第24話 記者会見
──堀部博之。
最大与党、民自党の幹事長であり、最大派閥『堀部派』の首領。ある意味、総理よりも権力を持つ、この国の実力者だ。そして、『透明な魔女』が送って来たメッセージの男。この数カ月、沈黙を保っていたこの男が、ようやく動きを見せたのだ。
「確かそろそろでしたよね……記者会見」
萌くんが、そう言って無言でタブレットをカウンターに立て掛けた。
そう。今日、その問題の男……堀部博之が、突然、記者会見を行うと言う発表したのである。その様子はネットでも生配信されるそうで、萌くんはその為に準備している。少し緊張した面持ちで、オカキンと希ちゃんが両サイドに座り画面を覗き込む。俺は、そんな三人の頭越しに同じ画面を眺めていた。最後に亜里沙さんが俺の横に立ち、一瞬、店内を沈黙が支配する。すると、真っ暗だった画面が切り替わり、会見場らしき景色が映し出された。
「いよいよだな……」
ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえて来そうな、緊迫した空気。そんな雰囲気の中、皆の視線は画面の記者会見場に注がれた。無人の長机が映し出され、やがて、にわかにザワ付き始める。画面の視点が移り変わり、会場の奥にある扉が映された。スーツを着た男が扉を明け、中から俺達も良く知る人物が姿を見せる。そう、堀部博之だ。
パリッとしたスーツを着こなし、オールバックにした黒髪には白い物が混ざっている。50代後半と言われる年齢からは想像もつかない程に若い、その見た目。しかも、この年代の人間にしてはかなりの長身だ。男なのに、色気さえ感じさせる様な男……堀部は、あらためて見るとそんな男だった。
「この男と『透明な魔女』。一体、どう言う関係なんだろうね……?」
あの日、どうして『透明な魔女』はこの男の名を伝たのか。
一体、何を伝えたかったのだろう。
この会見を俺達に見せる為?
それとも、何かの警告?
そもそも、この二者はどういう関係なのだろう。敵同士なのか、仲間なのか。わざわざ、俺達にその存在を教えるその意図は? 希ちゃんのその言葉は、俺達全員が抱えている物だった。
「そのうちハッキリするだろ。こいつが魔女の仲間なのか……それとも、もしかしたら、こいつが透明な魔女本人なのか。とにかく、何かしらの動きがある筈だ。この記者会見で……」
珍しく、オカキンが神妙な顔で話した。俺も、そして皆も、無言でその言葉に頷く。そんな中、亜里沙さんが呟いた。
「始まるわよ……」
パシャパシャとカメラのフラッシュが堀部を叩く。暫く無言でその光に晒された堀部は、軽く辺りを見回してから席に着いた。同時にフラッシュが止み、会場が沈黙に包まれる。そんな無数の視線と日本中の注目を浴びながら、堀部は静かに口を開いた。
「マスコミの皆さん、本日は突然の呼び掛けにも関わらず、こうしてお集まり頂きましてありがとうございます──」
ありきたりな挨拶。そして、堀部は決まり文句の様な言葉を並べ終えると、早々に本題へと切り込んだ。
「──この度、私は長年お世話になりました民自党を離れ、有志達と共に新党を立ち上げる決意を固めました。新党の名は『革命党』。今の腐敗したこの国の政治を、私は根本から作り直します!」
ざわ付き始める会場のマスコミ達。またも、カメラのフラッシュが飛び交いだす。慌ただしくパソコンを叩く記者や、スマホでどこかに連絡している記者達が映る。そんな様子を見ながら、俺は思った。
新党?
しかも、革命って……。
何やら不穏な雰囲気を纏ったその言葉に、俺は得も知れぬ不安を覚えた。しかし、堀部の会見は、そんな俺の不安などは気にも止めずに淡々と進められた。
「──国民の皆様には驚かれる方もおられるでしょう。しかし、敢えてそれを承知で申し上げます。我が『革命党』の掲げる政策理念……そして、私達が目指す日本の未来を!」
静かに語気を強め、そう宣言する堀部。しかし、その後の会見で堀部の口から語られたこの国の未来は、俺の想像を遥かに超える、とんでもない内容の物だった──。





