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その7

 メイは龍の腕を強くつかんだ。

「どういうことでしょう…? 今は会えないって…」

「いるのは確かだ。会えないというのはおそらく…」

「儀式中とか、具合が悪いとか、二人が俺たちに会いたくないと言ってるとか」ミコトが言う。

「理由が何であれ、進みましょうよ」メイが言う。「ここまで来ちゃったんだし」

「まあ、そうだね」笑う龍。


 砂利道を進みながら、ミコトは龍に尋ねた。

「あのー、さっき龍おじさんが見た青龍さまって、メイさんが言うところの“古いの”だったんですか?」

「うーん。それが若青龍さまだったんだなあ」


「まあ、今、清流旅館を守ってくださっているのは、そちらですよね…」頷くミコト。

「でも、私、古い方とお話したし」

「部分復活的な感じだったんだよね? 真大祭までに、俺の力が開かれて、古の青龍さまは完全復活。真大祭は滞りなく執り行われる…」


「あ、あれ、見て!」メイが指を刺し叫ぶ方向を見ると、小屋があった。

「何の小屋だろう?」

「私、ああいうの、前に福井県の文化遺産で見たことあるわ」

「何なの?」

「産小屋。出産のための場所よ」


「え! 祭が産気づいたのか??」

「何言ってるの。まだ臨月じゃないでしょ」

 ケラケラ笑うメイをよそに、龍が難しい顔になる。

「それもありかもしれない…」


「はあ? だからまだお腹も目立ってないし…せいぜい数か月だと思うんですけど…?」

「古の青龍さまに変わって、祭が産むのかもしれない」

「はああ?」ポカンと口を開けるメイ。

「青龍の卵を祭に産ませるとでも?」

「代理出産?? 龍の卵を???」メイが龍ににじり寄る。「おじさま…いくら何でもそれはないですよ。だって、祭ちゃんのお腹には鈴露の赤ちゃんがいるんだし…」


「赤ん坊が二人でも問題はないよ。順番に産むわけだから」

「でもそれだと、青龍の卵を産んだ後、半年たってから人間の赤ちゃんを産むってことですか?」

「それって、女性の体としてありなんですか?」わけがわからないというふうのミコト。

「まさか…青龍の花嫁の話って…そういうことなの? 産ませる母胎としての花嫁…とか」


「卵なんて産んだら、祭の体は大丈夫なのかなあ。お腹の赤ちゃんに影響ないのかなあ…」

「影響はあるだろう」

「じゃあ、止めないと!」

 慌てて走ろうとするミコトの腕を龍が掴む。

「悪影響とは言ってない」

「いいことなんですか?」メイが尋ねる。

「前例があるんだ」

「どなたか、青龍さまの卵を産んだんですか?」

「いや、黄龍さまのだよ」

「黄龍って、一条家の守り神…の?」


 その時、メイが小屋の扉に手をかけた。

 開けようとした扉は、内側から開かれ、白衣姿の男性が現れた。


  *  *  *


 その頃、清流旅館では、翔太と紗由の祭壇の前で、奏子、真里菜、史緒がおしゃべりに花を咲かせていた。

「咲耶ちゃん、せっかく来たのに帰っちゃったの?」真里菜が史緒に聞く。

「ええ。ミコトたちが奏子ちゃんちの裏の方から帰る時、途中で立ち寄るんじゃないかと思ったらしくて…まこちゃんも一緒に帰ったわ」

「そうよね」奏子が言う。「きっと龍が、うちから咲耶ちゃんちへの“どこでもドア”を教えて、東京に行かせるわよね」

「真大祭まで、あまり時間もないものね。その他にも東京で、ドラゴンブルと華音ちゃんちに行くわけでしょう?」


 奏子が祭壇の紗由の写真に向かって言う。

「紗由ちゃんが、あちこちにばらまくから、ミコトくんたち大忙しよ」

“大丈夫。ミコトだもの”

「そうね。そして、祭も大丈夫ね、きっと」真里菜が言う。

「まさか紗由ちゃんと同じ道を歩むとはねえ…」

 3人は小さくため息をついた。


  *  *  *


 小屋の中にいた男性を見て、メイは驚き叫んだ。

「大斗おじさま!?」

「久しぶりだね、メイ」

「え、ええ…あの…なんでおじさまがここに?」

「悠斗兄さんと華音義姉さんもいるよ」

「え? え??」


 混乱するメイの横に、龍が立つ。 

「お疲れ様、大斗くん」

「ご無沙汰しております、龍の宮さま」

 恭しく頭を下げる大斗。


 二人の様子を見ていたミコトは、そっと近づいていく。

「あのー、じいちゃんとばあちゃんの葬式の時にいらっしゃいましたよね?」

「ちゃんと挨拶するのは初めてになってしまったね。高橋大斗です。メイの祖父の悠斗の弟です」

「その節はありがとうございました」頭を下げるミコト。


「大斗くんは神命医をしているんだ」

「え? そうだったの??」

「メイちゃん、知らなかったのかい?」苦笑する龍。

「自転車で旅行ばかりしてて、家にいない悠々自適のおじさんだと思ってました」

「まあ、そんなもんだけどね。行く先々で神命医の仕事をしているというだけで、自転車でふらふらしているのは事実だし」笑う大斗。


「あの…ところで、ここに祭はいるんですか? 龍の卵を産むんですか?」

 心配そうに尋ねるミコトの肩を、大斗は笑顔でポンポンと叩く。

「もう生まれたよ」

「は?」

「今回は2個産んでもらった」

「2個か…そうかあ」感慨深げな龍。


「それで…祭は大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。元気にしてる。産むと言っても、眠りに落ちている間に、子宮に入れた卵が産道から出て来るというもので、妊婦に苦痛をもたらすものではないんだ。卵の大きさもウズラの卵くらいだし」

「え?? そんなに小さいんですか?」

「お腹の中にいる人間の子と絆を結び、力を与えるためのものだからね」

「そうなんだ…よかった…」


 ミコトがほっとした時、小屋の中から鈴露が飛び出して来た。

「先生! 来てください」

「鈴露…!」

 ミコトは反射的に小屋の中へと駆け出した。


  *  *  *


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