第21話 魔女の罠
※WEB小説の特性を自分なりに活かして書いてみました。本エピソードは『横書き読み』推奨です。(※縦読みだと文字崩れ等の可能性があります)
「──ちぃっ! やられたっ……こいつは罠だ!」
素人の俺が見てもわかる、明らかな異常事態。リーさんのPCの画面には、無数の赤いウインドウが警告の文字とで埋め尽くされた。消しては現れるその警告文に、リーさんの処理は追い付いていない様に見える。
「だ、大丈夫……?」
心配そうに、希ちゃんが声をかけた。しかし、リーさんは答えない。画面を睨みつけ、何やら慌ただしくキーボードを叩いている。どうやら、思ったよりも余裕がない状況らしい。
「こいつっ!! なかなか、タチの悪いウイルスを仕掛けてやがる……」
忌々しそうにリーさんは呟いた。ふと、画面を覗き込む。
■■■■■■■■■■■■■■■■
DANGER!!
this computer is eroded
■■■■■■■■■■■■■■■■
今度は、黄色のウインドウに赤い文字。
危険……
侵食?
「逆にこのPCを乗っ取りに来やがった。このままじゃ、こちらの情報を全て抜かれるどころか、成り済ましでデマを拡散されちまう」
リーさんが状況を説明する。なるほど……確かにヤバい。そんな事をされたら、妖精はおろか萌くん達の信用も地に落ちる。今後、被害者を擁護する様な情報の発信……シークレット・フェアリーとしての活動は難しくなるだろう。信用の失墜は、萌くん達にとって致命傷になり得る。
「電源を切ればいいんじゃ……」
オカキンが思い付きで発言する。勿論、リーさんは反論した。
「ダメだ。既に、何割か情報を抜かれている。それに、こちらの痕跡もとられた。このままりログアウトすれば、直ぐにこちらを特定される!」
やはり、そう簡単な話では無いらしい。一流のハッカー同士のやり取り。素人の俺達が口出し出来る様な物ではなさそうだ。
「既に抜かれた情報……それに痕跡。それらを全て消去する必要がある」
そう言って、リーさんは懐から何かを取り出した。
USBメモリー?
データ等を持ち運ぶ時に使う、アレだ。一体、何かと思っていると、リーさんは徐にそれをPCに差し込んだ。新たに作業ウインドウが開き、またも見た事も無い文字列が表示される。リーさんはそれを確認し、俺達を安心させる様に説明した。
「コイツは俺の自作……こう言う時の為に作っておいたプログラムだ。コイツをインストールしたPCは、キャッシュからそれに関わった物も全て破壊する。このPCはもう、使えなくなるけどな」
言い終わり、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるリーさん。準備が整ったのを確認し、キーボードに指を這わせる。
実行!!
物凄い勢いで無数のウインドウが画面上に展開する。先程まで画面を埋め尽くしていた、禍々しい警告を次々に塗り潰す。やがて、画面の一番手前に作業ウインドウが一つ固定された。
────────────────────
>Install program progress
『❚❚ 』
10%
────────────────────
始まった。
侵食は今も続いているのだろう。夥しい数の警告がバックグラウンドに表示される。今、どれくらい乗っ取られているのだろう。不安だけが募る。
────────────────────
>Install program progress
『❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚ 』
40%
────────────────────
焦る。カウンターの進みがもどかしい。
まだか!
まだか!
「こうなればもう、乗っ取られるのが先か、こちらが逃げ切るのが先か……」
出来る事は全てやった、と言う事か。リーさんは達観した様に画面を見つめている。しかし、表情には出さないが額に汗が滲んでいた。やはり、かなり運任せな賭けなのだろう。
────────────────────
>Install program progress
『❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚ 』
70%
────────────────────
「──!!」
半分を超え、後少しと言う所で異変が起きた。重なり合い、後で表示されていた警告文が点滅を始める。同時に、不安を煽る様な警告音が鳴り響いた。
直感で感じる。
危険!
ヤバい!
もうすぐ、乗っ取られる!
「まだ!? まだなの!?」
泣きそうになりながらリーさんに詰め寄る、希ちゃん。
────────────────────
>Install program progress
『❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚ 』
80%
────────────────────
「後少し、後少しだっ……!」
希ちゃんを、そして、自分を落ち着かせる様にリーさんは言う。
一層激しく鳴り始める、警告音。そして、無数の点滅を続ける『危険』という文字。更に、その様子が明らかに変わる。今までに無い、新しく現れたウインドウ。
■■■■■■■■■■■■■■■■
WARNING!!
WARNING!!
WARNING!!
exit from here now!
■■■■■■■■■■■■■■■■
「ヤバいっ! もうダメだっ……!」
悲鳴を上げるオカキンと同時、リーさんが叫んだ。
「──来た!!」
ほぼ、同じタイミング。リーさんがキーボードを叩く。
実行!!
────────────────────
>Install program progress
『❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚』
100%
> complete!
> cmnd?
────────────────────
「──よし!」
みるみる内に消えていく無数の警告文。その数は次第に減り、やがて真っ黒になった画面に白い文字が浮かび上がった。
──────────────────────
■ We confirmed leaving. mission complete. All data related to this PC has been deleted.
(退出を確認しました。ミッションコンプリート。このPCに関わるデータは完全に消去されました)
──────────────────────
その文字を確認し、フゥッと溜息をつきながら背もたれに体を預ける、リーさん。
「終わった……の?」
亜里沙さんが確認する。リーさんは再び体を起こし、煙草に火を点けながら答えた。
「ああ……終わった。流石に少し焦ったけどな。問題無い。逃げ切った!」
その言葉を聞き、俺達はホッと胸を撫で下ろした。とりあえず、最悪の事態は免れたらしい。しかし……
「まさか、この書き込みが罠だったなんて……」
「決着を着けようとか言いながら、なんて汚え奴等だ!」
俺の気持ちを代弁する様に、希ちゃんとオカキンが思いを口にする。どうやら、俺と同じ気持ちの様だ。だが、秋菜だけが何故か、ジッと何かを考える様に塞ぎ込んでいる。
「どうした?」
気になった俺は声をかけた。同時に、一同が秋菜に注目する。すると、秋菜は気になる言葉を口にした。
「ごめんなさい。どうしても気になって……。あの後半の書き込み……私、気付いちゃったんです──」
読んで頂いてありがとうございました。
応援してもいいよ!って思って頂けたら、評価・ブックマーク等を頂けると嬉しいです。※最新話の最下部から送信できます!
頑張って更新しますので応援よろしくお願い致します。
↓なろう勝手にランキング投票にご協力をお願いします!※クリックするだけです!





