その9
祭は淡々と説明を始めた。
「龍の卵を産んだ前例は、私たちの周囲という意味で言えば2回あります。両方とも、一条家の黄龍さまの卵です。一度目は鈴露さまのお母さま、麗さんが産みました」
「鈴露がお腹にいる時ってことか?」
ミコトが尋ねると龍が答えた。
「そうだよ。凛くんの影響から少しでも我が子を逃れさせるために、麗さんは黄龍さまの卵を産むという道を選んだ」
「麗さんは、お力がとても強かったようですが、逆にそのぶん、子供に力という意味での栄養が行かなくなる、生命力が弱まるのではと考えたようです」
「母は…」鈴露が細い声で言う。「祖父と俺を救ってくれた…そのことを、俺はこの場所に初めて入った時に、祭から聞かされた」
「あの時の鈴露さまは、何だかいじけモードで、自分が愛されてないとか、ぐちゃぐちゃ考えていたみたいだったから…つい」
「本当は秘密だったの?」
「そう。私は禁を破ったの」
「まさか、それを償うために卵を産んだの?…あ、でも、産んだのは青龍さまの…」眉間にしわを寄せて腕組みするメイ。
「禁を破ったことを償うためではないの。生まれてくる子どもが青龍さまからいただいた、その力を鈴露さまにあげるためよ」
「あ。つまり…」メイが掌をポンと叩く。「“赤の子は龍の子を開き、龍の子は赤の子を閉じる。これぞ二つの命の理。悪しきもの清らに流れ、真の祭は己が役目を終える”。この意味とも連動しているわけね」
「どういうこと、メイさん」
「青龍さまの力を持って生まれる赤ちゃん、“赤の子”は、黄龍さまの子である“龍の子”の鈴露の力を開いて安定させる。それが終わったら、青龍さまの子供…若青龍さまより若いから…若青龍ジュニアさまは、赤ちゃんの力を閉じて安定させる」
「なるほどね…」頷くミコト。
「そうやって生命が回っていくのが、“二つの命の理”。で、鈴露の中にあった悪しきものが流れて、祭ちゃんはお役目を終える、ってことでしょ」
「前回の解釈よりしっくり来るっていうか、目の前で起きたことだからなあ」笑うミコト。
「でも、別の解釈があるのよね。ミコトさんがらみの…」
「まあ…真大祭とのからみで、別の解釈があるってことだろうけど…」
「まあ、後でまた考えるわ」
「そうだね。まだ祭まで時間があるし」
ニッコリ笑うミコトに、一同は思った。
“いや…そんなに時間はないような…”
「ええと、卵二つってことは、生まれてくる子どもも双子なのかしら?」話題を戻すメイ。
「そのようだね。西園寺家は双子が生まれる率が高い」龍が言う。
「男の子か女の子かも、もうわかるんですか?」
「さあ」微笑む龍。
「あの…話が戻るんですけど」鈴露が言う。「黄龍さまの卵を産んだひとりが、うちの母なのはわかりました。もう一人というのは誰なんですか?」
「紗由ばあちゃんよ」淡々と答える祭。
「ええっ!!」同時に声を上げるミコトとメイ。
「どういう流れでそんなことになったんだ? それだと、うちの母より先に産んでるってことだよね、しかも青龍さまの卵ではなくて黄龍さまの卵を…」
「それについては私から話そう」大斗が口を開いた。「産んだのは紗由ちゃんがお腹に駆くんを身ごもっていた時だ。理由は…簡単に言うなら、一条家のためだよ」
「一条家のため? ばあちゃんが父さんを産んだのって、確か24くらいでしたよね。その時点で何かあったんですか?」
「黄龍さまの具合がよくなかったんだ。卵を産む時期なのに、それに耐えられそうになかった。だから、本来龍神が産むときにはそれなりの大きさの卵なのだが、例外的に、ウズラの卵程度の大きさの時に、紗由ちゃんのお腹に入れて産ませたんだよ」
「待ってください。それだと、ばあちゃんと父さんが、卵に力を与えたってことですか?」
「まあ、そうなるね」
「正直、私も無理があると当時は思ったよ」龍が言う。「紗由と子供への影響もわからなかったし。でも、紗由が大丈夫だっていうんだ。しかも、おばあさまも応援するって言いだして…誰も逆らえなくなった」
「つまり、それって…」鈴露がうつむいた。「うちの祖父の件で弱っていた黄龍さまを助けるため、つまりは祖父のせいってことですよね…」
「黄龍さまは、自分が凛くんにしたことに責任を感じていらっしゃった。それで無理をし過ぎたのだろう。それが裏目に出たんだよ。でも、一条家の人が責任を感じることではないから」
大斗が言うと、ミコトが心配そうに聞く。
「それって、もしかして、父さんに何かの影響が出たんじゃないんですか?」
「ええ。出たわ」きっぱり答える祭。
「そうなのか?」
「黄龍さまの義兄弟みたいなものでしょ。清流旅館の跡取りにはなれなくなったの。つまり、最初から父さんは八代目にはなれないの」
「えーっ!!」声をそろえるミコトとメイ。
「じゃあ、祭ちゃん。ミコトさん、九代目じゃなくて八代目になるの? 華織さんのご宣託はハズレ?」
「いいえ。八代目は私が半年間だけ」
祭の答えに、ミコトとメイは、そろって首を傾げた。
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