第13話 其々の得意分野(武器)
「──この世界には、とんでもない『悪』が存在しているかも知れないんだ」
見えない何かに脅える様に、萌くんは俯き加減で呟いた。
「とんでもない悪?」
一体、何の事だろう……俺は思わず聞き返した。すると、会話を横から奪われていた希ちゃんが、再び説明をし始めた。
「さっきの話……私達が普段やっている事。あんな事ばかりしてるんじゃないって言ったでしょ?」
晒し行為。確かに希ちゃんはさっき、望んでやっている訳ではないと言っていた。あれは、あくまで最終手段だと。
「私達は皆んな、其々が役割を持って活動しているの。自分が出来る範囲で……其々の得意分野を使ってね」
そう言って希ちゃんは、ニコッと笑いウインクした。
其々の得意分野?
俺は希ちゃんから視線を外し、他のメンバー達に目を向けた。未だに俯いたままの萌くんと、何やら得意気な表情のオカキン。奥にいるリーさんは、無表情のままノートPCを見つめている。
ふと視線を横にやると、心配そうな顔で俺達のやり取りを見ている秋菜と、優しい笑顔で見守ってくれている亜里沙さんが見えた。俺が一通り皆んなに視線を向け終えると、見計らった様に希ちゃんが説明を始める。
「これでも、萌くんはアニメ関係のブログで物凄い数の読者を持っているの。オカキン君の事はもう、知っているかな……彼はユアチューブで。但し、ファンの数よりもアンチ方が倍くらい多いんだけどね」
「うるせえ! わざと狙ってやってるんだよ!」
オカキンの突っ込みが入る。ヘカキンとかいう奴のネタをパクっているという話は知っていたけど……あれ、わざとやっていたのか。何でまた、そんな事を……。
「アハハハハ! 解ってるってば! アンチがいた方が盛り上がるからね! 閲覧数稼ぐ為にわざと炎上させてるんでしょ? 全く、鋼のメンタルと言うか何と言うか……あれだけ叩かれてもケロッとしてるんだから。ほんと、オカキン君にしか出来ない芸当よね」
「俺はもう、失う物なんて何もないからな。亜里沙さんの役にたてるなら、何でもするさ……『妖精の隠れ家』は俺の全てだ。ここを守る為だったら、亜里沙さん以外に何を言われようが関係ない」
何だかオカキンが格好いい……。パクリ行為は全部、亜里沙さんの為……『妖精の隠れ家』の為にやっている事だったのか。ちょっと見る目が変わって来た。急に格好つけた喋り方で、さり気なく亜里沙さんにアピールしている姿はウザいけど。
そんな、自分の世界に浸り始めたオカキンを他所に、希ちゃんは説明を続けた。
「そして、ボクの得意分野はコスプレ。こう見えても、結構レイヤーとしては有名なのよ? ボクも一応、ブログをやってるんだ。そして、これがボク達の武器……自分で言うのも何だけど、これでも結構、ボク達はネットで影響力を持っているんだ。其々の得意分野でね」
小悪魔っぽく、可愛らしい笑顔を浮かべる希ちゃんと、フッと格好つけて得意気な顔になるオカキン。その隣では、萌くんが照れくさそうに俯いている。
萌くんはアニメ、オカキンはユアチューブ、そして希ちゃんはコスプレか……。確かに以前、オカキンはアンチとはいえ、その影響力は大した物だと亜里沙さんも言っていた。なにしろ、日本でもトップクラスのユアチューバ―、へカキンに堂々と喧嘩を吹っかけている様な物だからな。そっちからも相当、視聴者が流れ込んでいるんだろう。
ただ、驚くべきは、そのオカキンと同等の影響力だと言い切る萌くんと希ちゃんのブログだ。この二人、ネットではそんなに有名人だったのか……。
「リーさんの武器は知ってるよね……ボクもそこまで詳しくないからよく分からないけど、とにかくPCに詳しいの。ネットとかプログラムとか? とにかく、困った事は大抵リーさんなら解決できちゃうんだ。そして、そんな私達を纏めているのが、リーダーの亜里沙さん。秋菜ちゃんは入ったばかりだから……私達もまだ、そんなに詳しくは知らないんだけどね」
