何でも世論が流され過ぎだ。


 それに一定数はオカキンみたいに深く考えもせず、面白そうだとかそんな理由で投票したに違い無い。そもそも、こんなアンケートなんて他人事で、真剣になんか考えてないんだ。そう……()()()()()()()()()()()()()


 俺がそんな考えに(ふけ)っていると、それを遮る様にフリードの声が聞こえて来た。ふと秋菜のスマホに目線を戻す。


 すると、先程まで全身が映っていたフリードが、画面の中をこちらに向かって歩き始めた。やがて画面はフリードがこちらを覗き込む様な、彼女のアップを映し出す。


 無機質な二次元の目が俺達を見つめる。


「それではこれから、皆さんが選んだ結果を実行に移します。この未来はあくまで、皆さんが自分で選んだ物ですからね?」


 そう告げるフリードの口調は先程までの軽いノリと違い、感情が抜け落ちた様に無表情で抑揚の無い物に変わっていた。


 ──怖い。


 素直にそう思った。まるで、こちらが見られている様な気がする冷たい目。見た目の愛くるしさと先程迄の明るさとのギャップが、更に不気味さを感じさせる。俺はゾクリと背筋に冷たい物を感じた。


「では、皆さんが選んだ今回の試練です! 頑張って下さいねー!」


 パッとこれまでの様な明るい笑顔に戻り、フリードはこちらを覗き込んだまま告げて、そのまま画面から透ける様にして消えて行った。


 そして、皆んな気付いた様だ。画面から消えていくフリードの顔が最後にスッと無表情になり、その後、口角が不気味な三日月型に歪んでいた事を……。


 ここに来てようやく只事では無い様な気がして来たのか、店内は誰も口を開かなくなった。重い空気が俺達を包み込む。誰もが嫌な予感を拭いきれないでいる様だ。


 その時、秋菜のスマホの通知音が鳴った。


 ビクリと反応して思わず画面に目をやると、ニュースサイトのパッチが画面に表示されていた。俺は何気無く目に入った、そのトピックスを見て背筋が凍った……。



『【速報】 国会議事堂、爆破される! テロによる犯行の可能性も──』


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