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第12話 ネットの世界に潜む悪

「ふう……やっと着いた」



 一時間に数本まで減った特殊ダイヤの在来線に乗り、俺は町の中心部にある駅に着いた。改札を抜け、『妖精の隠れ家』がある方へと繋がるアーケードに向かう。四日ぶりに来たアーケード街は、以前と少し雰囲気が変わっていた。


「さすがに減ったな……」


 駅前に溢れ返っていた戦争に抗議する団体や、K市への支援を募るボランティアが少ない。ここ何日かの物資不足で、それどころでは無くなったのだろう。あんな活動など、所詮、生活に余裕があるから出来る物だと俺は考えている。国の戦争や被災地より、何よりも目の前の自分の生活……。誰だってそうだ。そんな事は当たり前で、別に悪い事ではない。俺は、人間なんてそんな物だと思っている。


 かわりに少し、いつもより若者が多い様な気がした。俺は、相変わらず点々と営業している店がまだ残る、アーケードの中を歩きながらそれを眺める。学校が休みで暇なのか、まるで台風で臨時休校になった時の様な、浮ついた雰囲気。どこか、この非日常を楽しんでいる様にすら見える。俺はそんな彼等を横目に、店がある雑居ビルの前まで辿り着いた。


 やはり、看板の電気は点いてない。


 前回と違い、然程落ち込む様な事も無く、俺は傍にある階段に足をかけた。そして『Closed(閉店中)』とプレートがかけられたドアの前に立つ。声はここまでは聞こえないが、中に人がいる事は分かっている。この店の常連客達……いや、シークレット・フェアリーのメンバーが。


 俺は軽く深呼吸をし、意を決してドアの持ち手に手をかけた。ゆっくりと引いたドアの真上から、カランコロンとドアベルが音を鳴らす。こんなに五月蠅(うるさ)かったっけと、響き渡る乾いた音を聞いて俺は思った。一呼吸置くと、店内から声を掛けられる。


「待ってたわよ、夏樹君?」


 思いのほか明るい声で、ニッコリ笑う亜里沙さん。間違いなく店は休みの筈なのに、何故か今日はメイド服だ。何気無く見渡した店内の雰囲気も、前に来た時よりは明るい様な気がした。


「ど、どうも……」


 何となく気まずくて、つい不愛想な返事を返す。しかし亜里沙さんは、そんな事等は気にしないという素振りで、気さくに話しかけて来た。


「あ、これ? うん……なんとなくね。最近、暗いニュースばかりだし、気分転換にはちょうど良いかなって思って」


 そう言ってメイド服の襟元を摘まみ、おどけて見せる亜里沙さん。暗い雰囲気にならない様に、気を使ってくれているのが伝わって来る。こういう所はやっぱり大人だな……。俺も、暗い顔ばかりしてたら申し訳ない。


「やっぱり、亜里沙さんはその姿が一番ですね……何だか安心します」


 俺も、敢えていつも通りの態度で答えた。上手く笑えているかは分からないが、精いっぱい愛想笑いを浮かべて。そんな俺の気持ちを察したのか、亜里沙さんは優しい表情(かお)で微笑んで、俺を店内へと招き入れた。視線の先では、いつもの常連客達がカウンターでくつろいでいる。俺は彼等の後ろを通り抜け、促されるままにいつもの席へ向かった。カウンターの一番奥、左端の定位置へ。


珈琲(いつもの)でいいですか?」


 カウンター越しに秋菜が聞いて来た。彼女も今日はメイド服だ。おそらく、亜里沙さんに言われて付き合っているのだろう。俺がそんな事を考えていると、秋菜は照れながら説明して来た。


「あ、今日は私が淹れるんです……夏樹さんの珈琲。まだまだ練習中ですけど……だから、代金とかは気にしないで下さいね?」


 練習台という訳か。まあ、店自体は休業中なんだし、淹れ方(仕事)を覚えるには丁度いいんだろう。


「そうなんだ……ありがとう。じゃあ、いつもので頼むよ」


「はい、畏まりました」


 俺が答えると、秋菜は嬉しそうに頷いて準備を始めた。


 コポコポとサイフォンから珈琲の香りが漂い始める。そんな中、最初に口を開いたのは希ちゃんだった。俺との間にオカキンと萌くんを挟み、覗き込む様にして話しかけて来る。


「もう来なくなっちゃったのかと思って心配したよぉぉーー!」


 明るい笑顔を浮かべ、そう口にする希ちゃん。その、いつも元気なキャラクターは、とても辛い過去を抱えている女の子には見えない。俺は、今日もピンク色の髪の毛をした彼女を見て、素直にそう思った。


「ああ……ごめん。こないだはちょっと、いきなりだったから驚いちゃって……」


 そう言えば、挨拶以外でこうして他の常連客とまともに話すのは初めてだ。いつも、傍で亜里沙さん達との会話を聞いていただけだったから……。


「ボク達の秘密(過去)の事? それとも()()の事?」


 俺のそんな想いを他所に、希ちゃんはズケズケと踏み込んで来る。俺は、思ったまま正直に答えた。元々、今日はこの話をするつもりだったんだから。


「正直、()()()()かな。皆んなが俺と同じだったなんて、思いもしなかったし。それに、まさかあんな活動までしてたなんて……」


 そもそも、シークレット・フェアリーなんて存在は考えてもいなかった。まさか、店と常連客が裏で繋がっていたなんて……。前回よりは幾らか落ち着いて話す俺に、希ちゃんは答えた。


「まあ、そりゃそうだよね……普通はビックリするよね!」


 アハハハと俺に同意して笑い、更に続ける希ちゃん。


「でも、誤解しないでね? ボク達だって、()()()()ばかりやってる訳じゃ無いんだよ? あれは、あくまで最終手段。今までだって、殆どあそこまでした事は無いんだから。その事だけは分かって欲しいんだ……」


 表面上は笑っていても、どこか辛そうな笑顔に見える。説明する希ちゃんの表情(かお)を見て、俺はそんな風に感じていた。


 あんな事……。


 希ちゃんが言っているのは、俺が気にしている『()()()()』の事だろう。やっぱり、彼女達も気にしていたんだな……。それに、俺がその事に引っ掛かっている事も、どうやらお見通しだったみたいだ。


「わかってる……わかってはいるんだ、頭では。でも、どうしても引っかかってしまうと言うか、気になってしまうと言うか……」


 俺がそんな想いを打ち明けた時、ピクリとリーさんが反応した様な気がした。確かに、リーさんにとっては辛い話なのかも知れない。好きでやっている訳ではないのに、自分のしている事を否定されている様な物なんだから……。すると、その様子を見ていた萌くんが口を開いた。


「夏樹さんは分かっていませんよ……。僕達がどんな想いで……どんな覚悟で、こんな事をしているかなんて。分かっていたら、そんな綺麗事を言える訳が無い!」


 普段は大人しい萌くんが珍しく声を荒げた。そして、暗く激しい憎悪を滲ませながら、静かにそれを吐き出す。



「──この世界には、()()()()()()『悪』()()()()()()()()()()()()()()()()


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