その6
ミコトが駆け付けると、そこにはバラバラになったタンスの木片が重なっていた。
その上に、青龍がとぐろを巻きながら座していたが、龍とミコトの姿を認めると、ふわりと天に消えた。
ドラゴちゃんはというと、木片の上に浮かび、キラキラしていた。足元には巾着がある。
「えっと…タンス、壊したの?」
「違うわ! 一番下の引き出しの鍵穴に、宝箱のカギを差し込んだら、いきなりメリメリっていって、バラバラっていって…壊れちゃったの」
「で?」
「その中から巾着が出てきて…ドラゴちゃんがそれを開けて、中身を自分にかけた…のよ」
「かけた中身って…」
「“カケラ”じゃないかしら」
「うーん」
メイが言う状況を確認していくミコト。
「ところで、祭と鈴露は?」
「青龍さまが連れて行っちゃって…」
「はあ?」
「今、タンスの上にいらっしゃったのは青龍さまだったのでは?」龍が尋ねる。
「え?…すみません、見ていませんでした…」
「青龍さまは、祭と鈴露くんをどこに連れて行ったんだい?」メイを見つめる龍。
「具体的な場所は言ってませんでしたけど…祭ちゃんと鈴露のために作った伊勢へつながる道、みたいなことを…」
「そうか…」龍がため息をつく。
「おじさん、心当たりがあるんですか?」
「私の家の敷地内に鳥居がある。伊勢につながる場所だ」
「伊勢に?」首を傾げるミコト。
「関係者の家なんかはグーグルマップで全部見てますけど、そんな場所どこに…?」メイも首を傾げる。
「その手のものには引っかからないよ」笑う龍。
「連れて行ってください、そこに」
「うーん…私はガイドにはなれない」
「どういうことですか?」
「私が場所を貸し、紗由と翔太が、祭と鈴露くんのために作ったものだ。だが…今、その鳥居に入れるのは祭と鈴露くんだけだ」
「“トリイ、ハイル!”」
「え?」
振り向く3人の視線の先には、キラキラしたドラゴちゃんの姿。
「そうか…」
龍が着物の袂から取り出した石を掲げると、ドラゴちゃんが腕を上げて叫ぶ。
「“イイモノ!”」
「この石は、紗由が亡くなる一週間前、自分の石を預かってほしいと言ってきた時に、おまけだからと、くれたものなんだ」
「この石が欲しいの?」
メイが尋ねると、ドラゴちゃんは尻尾をぶんぶんと振る。
「“ホシイ!”」
「じゃあ、あげよう」
龍が石を差し出すと、受け取るドラゴちゃん。
「うわ…キラキラがさっきよりすごいや」
「“トリイ、ハイル!”」
「もしかして…この石って、その場所への入場券みたいなものなんじゃ?」
ミコトが言うと龍が頷いた。
「おそらく、そうだろう」
「あの…石がひとつで何名まで入場できるんでしょう」
真顔で聞くメイに、龍が笑い出す。
「みんな、入れるよ」
「よかった…」
「じゃあ、行こうか。心配はないと思うが……」
「思うが?」
「いや、とにかく行こう」
ミコトは、少々歯切れの悪い答えをする龍をいぶかしく思いながら、再び、龍の家へと向かった。
* * *
龍の家の離れの裏の竹に覆われた小径をしばらく歩くと、竹がなくなり、視界が開けた、
遠くに鳥居が見える。
龍はその前でピタリと止まり、ドラゴちゃんを抱っこした。
すると、まるで目の前に透明な壁があるかのように、ドラゴちゃんは左手のひらで空気を横に撫で始めた。
ドラゴちゃんの手が、ある一点で止まる。
「“ココ!”」
龍は、ドラゴちゃんの左手に自分の右手を重ねた。
ドラゴちゃんがグッと空気を押すと、二人の重なった手は空気を押し破る。
そのとたん、サーっと一陣の風が吹き、空の雲が姿をひそめた。
「お伊勢さまかな…?」
「本物?」
半疑問形のミコトと疑問形のメイ。
あたりをきょろきょろと見回し、意見がそろう二人。
「知ってる伊勢と違う…」
「一般人が入れないエリアだ。“伊勢の奥”と呼ばれる、“命”の機関が置かれている場所」
「メイさんと俺、一般人なんじゃ…」
そう言いつつも、どんどん鳥居に向かって歩いて行くミコト。
「二人とも“命”の血筋だから問題ない」
龍の言葉にドラゴちゃんが反応する。
「“トリイ、ハイル!”」
反射的に鳥居の前で止まり、一礼するミコトとメイ。
ミコトが駆け足気味に、メイがそっと鳥居をくぐると、その先に青龍神の後ろ姿が見えた。
「おひげがちゃんと見えないわ。どちらの青龍さまかしら…?」
「髭で判別してるのかい」下を向いて笑う龍。
「あとは声ですね。古の青龍さまは、お声が速水奨みたいで、若青龍さまは三木眞一郎みたいです」
「青龍さま!」
ミコトが唐突に叫ぶと、青龍神は振り向いた。
「古いほう!」
メイが叫ぶと、ぎろりと睨む青龍。
龍は、舌を出すメイの横で名乗りをあげる。
「“西園寺の命”西園寺龍にございます。“一条の命”一条鈴露さまと、その妻、祭はこちらでしょうか?」
「そうだが、今は会えぬ」
青龍神は、それだけ言って姿を消した。
* * *