そう話した希ちゃんの視線を受けて、秋菜は少し気まずそうに微笑んだ。ここで働きだしたのも最近だし、シークレット・フェアリーに入ったのは同じタイミングだったのかも知れない。だとしたら、秋菜もまだメンバーに加わったばかりだという事か。
そして、リーダーはやっぱり亜里沙さんか。予想通りと言うか、何と言うか……なんとなく、そんな気はしていたけど。そんな事を考えていると、希ちゃんが視線を俺に戻して再び説明を始めた。
「ボク達の活動っていうのはね、其々が得意分野で情報を拡散して、ターゲットを救ってあげようっていう物なんだ。悪意の書き込みに困っていたら、真実の情報を流してあげる。心ない書き込みに傷付いていたら、擁護する様な流れを作って癒してあげる。そんな活動なんだよ。そして、それを妨害しようとする悪意が、どうしようもなく手に負えない時だけリーさんにお願いするんだ」
あくまで、間接的に情報を操作しているという事か。発言に拡散力があるメンバーだからこそ出来る方法っていう訳だ。
「それでも、最初は本当に必要最小限の警告から始めるんだよ? 他の人の目につかない様に、リーさんが特定したダイレクトメールとかを使ってね。ネット上に晒すのは、本当に最後の最後。こっちの警告をハッタリだと思い込んで、信じてくれない様な相手だけ……それ以上その人を放置していたら、本当に誰かの心が壊されてしまいそうなくらい、危険な相手の時だけさ」
希ちゃんはリーさんを庇う様に、振り返って彼の方を見つめた。リーさんは、悪意の塊の様な危険な相手にも最大限の配慮をしている。確かにそこまでやって引かないのなら、それはもう自業自得の様な気がしないでもない。俺は、希ちゃんの話を聞いてそう思った。
『シークレット・フェアリー』の活動は俺が思っていた以上に、その効果を期待できるのかも知れない。オカキン達の様なネット上で影響力のある三人が、協力して被害者を擁護する……それも、間接的に。
そして、その裏では、事の元凶となる様な行動をする対象をリーさんが特定し、人知れず改心を促す。それも、『妖精』というハンドルネームが持つ、自分の個人情報を晒されるかも知れないという脅しをチラつかせて。そして、それでも改心しない相手の場合のみ、その力を使って強制的に排除する。
酷く独善的に聞こえるが、被害者にとって救いになる行為である事は間違いない。少なくとも、俺はそう思う。理不尽な悪意に対し、こんな独善的な考えがあってもいいんじゃないかって……。
無責任で無自覚な悪意に対し、ここまで配慮を見せる彼女達なら、間違った晒し行為を奮う様になるとも思えないし。
『シークレット・フェアリー』に入ってもいいのかも知れない。
俺が一人、そんな決意を固めようとしていると、カウンター越しの亜里沙さんが話し始めた。
「ただ、最近その活動が何者かによって妨害され始めている痕跡があるの。まだ、はっきりとした事は分からないんだけど……リーさんでも特定できないくらい、物凄く巧妙に仕掛けて来てるらしいわ。そのせいで、希ちゃん達の拡散力も半減しているの。さっき萌くんが言ってた、とんでもない悪……。最近になってようやく分かった事なんだけど、おそらく『透明な魔女』と呼ばれている正体不明の存在よ──」
「──おい」
そう説明してくれていた亜里沙さんの言葉を、今まで無言を貫いていたリーさんが遮った。鋭い視線はPCのモニターから逸らさずに、無表情なまま低い声でリーさんが告げる。
「──また現やがった……フリードだ」
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