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第14話 二回目のアンケート

「──また()やがった……フリードだ」



 リーさんの言葉に一瞬、店内が緊張に包まれた。そして、ハッと思い出した様に、皆がスマホを(いじ)りだす。すると、一番手前にいたオカキンが気を使って、俺の前にスマホの画面を向けて来た。どうやら、一緒に見ようとしてくれているらしい。俺は軽く礼を言って、そのままオカキンの方に一つ席を詰めた。


「ありがとう……」


「スマホを持ってないんだから、しょうがないだろ」


 態度こそ少し面倒臭そうにしているが、案外悪い奴じゃないのかも知れない。それとも、仲間だと思ってくれたのだろうか……俺の過去(むかし)の話を聞いて。そんな事を考えていたら、オカキンが声をかけて来た。


「おい、始まるぞ……」


 動画の再生ボタンを押して、オカキンがスマホを珈琲カップに立て掛ける。俺にも見やすい様に配慮してくれている様だ。遠慮なく覗き込んだスマホの画面には、『通信中』という再生の準備を示す言葉(メッセージ)が浮かんでいる。やがて、動画のストリーミング再生が準備を完了し、あの碧髪の二次元美少女……フリードが姿を現した。


「皆さーん! 元気ですかあーーっ!」


 相変わらず薄い青と白の妖精みたいな服装に、今日は赤いタオルまで首にかけている。今のセリフと言い、(あお)る様な仕草と言い……どう考えても、あのプロレスラーの物まねだ。全く、ふざけている。しかし、そんなフリードの態度に憤っている俺とは違い、オカキンは隣で悶え始めた。


「うおぉぉ……萌えぇ……」


 バカか、こいつは……。


 仮にもテロリストかも知れない相手に、一体何を考えているんだ。しかも、今どき『萌え』って……言葉にする奴を初めて見た。全く、緊張感が無いにも程がある。確かに一部、フリードを可愛いとか何とか言って、持て(はや)している連中(オタク)がいる事は知っている。おそらく、オカキンもその手の連中と同じなのだろう。


 だが、中にはそんな能天気な連中とは違い、フリードを狂信的に(あが)める奴等までいるらしい。世界を改変する為に現れた、救世主だとか何とか言っているそうだ。そして、恐ろしい事に、その考えに同調する者が結構な数でいるらしい。殆どが、現状に不満を持つ刹那的な考えの人間みたいだけど。


 そんな、フリードを崇める連中と、それを支持する傍観者を気取った者達……こいつ等が手を組んで、それなりの数になっているそうだ。全く、呆れた話だ……。世の中の注目を集めると、必ずこの手の(やから)が湧いてくる。まるで、世間を騒がせた凶悪犯にまで擁護派やファンが現れる様に。

 

 まあ、大半は自分が他人(ひと)とは違う感性である事を主張したい、薄っぺらいだけの()()()()()()()()()()()()()()()()なのだが。俺は、この手の連中の事をそういう奴等だと思っている。


 そんな事を考えていると、ふと、視線を感じた。何気なく画面から目を逸らす。カウンターの中から冷たい視線を向けている、亜里沙さんと秋菜。その顔は、明らかに隣で悶えるオカキンを見て引いている。俺は少し気まずくなり、慌てて目線をスマホに戻した。すると、画面の中のフリードが、相変わらず可愛らしい声……に聞こえる機械の声で話し始めた。


「こないだの国会議事堂の爆破、皆んな喜んで貰えたかなー? 皆んながアンケートで『逝ってよし』って言ったから、ちゃんと結果(その)通りにしたんだからねー? ちゃんと望みを叶えたんだから、もっと僕を褒めて欲しいなー」


 そう言って、拗ねた様な仕草を見せるフリード。


「知ってるんだよお? なんかまだ、僕の事をテロリストだとか言ってる人もいるんでしょ? 僕はショックだよ……僕はただ、皆んなのお願いを叶えてあげただけなのに……」


 今度は悲しそうに、落ち込んでいる仕草を見せるフリード。だが、どこまでもその態度はわざとらしい。いちいち大げさな動きや表情が、尚更、俺にそう感じさせているのかも知れないけど。


