その4
ミコトが龍に電話で質問していた時、龍は清流旅館へ向かう車の中だった。
ミコトからの質問を、龍は、電波が悪いからと切ってしまった。
「説明は清流旅館でなさるのですか?」
「そうだな…皆、集まるし、ちょうどいいかもしれない」
「そうですね…」奏子は複雑な表情になる。
探偵事務所の面々が約束していた“今夜”には、まだほど遠い時間だった。
だが、真里菜、史緒、充がもう到着していると連絡を受けた奏子は、龍に一言「参りましょう。宿泊の荷物はもう用意できています」とだけ告げ、車に乗り込み、じっとしていた。
このままずっと車で夜まで待たれても困ると思った龍は、華音に連絡をすると、奏子の待つ車に乗り込んだ。
「ねえ、あなた…まさか、2回続けてなんてこと…」
「ミコトは紗由の孫だということだな」
龍は小さくため息をつきながら微笑むと、右手を開き、そこにある石を見つめた。
「それは、まさか…」
「紗由はおまけが大好きだった。もらうのも、あげるのも」
見つめる奏子に、龍は微笑み、言った。
* * *
車の中で、鈴露はミコトに言った。
「真大祭に関して引っかかることって何だよ」
「鈴露は力を使って読めるんだろ」
「今、俺…力がない時期というか、時間なんだ…」
「え? そんなのあるんだ」
「凛じいさんの影響で、力が不安定なのはわかってるよな。極力それを安定させるために、“力”を使える時間、使えない時間を設定されているようなんだ」
「つまり、儀式に最大限使えるように調整されているってこと?」
メイの問いに、鈴露は小さく、そうだよと答えた。
「鈴露はさあ…」ぼんやりとミコトが問う。「その力を、別のことに使ってみたいと思ったこと、ある?」
「え?」
「“命”どうこうじゃなくて、一条家どうこうじゃなくて、その力の他の使い道、考えたことある?」
「ないよ、そんなもの。俺は一条家に生まれて、一条家の人間としてすべきことを…」
言いながら、段々声が小さくなる鈴露。
「能力者って、皆、そうみたいだよな」
「何が言いたいんだ…」
「龍おじさんの世代って、ちょっと変だよな。能力バブルっていうか。それを扱える大人たちが限られているのに、やったら、みんな力がある」
「必要だから生じたんだろう」
「何に必要だったわけ?」
「“命”制度を保つために…じゃないのか」
「でも、西園寺家や、西園寺と関りが深い家の能力者が続出しても、はぶられるだけだよね」
「それも見込んでいたって、小説には書かれていたわよね? 華織さんと神との契約」メイが言う。
「ねえ。小説に書かれたことは、すべてが事実なのかな?」
「あ…そこを疑ったら、私たちがいろいろ追っている意味が…」戸惑うメイ。
「意味なんて、自分たちで探し出せばいいんじゃないの」
「“イミ、ミツケル”」
「ドラゴちゃんも、俺に賛成か?」
ドラゴちゃんの頭を撫でるミコト。
「ミコトは壊したいわけ?」イラついた口調で尋ねる鈴露。「これまでの歴史を。じいちゃんや、ばあちゃんが、やってきたことをさ!」
「違う。検証だよ」
「検証?」
「じいちゃんや、ばあちゃんの気持ち、勝手に決めないで確認したいんだ、自分の五感で」
「誰が勝手に決めたっていうんだ? 今まで皆、彼らを尊重してきたじゃないか」
「鈴露、車止めて」メイが言う。「ちょっと休憩しましょう、あそこのコンビニで」
「わかった…」
鈴露は車をコンビニの駐車場に入れた。
「落ち着きましょう、ね」メイが微笑む。
「落ち着いてるよ」不機嫌そうな鈴露。
「鈴露は、ミコトさんより、じいちゃんばあちゃんといる時間が多かったんでしょうから、自分の方が彼らを理解していると、どこかで思ってる」
「そんな…ことは…」
「ミコトさんは、今まで知らなかった分、知る前に先立たれてしまったぶん、必死に知ろうとしている。鈴露や祭ちゃんとは視点が違う。…私もそうだけど」
「メイちゃん。ありがとう。でも、もういいよ」微笑むミコト。「立ち位置が違えば、見える景色も違うんだ」
「私は思うの」メイが言う。「ミコトさんの立ち位置も、鈴露の立ち位置も、どちらも必要なの。いろんな見方をわきまえて、ニュートラルになる。それが必要なんだと思うの」
「そういう検証と、真大祭を滞りなく執り行うことと、どういう関係があるんだよ。ミコトの力を開いて祭にのぞめというのが、華織さんのご宣託なんだろ?」
「“赤の子は龍の子を開き、龍の子は赤の子を閉じる。これぞ二つの命の理。悪しきもの清らに流れ、真の祭は己が役目を終える”。華織さんが残したのはこれだけ。あとは皆の解釈で、俺がキーパーソンみたいになってる」
「そうね」祭が頷く。「皆、そう思ってるんじゃないかな。おにいちゃんは異論があるの?」
「異論というか、60年後に向けた華織さんのご宣託と、真大祭の神箒って、重ねて考えることなのかどうかなって思えて来たんだ」
鈴露、祭、メイ、それぞれに複雑な表情でミコトの言葉を聞いていた時、ドラゴちゃんが叫んだ。
「“セイリュウサマ、キタ!”」
「え?」
皆、一斉にドラゴちゃんを見つめた。
* * *




