第20話 『妖精』vs『透明な魔女』
──『妖精の隠れ家』PM11︰59分。
ゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。
リーさんの話の後、俺達は全員が店に残っていた。この時の為に。テーブル席を取り囲む様に、リーさんのPCを其々が覗き込む。
俺達が見つめているのは、ある企業のホームページだ。リーさん曰く、この企業の掲示板は『透明な魔女』がいつも踏み台に使うサーバーらしい。なるほど……。確かに、普段から追いかけっこをしてる妖精にしか分からない待合せ場所だ。
「そろそろだな…」
誰に言う訳でも無く、オカキンが呟く。
リーさんの話によると、『透明な魔女』が仕掛けて来るのは、日付けが変わるちょうど0時。あの書込みがあった時刻らしい。
『わざわざ手間をかけて0時ピッタリに書込みをしたのには意味がある筈だ』
とは、リーさんの言葉。確かに、言われてみればあの書込みは異常だ。あそこまで『0』が揃うなんて。まさか、そこにもちゃんと意味があったとは……。
「──来るぞ!」
リーさんの言葉と共に、カウンターの奥、店内の壁に掛けられた時計を見上げる。時計の針は殆ど重なっている。秒針だけが大きくずれ、ゆっくりと『9』の文字に差し掛かっていた。
異常に静まり返る店内に秒針を刻む音がカチカチと響く。長い……。まるで、時の流れに取り残された様に一秒が間延びして感じる。
後、3秒。
2……
1。
「──来た!」
やや大き目の声で呟くと同時、リーさんはキーボードを叩いた。内容が更新され、新たな情報が画面に映し出される。
◆◇
137:お客様名:透明な魔女
2020/06/08(月)00:00:00.00
ID:※※※※※※※※※
おはよう。
やじ馬が煩わしいからこっちで待つよ。
会うのが楽しみだ。ここなら誰も入れない。
しかも議事録を盗めば奴等の悪事を暴ける。
やれば社員が救われるオマケ付きさw
https://www.※※※※※※.com
妖精よ、騙されちゃいけない。
この世界は歪んでいる。
無理に直そうとすれば崩壊するよ?
◆◇
「どう言う事……?」
映し出された書き込みを見て、亜里沙さんが聞く。俺も、その内容を自分なりに整理した。
俺達に向けたであろうメッセージと、聞いた事も無い企業のホームページらしきURL。言葉通りに受け取るなら、『透明な魔女』はこの企業のサーバーで待つと言う事なのだろう。このURLのホームページは、それだけ素人……つまり野次馬には侵入が難しい対策が施されていると言う事か。
どんな方法で俺達と接触するつもりなのか迄はわからない。文面は一見、何の問題もなさそうだが。このホームページに侵入すれば、悪事を暴いた議事録とやらがあるという意味だろう。そして、URLを挟んだ下段の意味深なメッセージ。これはどういう意味だろう……。すると、
「また……縦読みだね……」
ボソリと萌くんが呟いた。
ハッとして、再び画面を覗き込む。萌くんが指摘したのは上の文。俺達をバカにした様なメッセージの方だ。前回の書き込みと同じ様に、その文面を縦読みで読み直す。
「お……や……会……しや?」
「──親会社か!」
辿々しく希ちゃんが読み上げていると、オカキンが言葉にして叫んだ。すぐに気が付いてたのか、リーさんは既にこの企業の親会社を調べている。俺は、その様子を黙って見守った。
「武山製薬……」
あっと言う間に親会社の存在を割り出す、リーさん。彼が口にしたその名は、俺でも知っている様な大企業だ。すると、心配そうな表情で亜里沙さんが問い掛けた。
「難しいの? 侵入するの……」
「この国じゃトップクラスの機密保護だ……この企業は。だが、俺には問題無い」
力強く、問題無いと答えるリーさん。やはり只者では無い。こんな大企業のサーバーに、こうもアッサリと侵入出来ると言い切るなんて……。
すると、リーさんは慌ただしくキーボードを叩き始めた。どうやら、ハッキングを開始したらしい。見た事も無い文字列が画面に並び、何かを打ち込み始める。
◆PASSCODE?
『1qj5※※※※※※※※※※※』
幾つもの作業ウィンドウが重なり合い、目まぐるしく文字列が流れて行く。凄まじいスピードで上から下へ、現れては消えるコードの波。素早く、確実に、一桁ずつ割り出されて行くパスワード。俺達はただ、ジッとその作業を見守った。誰一人、口を開く事も出来ない。
◆PASSCODE?
『1qj54wbn_M2yd7※』
あと、一つ!
ここ迄、僅か二分。殆ど時間はかかっていない。すると、ようやくリーさんがその手を止めた。
「──よし!」
小さく、ホッとした様に呟くリーさん。なんと、リーさんは咥え煙草の灰が落ち切る間に、ハッキングを完了させてしまった。
「凄い……」
思わず、俺は零した。初めて目の前で見る、リーさんの超技術。正直、何をしているのかはサッパリだが、それでも只事では無い事くらいはわかる。
「さて、と。何処にいやがる……『透明な魔女』!」
作業が少し落ち着いたのか、今度は慎重な面持ちでキーボードを叩くリーさん。内部に侵入を果たし、魔女の存在を探している様だ。程無くして、何かを見つけたリーさんが呟いた。
「……このファイルか」
見つけたのは、『to.the.fairy』と名付けられたテキストファイル。俺でもわかる、『透明な魔女』が残した俺達への贈物だ。慎重にそのファイルを検証するリーさん。意を決し、管理画面でポインターを動かすとアイコンに重ねる。
開く。
その時、突然画面にポップアップが表示された。
■■■■■■■■■■■■■■■■
WARNING!!
Your access has been detected
■■■■■■■■■■■■■■■■
まるで画面を埋め尽くす様な、次々に開く赤いウインドウ。不安を煽る様な、危険を知らせる黒い文字。
警告!!
舌打ちしたリーさんが即座に叫んだ。
「──ちぃっ! やられたっ……こいつは罠だ!」
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