 今のところ、フリードの正体はF国の工作員ではないかと言うのが大方の予想だ。なにしろ、今からミサイルを撃ち込むなんていう、とんでもない犯行声明を出しているからな……それも、K市という場所(ターゲット)まで言い当てて。あの動画の信憑性はかなり高、何かしら関係があるというのが多数派の見解だ。


 だがしかし、それでもまだF国とは関係ない、騒ぎに便乗しただけのテロリストだという説も未だに根強く残っている。犯行声明を出すなんていう馬鹿げた行動が、一国のやる事だとは思えないという理由からだ。他にも「国内に潜む過激派の仕業」だとか、「只の愉快犯の仕業」だとか、とにかくフリードの正体に関しては相変わらず世論が割れている。


 そんな俺達を嘲笑うかの様に、フリードはまたしても馬鹿げた事を言い出した。


「確かにミサイルは撃ち込んだけど、F国と僕は関係ないからね? あれは試練だから仕方無いんだよ。それに、僕はテロリストなんかじゃない。僕のやる事は、全部、君達の為にしている事なんだから」


 ミサイルを打ち込んだ事は認めておいて、F国と自分は関係ない? 一体、何を言っているんだこいつは……全く意味が分からない。大体、試練って何なんだ。俺達の為って、どういう意味だよ……。


 すると、今まで笑顔だったフリードの表情(かお)から、急に感情が抜け落ちた。突然、スッと無表情になり、抑揚のない声で話し始める。こいつが時折見せる冷酷な表情(あのかお)だ。


「だから、今回は僕が中立だっていう事を証明するよ。勿論、未来を選ぶのは君達だけどね……。一応、言っておくけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。せっかく無回答をカウントしない代わりに、アンケートを三択にしてあげたんだから」


 ──ゾクリ。


 真顔になったフリードは、可愛らしい見た目とのギャップもあって、酷く冷たくて恐ろしく見える。まるで、感情の無い機械の人形……いや、もともと二次元のキャラクターなんだから、寧ろこっちが普通なのか。俺は、そんなフリードの本性を見た様な気がして寒気がした。


 しかし、今回は無回答票をカウントしないのか……。まあ、誰も投票しないなんて事は無いだろうから、アンケート自体は成立しそうだけど。一体こいつ、今度は何を企んでいる……?


 俺がそんな思考に(ふけ)っていると、フリードは再びパッとその表情を笑顔に変えた。


「それでは、今からアンケートを始めまーす!」 


 画面の上部から、安っぽいくす玉が降りて来る。フリードは相変わらず、人をバカにした様な軽いノリで、そのくす玉を割って見せた。キラキラと金銀の紙吹雪が舞い、中から垂れ幕が落ちて来る。


『第二回フリードちゃんアンケート! チキチキ私はどっちの味方でもないよ選手権~!』


 なんだ、これ……。


 パフパフと自らの手で効果音を鳴らし、まるで自主製作の番組の様なチープな映像を見せられる。すると、フリードが子供番組のお姉さんの様に、人差し指を立てて注意を始めた。


「もし無回答が多くても、結果は変えられませんからね! 後悔したく無かったら、皆さんちゃんと投票しましょうっ! それではまた、結果発表で会いましょー!」


 さよーならーと両手を振るフリードは、まるで「また来週」とでも言い出しそうだ。そして、そんなフリードがそのまま、光の粒子となって消えて行く。すると、ゆっくりと画面が暗転を始め、前回と同じ様なアンケート画面が浮かび上がった。薄い青の背景に、デフォルメされたフリードの透かし。そして、その中に不気味な白い文字が、徐々に画面の中央で浮かび上がった。


 二回目のアンケート。


 俺は、その内容を見て戦慄を覚えた。




 ──────────────────

 ・どちらかを殺します。どっちがいいですか?


 A:日本の総理大臣。


 B:F国の大統領。


 C:いやいや、どっちもダメでしょ!

 ──────────────────


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